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松永和紀のアグリ話

微妙に変化?ポジティブリスト「一律基準値」の行方

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2005年3月30日

 2006年から始まる残留農薬ポジティブリスト制が、これまで説明されてきた方針から少し変わるかもしれない。28日に薬事・食品衛生審議会農薬・動物用医薬品部会が開かれたのだが、焦点の「一律基準値」についての厚生労働省課長の発言が、今までと違う。より現実に合った制度になる可能性が出てきた。

 課長の発言を紹介する前に、ポジティブリスト制について簡単におさらいしよう(本欄では、昨年7〜9月に5回にわたって解説しているので、そちらも参照してほしい)。ポジティブリスト制は、世界で使われる農薬(約700種類)について、食品(作物や畜水産品など)に残留してよい量(基準)を定めてリスト化し、基準を超える食品の製造、輸入、販売を禁止する制度だ。これまでに第2次案まで公表されている。

 基準は科学的な根拠に基づき決められる。まず、農薬そのものの安全制評価が必要。さらに、食品によって農薬の残留の程度が違い、人が摂取する量なども異なるので、各食品について1つひとつ試験データや摂取量などを評価して基準値を決めていく。大変な時間、手間、コストを必要とする。

 現在のところ、244種類の農薬と約130種類の農作物の組み合わせにより8000あまりの基準がある。ポジティブリスト制移行により、制度開始までに理論的には700×130=91000の基準を決めなければならない。

 しかし、実際には栽培試験などをすべてこなして科学的なデータを集めるのは不可能だ。そこで、既に設定されている約8000の基準以外は、暫定的に基準値を設定することになっている。Codex基準がある場合はこの数値を用い、ない場合は農薬登録の判断基準である「登録保留基準」を採用する。国内で農薬登録されておらず登録保留基準も設定されていない場合は、米国、EUなど外国の基準を採用する。

 それもない場合、つまりどこの国でも科学的な評価が行われていない時には、「人の健康を損なう恐れのない量」として「一律基準値」を採用する。厚生労働省がこれまで検討してきた数字は、0.01ppmだ。

 この一律基準値がどこでも悪評ふんぷんだった。パブリックコメントでも、「低すぎる」「リスク管理上の根拠がない」等、意見が続出。消費者団体も建前としては「消費者の安全サイドにたっており、評価できる」としているが、担当者の本音を問えば「ちょっと厳しい。食品業界は大混乱に陥るかもね」とつぶやく。それが実情だった。
 ところが、28日の審議会で、厚生労働省の基準審査課長がこれまでと異なる発言をした。「検査をしようという事業者が、実際上検査できないのはちょっと難があるかもしれない。いま少し悩んでみたい」と言ったのだ。
 事情を知らない人にとっては「判じ物」のような発言だが、これは「この一言を聞きたくて、ここに来たんだ」と言った傍聴者もいたほどの大きな意味を持つ。実は、ポジティブリスト制の対象となる約700の農薬の中には、まだ実用的な検査法が確立されておらず0.01ppmという低い濃度は測れない、すなわち定量できない農薬がかなりある。有無は分かっても、責任を持ってこれだけの量入っていると言い切ることができないのだ。
 基準ができれば、それを守れるように生産管理し、サンプリングして残留濃度もチェックして、基準を遵守していることを確認するのが生産者の責任だ。ところが、基準値が0.01ppmでは、検査で確かめることができない。食品企業や農業現場に近い自治体職員などは、激しく反発していた。
 課長の発言は、この状況に問題があることを認め、再検討を始めたことをうかがわせる。一律基準値自体の数値を、0.05ppmあるいは0.1ppmに上げるのか。あるいは、定量できる限界が0.01ppmよりも高い農薬については、それぞれ定量限界を基準値とするのか。いずれにしても方針転換の可能性が出てきた、と私はみる。
 一律基準値については、もう一つ問題点が指摘されている。農水省も2月、厚労省に意見書を提出し、同省が28日の審議会で公表した。意見書の文言は事務的なものだが、実態は両省の“ぶつかり合い”、いや面白がって“けんか”と言ってもよいかもしれない。次回、報告する。 (サイエンスライター 松永和紀)

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