ホーム >  FoodScience過去記事 > 松永和紀のアグリ話 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

松永和紀のアグリ話

農ポジ制、一貫性欠く例外基準登場に関係者は徒労感

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2005年4月13日

 残留農薬のポジティブリスト制を検討する薬事・食品衛生審議会農薬・動物用医薬品部会が13日開かれ、焦点の一律基準値について一部変更する事務局案が出され、委員に了承された。結論から言えば、問題点の一部は改善されたが、農業現場の願いは「無視」された。速報する。

 なぜ、一律基準値が焦点なのかは、前回、前々回をお読みいただきたい。厚生労働省は0.01ppmとすることを検討してきたが、農薬の種類、性質を問わず一律に設定する数値のため、
1)定量限界が0.01ppmより高い農薬、すなわち0.01ppm程度の微量は測れない農薬にまで、適用される
2)日本のように狭い地域での栽培では、周辺で他の作物に散布された農薬が飛散しかかってしまうドリフトが起きる可能性がある。ドリフトが原因の健康影響がない微量残留まで、基準オーバーとして取り締まり対象になってしまうなどの批判が起き、農水省も意見書を提出していた。

関連の記事:
農薬・動物用医薬品部会(3月28日開催)配付資料一覧

 結局、13日の部会で厚労省が示したのは、1)への対応策。2)については、全く触れなかった。1)の対応策の中身をご紹介しよう。

 これまでの審議でも一部委員から「一律基準を0.01ppmにしても、測れない農薬がかなり多い。0.05ppmならばほぼカバーできる」という指摘が出ていた。今回、厚労省は分析法が厚労省の部長通知で定められている農薬261品目について、定量限界を調査。次のような結果を公表した。

定量限界0.01ppm以下   163品目(62.5%)
0.01ppm超〜0.05ppm以下   82品目(31.4%)
0.05ppm超〜0.1ppm以下   8品目(3.1%)
0.1ppm超          8品目(3.1%)

 つまり、4割近い農薬は、一律基準値として0.01ppmを設定されたところで定量できず、行政の監視も生産者の基準遵守もやりようがないのだ。これ以外の農薬については、分析法を確立するための研究が行われている最中で、定量限界どころか測定自体がまだ無理。

 こうした事態を踏まえ、厚労省が出した対応案の主な内容は次の通り。
(1)一律基準は、これまで通り0.01ppmとする
(2)ただし、0.01ppmまでの分析が困難な農薬でこれまで一律基準の0.01ppmが適用されていた農作物については、定量限界の値を暫定基準として設定する
(3)分析技術の進歩に伴い定量限界がより低くなった時には、暫定基準も見直していく

 察するところ、こういうことだろうか。一度方針として出した一律基準0.01ppmを緩めて全体を0.05ppmにシフトするのは、消費者の理解を得られない。一方で、測れない規制値を設定してしまっては制度の実効性自体が疑われる。ならば、測れないものについてだけは、とりあえず例外としてもう少し甘い基準(測定できる限界値)にしてあげましょう—-。

 厚労省担当者の説明を受けた委員の一人、国立医薬品食品衛生研究所の食品部長の反応が興味深かった。同研究所は、分析法を検討している当事者だ。定量限界0.01ppm以下で測れる分析法をより多くの農薬で確立しようと、涙ぐましい努力を続けていることは、私も以前から耳にしていた。

 食品部長は、「例外をとるのなら、最初から言ってもらえればよかった。繰り言を言っても仕方がないが」ともらしたのだ。これまでの審議でも、分析の専門家は「0.01ppm以下の定量は難しい」と言い続けてきた。それを押し切って、厚労省側が0.01ppmという数値を主張し続けてきた。

 食品部長は「こんなことなら、これまでの定量限界を下げる努力の代わりに、もっと測定できる農薬を増やす方向で頑張っておけばよかった」という思いだったのかもしれない。公の場での正直な一言が、現在検討されているポジティブリスト制の混乱を象徴しているように思えてならない。

 厚労省は委員の了承を受け、2次案まで公表されている暫定基準の最終案を、5月末には公表する予定であることを明らかにした。また、14日の食品安全委員会でも制度について説明し、審議を開始してもらうという。ポジティブリスト制自体は、食の安全という観点から見れば一歩前進の制度である。

 しかし、分析技術の違いによって簡単に例外を設けるような一律基準値や、分析法の定量限界をそのまま適用したり諸外国の基準の平均値をとるような暫定基準が、科学的な根拠に乏しいことは言うまでもない。食品安全委員会は、科学的根拠に基づいて健康影響評価を行う機関だ。厚労省が同委員会にどのように説明するのか、同委員会はどう審議するのか。今後も注目していかなければならない。(サイエンスライター 松永和紀)

⇒ 松永和紀のアグリ話記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。