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松永和紀のアグリ話

米国流「消費者団体への徹底批判」術

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2005年6月22日

 消費者団体が特定の食品や化学物質などへの批判を繰り広げ、マスメディアがその内容の確かさを吟味することなく取り上げるケースが後を絶たない。その状況は米国でも同じのようだ。米国科学保健協議会が先日、活動家団体の主張に対してジャーナリストがどう対処したらよいかを示すガイドを公表した。いやはや、私も耳が痛い。

 ガイドのタイトルは「Good Stories, Bad Science: A Guide for Journalists tothe Health Claims of “Consumer Activist ”Groups」。発表した米国科学保健協議会は、300人以上の科学者や医師などが関わる消費者教育団体。活動家らによる「『○○は健康にこんなに悪い』とか『効果がある』などとする主張は、科学的な証拠があるように見えるが、実際には都合の良いデータだけに基づくなどしているだけだ、と説く。
 具体的にはまず、活動家らが根拠とする研究が多くの場合、学術誌には掲載されていないことを問題とする。学術誌に載る場合には、第三者である専門家が審査し、筆者に突き返したり追加データを求めるなどしてよい研究と認められたものだけを掲載する。しかし、消費活動家らが根拠とする活動は、だれの審査も受けずに公表されたものが多いのだ。
 さらに、一つの研究結果だけでは、理論や仮説として認められるものではないとする。追試されて確認されて初めて、それは確かな説となる。そして、それは動物実験なのか、ヒトを対象とした試験なのか、動物実験の場合には、ヒトでは絶対にあり得ないような大量投与の結果現れているリスクではないのか、なども検討すべきだ、とする。

 最終的に、メディアは消費者団体の主張をもっと疑ってかかるべきだ、として、活動家団体に以下のような質問をするようにジャーナリストに提案している。

(1)その研究は、独立した研究グループによって行われたものか(例えば、大学組織なのか、実績はあるのかなど)
(2)特定の研究に関する報告書なのか、あるいはポジションや意見を表明するようなプレスリリースに過ぎないのか
(3)もしそれがプレスリリースならば、それは特定の研究の成果に言及したものなのか(その成果は出版されているのか。学会発表や未出版の場合には、成果は確実なものではなく、予備的な調査結果に過ぎないことが読者にも伝えられるべきだ)
(4)発表のタイミングはどうなのか(立法に関わるような議論や決定のタイミングを狙っていないか)
(5)消費者団体は、製品の回収や警告など極端な反応を求めているのか、そのような動きを支持するような研究がほかにもあるのか
(6)研究は、動物実験なのかヒトでの実験なのか(動物実験の結果ならば、なぜそれはヒトにとっても当てはめて考えることができるのか)
(7)その研究結果は、科学文献における現時点でのコンセンサスとみなしてよいものなのか

 この提言は、ジャーナリストだけでなく一般市民も消費者団体や活動家の動きを見極める点でとても有効だ。これらの団体は、学術誌に載らない研究成果を基に主張を繰り広げる場合に往々にして「学術誌に掲載されるには時間がかかりすぎる。リスクに直面しているのだから、不確かなデータであっても早く公表した方が、ずっと一般市民のためになる」という言い方をする。

 確かに、現在の学術誌掲載の現状から見れば、この意見にも一理ある。要は、消費者団体などが発表する内容を、ジャーナリストや一般市民が吟味して取捨選択する「目」を持てばよいのだ。それにはかなりの「勉強」が必要であることは言うまでもない。
 興味深いのは、米国科学保健協議会が、実際に4つの団体の主張を検討したうえでこの提言をまとめており、検討の内容を公表していることだ。アクリルアミドやβカロテン、養殖サーモンのPCB蓄積、スクールバスのディーゼル排気など、日本でも関心の高いテーマが取り上げられ、消費者団体の主張の根拠のなさやレトリックなどが、徹底的に批判されている。もちろん、団体の名称も関係者の名前も、明記されている。

 さらに、この提言の最後には、米国科学保健協議会のディレクターやアドバイザーの名簿が付いている。大学の研究者や病院の医師などが多い。つまり、批判する側も名を明かし、その提言に責任を持っている、というわけだ。

 では、日本でこれが可能だろうか。大学の研究者が団体を作って名前を明かし、消費者団体を徹底批判するだろうか?消費者団体のメンバーは、ボランティアで活動している人も多い(中には、それで生計をたてているプロ市民もいるけれど)。多くの研究者が「いくら間違っているとはいえ、そんな弱い人たちを攻撃しなくても」と思ってしまうのではないか。研究者だけではない。

 マスメディアも、その中に生息する私のようなフリーランスのライターもどこか、「私たちは庶民の味方。消費者団体を批判するのは弱い者いじめ。国など強大権力を批判する方がかっこいい」と紋切り型のイメージに捕われている。そして、追及の手を緩めたり、わざわざ相手の消費者団体の名前を伏せたりしてしまう。

 その結果、日本でも欺瞞と不遜に満ちた消費者団体や活動家がのさばっている現状がある。そうした団体を甘やかすことで、私たち自身もその団体からの攻撃を逃れることができる。互いに、生温い世界に身を置いてしまっているように思える。

 私やほかのジャーナリストたちは、このぬるま湯から抜け出すことができるだろうか。日本の研究者たちは、これから立ち上がることができるのだろうか。今が正念場、である。(サイエンスライター 松永和紀)

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