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松永和紀のアグリ話

日本版フードガイドには食育も期待

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2005年5月11日

 フードガイドという言葉をご存知だろうか。どんな種類の食品をどの程度の量食べたらよいかという食生活のおおよその指針のことだ。農水省と厚労省が現在検討している。「なんだ、食事指導か。つまらない」と言うことなかれ。先行してガイドを作った米国では、食品企業と研究者、国が激しい“攻防戦”を展開し、関連ニュースが新聞の一面をたびたび飾ったのだ。

 米農務省が一日に摂るとよい食品をピラミッド型の絵で表現した「フードガイドピラミッド」を作ったのは1992年。ピラミッドが4層に分けられ、穀物、野菜、果物、乳製品、肉、油脂や菓子類の一日の目安量が分かる。食品が上下に並び序列化しており、穀物や野菜、果物が重要な位置を占めていることは一目瞭然だ(厚労省資料に、図が掲載されている)。

 栄養学者らが練り上げたこのピラミッドは、印刷直前になって発行中止を求められた。抗議したのは肉や乳製品の生産者団体。彼らは、人々がこのピラミッドに従えば肉や乳製品を食べなくなる、と心配した。

 業界や農務省長官がどのように介入したかを書いたのが、今年1月に出版された「フード・ポリティクス〜肥満社会と食品産業」(新曜社)。農務省長官が18年間下院議員を務めた後に農業生産者団体などから推されて長官になったことなどを説明し、業界が長官を動かして発行中止させたことを示唆する。

 なにせ、著者がこのピラミッド作成の当事者の一人、Marion Nestle氏だけに話が生々しい。発行直前で止められた案をどのようにして週刊誌「Newsweek」に提供したか、つまり情報をリークしてマスメディアに農務省を批判させたかまで明らかにしている。

 結局、紆余曲折を経てピラミッドはほぼ原案に近い形で公表された。マスメディアが一連の攻防を書き立てたために、かえってピラミッドの認知度は高まった。Nestle氏は「科学が政治を凌駕した」と評価する。一方で、「これ(ピラミッド)が人々の食生活を改善したかどうかは別問題である」と正直に記している。米国では今年4月、改訂版として新しいピラミッドが公表された。今回のピラミッドは、上下に階層分けしていないところが、なんとも気になるデザインだ。(米農務省のページ参照)

 こんな話を知ると、日本のフードガイドがどうなるのか気になるところ。現在まで識者を集めた検討会が4回開かれている。主食、主菜、副菜、牛乳・乳製品、果実という区分けとし、図の形は逆三角形のコマ型だという。米国のように各業界がフードガイド策定に向けてロビー活動を展開している、という話も聞かない。このまま穏当に決まっていくのだろうか。

 逆に、あまりにもインパクトがなく話題にならないまま忘れ去られないように、委員や農水省、厚労省は知恵をしぼる必要がありそうだ。(厚労省の審議会のページのフードガイド(仮称)検討会参照)

 実は、私は個人的にフードガイドの必要性を強く感じている。農水省や厚労省は、成人向けの図を作り、30ー60歳代の男性肥満者や単身者、子育て世代をターゲットにするようだが、子どもの教育にも使えるものにしてほしい。

 娘が小学5年の時、家庭科の時間にバランスのよい食事の摂り方を学んできた。ノートを見ると、「おもに体をつくる働き」として牛乳や魚介類など、「体を調子を整える働き」として野菜や果物などが書かれている。ところが、「おもに熱や力のもとになる働き」の欄を見ると、どこにも「ごはん」がない。「コメ」もない。

 最初は信じられなかった。なんといっても、コメは日本人にとってもっとも重要な主食だ。ばか娘が書き忘れたのだと思い、叱りつけた。だが、娘は「先生が黒板に書かなかった」と言う。クラスメートのノートにも書かれていなかった。先生がコメを説明するのをすっかり忘れてしまったのだ。

 これが学校教育の現状だ。先生ばかりも責められない。家庭の食事もひどい。2年前に出た少し古い本だが、「変わる家族変わる食卓〜真実に破壊されるマーケティング常識」(岩村暢子著、勁草書房)が面白い。広告代理店のマーケティング調査をまとめたものだが、主婦たちがビールやヨーグルト、ゴマ、みりん、トマトジュースなど健康に良さそうなものをぶちこんだ我流カレーを自慢したり、キュウリを丸のままドンと食卓に乗せたりする姿を、写真を豊富に使って説明している。

 このような姿は、国などのお行儀のよい記述式調査では出てこないだろう。なぜならば、回答者の表向きの顔は、本物志向であり安全、健康、手作りに気を配る主婦だからだ。だれだって改めて尋ねられれば、そう答える。しかし、私の実感としてはめちゃくちゃ料理の主婦の顔の方が本当だ。

 フードガイドが、食生活を改めて見直す大きなきっかけとなればよいのだが。中途半端な図解ではなく、デザインが優れ、子どもが見てもカッコいい日本版フードガイドが欲しい。学校では授業の題材とし、家庭では冷蔵庫に張っておいてそれを見ながら献立を考えたり親子で会話したりできたらいい。

 おそらく、国際社会から浮くことを覚悟で過剰なBSE対策をやるよりも、このフードガイドを良いものにして認知度をあげる方が、食のリスクは下がり日本人の健康度は上がるだろう。皮肉なことだが、たぶん間違いない。 (サイエンスライター 松永和紀)

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