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松永和紀のアグリ話

ダイズの残留農薬2ppmはOKで、エダマメ0.02ppmはダメの謎

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2005年4月6日

 残留農薬ポジティブリスト制実施に向けて検討している厚生労働省は、前回紹介した審議会で重要な資料を委員に配布した。「日本生協連 残留農薬データ集IIについて」と、農林水産省農薬対策室長名の意見書だ。この2つを突き合わせて考えると、国内農業の重大な危機が見えてくる。

 日本生協連に関する資料は、同商品検査センターが1997〜03年に実施した残留農薬検査結果(約5200サンプル、約120万項目)を厚生労働省が解析したもの。ポジティブリスト制の現在検討中の残留基準案(現行の基準とCodexなどを参考にして決めた暫定基準案、一律基準値0.01ppmから成り立つ)を当てはめた場合に、どの程度基準超過が出てくるかを予測している。

 それによると、国産品では2444検体のうち67件が基準を超過した(2.74%)。内訳は、一律基準超過47件、暫定基準超過14件、現行基準超過6件。一律基準超過はすべて、その作物への使用が国内外で認められていない農薬だった。中でも多いのはエダマメの15件で、すべてエダマメには使用を認められていないプロシミドンが一律基準値を超えて検出されたものだ。

 輸入品では、2606検体のうち基準超過は56件(2.14%)。内訳は、一律基準超過29件、暫定基準超過13件、現行基準超過14件。一律基準を超過したものは、国産と同様にその作物への使用が国内外で認められていない農薬だった。ホウレンソウの基準超過が18件あり目立つが、そのうち11件は中国産によるクロルピリホスだった。

 厚生労働省は、エダマメのプロシミドン残留やホウレンソウのクロルピリホス残留について、使ってはいけない農薬を使った「適用外使用」であり、「ポジティブリスト制への施行においても許容されるべきものではない」とした。そのうえで、全体の解析結果を「暫定基準等の施行に当たって大きな障害が発生すると想定させる結果ではないと考える」と結論付けている。つまり、0.01ppmという一律基準は過剰に低いものではなく妥当だ、ということだろう。

 この資料が、国内の農業現場に波紋を呼んでいる。怒っている人も少なくない。その理由は主に3つある。

1)国産品が輸入品よりも「引っ掛かる」ことがはっきりした。

 国産=安全・安心という“神話”が浸透しているためか、国内農業関係者の間ではポジティブリスト制対策が遅れ気味。しかし、04年7月28日付けの本欄でも書いた通り、国産の方が基準超過しやすいことが、データで示された。

2)厚労省は、農薬の残留基準超過の主な理由を農家の適用外使用と決めつけて、ドリフト問題を無視した(ドリフトとは、農薬を散布した時に対象区域外へ飛散、漂流する現象)。とりわけ、エダマメのプロシミドン残留の解釈に、農業サイドから異論が出ている。

 厚労省担当者は審議会で、プロシミドンがダイズでは使用を認められているがエダマメでは使えないことを説明し、適用外使用とした。エダマメはダイズの未熟なものなので、暗に「生産者が勘違いしたのでは」という意を込めているように聞こえた。しかし、ある研究者は「エダマメにおける残留濃度がかなり低い点が気になる」と話す。資料によれば、基準値超えとなった15件のうち13件は、プロシミドン検出値が0.02〜0.08ppmで、低い。「プロシミドンは作物の体内での吸収移行性が高いと言われており、農家が間違えて使用したのであれば残留濃度はもっと高くなってもよい。

 これだけ低いということは「ドリフトの可能性がある」と研究者は指摘する。実際に、プロシミドンはダイズやレタスやキャベツ、キュウリ、スイカ、アズキなどに広く使えるごくポピュラーな農薬。近くの畑で散布したプロシミドンが風に乗って飛んでくる現象は起こりうる。

 本来ならば、基準超過したエダマメが栽培されていた畑の現地調査を行い、農家の農薬使用状況を聞き取り調査し、栽培実験を行ってプロシミドンを使用しその残留性を調べてやっと、適用外使用かドリフトか検討できるというものだ。生協のデータからはそのような科学的な検証は行えない。にもかかわらず、厚労省は「適用外使用」と判断してしまった。

3)人の健康リスクの上昇にはつながらない基準超過が多いことが、明確になった。

 プロシミドンの場合、ダイズではエダマメの200倍の2ppmまで残留が許されている。アズキやエンドウ、コマツナなどの基準は5ppm。つまり、エダマメに0.02ppm残留していても、健康には全く影響しない。

 多くの分析関係者は、ポジティブリスト制施行後の実際の基準超過割合は、今回の生協連データ(2.47%)よりも高くなるだろう、と踏んでいる。この2、3年で農薬の分析技術は急速に向上し、より少量をより多くより速く、測れるようになっているからだ。

 以前にも書いた通り、ポジティブリスト制の暫定基準と一律基準値0.01ppmは、科学的根拠の薄い「とりあえず」の数値。しかし、高度な技術を駆使して多くの分析機関が測り始めれば、さまざまな農薬で続々と、「悪意なきドリフト」による「人の健康リスクとは無関係の基準超え」が見つかる可能性がある。

 このことは、日本生協連のデータ解析を待つまでもなく、かなり以前から予測されていた。農水省も今年2月、農薬対策室長名で一律基準値に関する意見書を厚労省担当課長宛に出している。審議会で公表された資料によれば、農薬対策室はドリフトなどを理由に、厚労省が検討している制度への懸念を表明。「既にADI評価がなされている農薬については、当該ADIを尊重すべきと考える」と意見している。

 つまり、ADI(一日許容摂取量)評価がなされているということは、その農薬の成分について試験が行われ、毒性が把握されているということ。農薬の残留基準はそのうえに、作物の残留制や摂取量を勘案して決められる。多くの農薬は、ADI評価はなされているものの作物側のデータが不足し、一律基準値を適用されている。

 農水省の意見は、「少なくともADIが分かっているものについては、ある程度科学的に類推して基準を設定してもよいのではないか」ということだ。この考え方を採用すれば、プロシミドンのエダマメの残留基準を、ダイズを参考にして決めることは可能だろう。なんといっても、ダイズを若採りするものがエダマメなのだから。

 しかし審議会では、厚労省は農水省の意見書を委員に紹介したのみで、見解は示さなかった。生協連のデータに基づき、「大きな障害が発生すると想定させる結果ではない」としたところを見ると、農水省案を採用する気はないようにも思える。

 長々と書いてしまったことを、お許しいただきたい。実は、4月13日に次の審議会が開かれ、厚労省の新たな方針がおそらくこの場で示される。前回書いた検査技術の問題と、国内農業現場の抱える問題点について、厚労省はどう対処するか。来週は、注目の審議会結果を報告したい。(サイエンスライター 松永和紀)

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