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松永和紀のアグリ話

GMこぼれおち、ずさんな調査で説得力もなし

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2005年6月29日

 生活クラブ生協千葉主催の「自生GMナタネ調査監視活動報告集会」が20日に開かれた。だが、報告を聞き配布資料などを熟読した私は、考え込んでしまった。「これほどずさんな調査がまかり通ってよいのだろうか。この集会は、市民運動の先行きに暗い影を落としかねないのでは?」。読者の皆様のご意見を、ぜひ訊いてみたい。

 監視活動は、輸入された遺伝子組み換え(GM)ナタネがこぼれて自生したり近縁種と交雑するのを防ぐのが目的。全国の生協や市民団体などが3月から5月に港や幹線道路沿いなどでセイヨウナタネや在来ナタネ、カラシナの葉や茎などを採取して、GMかどうか検査している。全国の調査結果は、まとめられて7月9日に発表されるが、生活クラブ生協千葉は県内調査分を先行発表したようだ。

 調査には、同生協千葉の7ブロックの組合員のほか生産者グループ1つと政治団体「市民ネットワーク千葉県」が参加した。検査方法は全国共通。一次検査は、市民自身がイムノクロマト法の試験紙で調べる。葉や茎などをすりつぶして調製した抽出液に試験紙を浸し、抽出液中に除草剤耐性タンパク質があれば、抗原抗体反応が起きて試験紙に赤い線が現れる、という仕組みだ。簡単で、輸入港での検査などにも取り入れられているごく一般的な試験法である。

 一部の検体については二次検査も行う。検査機関に依頼し、PCR法というやり方で除草剤耐性遺伝子の有無を確認する。結果は、採取した285検体のうち、1次検査で陽性、すなわち除草剤耐性ありとの結果が出たのが38検体。さらに陽性が出た検体の一部と、1次では陰性と判断したものの「怪しい」と思われたもの計33検体を2次検査にまわし、1検体が陽性という結果が出た。

 監視活動を呼びかけ、検査の手引きを配布するなどして指導してきた「遺伝子組み換え食品いらない! キャンペーン」の天笠啓祐代表は千葉での報告集会における講演で、「イムノクロマト法は極めて精度が高い。PCR法はミスが多く出るので、二次検査が絶対というわけではない。千葉県中から疑わしい検体が出てきたというのはとても重要」と発言した。

 では私はなぜ、「この調査は非科学的で重要ではない」とみるのか? 報告内容や配布資料、別途入手した遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン作成の「自生GMナタネ監視活動の手引き(修整版)」を基に、ご説明しよう。

 まず、天笠氏も「1次と2次でこれだけ違いが出る、というのは想定外だった」と気にしていたが、やはりこの結果はおかしい。普通は、GMならば1次も2次も陽性である。これだけずれがあるということは、採取と検査のどこかに大きな問題があるのだ。

 常識的に考えるなら、(1)1次検査で見誤った(2)2次検査の試料調製がうまくいかなかった—-という2つの理由が有力だろう。1次検査で使われた試験紙の取り扱い説明書を確認したところ、注意書きとして「葉をサンプルとした場合には、線が出る部分にライトブラウンや黄緑色が出ることがあるが、これは陰性である」とわざわざ書いてある。こうした注意は、監視活動の手引きでは触れられていないが、試験した生協組合員などにはきちんと伝えられていたのだろうか。

 また、報告では、検体を採取した日付やどのように保存した後に検査したか、という説明が全くなかった。これらのことは、植物中のたんぱく質や遺伝子を確実に保存し、ほかの検体や微生物などからの汚染が起きていない試料を得るうえで、極めて重大なポイントである。しかし、そもそも手引きには、これらを明確に指示する記述がない。報告したグループの中には、1次検査で陽性反応が出た検体のその後の保存状態が悪く2次検査に提供できなかったことを、明らかにしたところすらあった。

 さらに気になるのは、植物の同定、つまり採取した植物を「これはセイヨウナタネ」「こちらは在来ナタネ」などと決定する作業が、かなりいい加減に見えること。監視活動の手引きには、葉や茎の形状や色、質感などで見分けるように書いてあるが、実際には区別は専門家でも容易ではない。従って、専門家はDNA量を測定するなどして判定している。

 なぜ、植物の同定問題が重要かといえば、除草剤耐性を持つのがセイヨウナタネなのか、在来ナタネやカラシナなのかによって、意味合いが大きく異なるからだ。セイヨウナタネであれば、輸入されたGMナタネがこぼれて自生しただけかもしれない。しかし、在来ナタネ(これは、国産ナタネという意味ではない。在来ナタネは、セイヨウナタネとは種が異なる)やカラシナで除草剤耐性が見つかったとなると、自生したGMナタネと在来ナタネやカラシナが交雑して繁殖しているのかもしれない。種を超えて、組み換え遺伝子が移行し拡散していく可能性が出てくる。

 しかし、今回の調査で唯一、1次検査でも2次検査でも陽性になった検体の種は、配布資料では「不明」となっている。これでは、データの解釈は不能である。

 報告と講演を聞いての私の結論は「これは科学的な調査結果ではない。この報告を紹介して結果を一人歩きさせては、千葉県農業に風評被害を産み出しかねない。従って、私はこの結果をどこにも書かない」だった。しかし、農業紙と全国紙一紙が記事にしたようだ。そこで、この場で詳しくご説明した次第。

 市民が自分たちの手で検体を採取して調べる動きが近年、盛んになっている。松葉のダイオキシンを調べる運動もある。しかし、いくら市民参加型調査とはいえ、科学的なアプローチを欠かしてはならないだろう。きちんとした指導者を置き計画をたて、試料の採取や保存、検査法など厳密に定めて、最善を尽くして実施すべきではないか。

 今回の場合、千葉県だけで285検体も調査している。全国調査では、いったいいくつの検体を採取し調べることになるのか。研究者が逆立ちしてもできないような大掛かりな調査だ。科学的にもう少し信頼性の高い検査が行われていれば、貴重なデータになったはず。しかし、こんなずさんな調査では、「参加することに意義がある」でしかない。ボランティアで調査に参加した人々、検査にかかる高額の費用(2次検査は1検体2万円)を負担した人々の善意が、無駄になるだけだ。
 さらに気がかりなのは、マスメディアへの信頼感の低下と行政への影響だ。私が役人なら、「こんなずさんな調査を簡単に報道するなんて、新聞もちょろいもんだ。今度、何か都合が悪いことを発表する時には、いろいろと細工してやろう」と考えるかもしれない。大げさだが、市民運動の危機なのかも、とすら思える。国と企業、研究者に緊張感を持ってもらうために、市民も努力すべきことがあるのではないか。 (サイエンスライター 松永和紀)

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