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松永和紀のアグリ話

減農薬じゃなくても安全!日本初のGAP開始

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2005年7月13日

 鹿児島県が農林水産物認証制度を作った。こう書くと、農産物流通にもともと関心がある人なら「なーんだ、また行政の認証か。もう減農薬をうたって認証マークをつけても高く売れる時代じゃないのに」と思うだろう。実は私もそうだった。だが、鹿児島の認証制度は、狙いが違った。GAP(適正農業規範)を早々と導入し、農家全体の生産技術のレベルアップを狙う。実に骨太の制度だ。

 例えば、北海道の「北のクリーン農産物」、宮城県の「みやぎの環境にやさしい農産物表示認証制度」……。自治体にはさまざまな認証制度がある。宮城県のウェブページには、次のように書かれている。この制度は、一定の要件のもとで農薬や化学肥料の使用を低減して栽培された農産物(特別栽培農産物)を、『農薬・化学肥料不使用栽培農産物』等の4つの区分で県が認証し、消費者により安全な農産物を供給していこうとするものです」。

 どの自治体の認証制度も、概ねこのような仕組み。農薬の使用回数や化学肥料の使用量を減らせば、農産物はより安全になり高く売れる、という考え方だ。だが、実は行政内部でも異論が多かった。「農薬を減らしたより安全な農産物を奨励するなんてまるで、普通に栽培したほかの農産物が危険であるかのような言い草ではないか。認証を受けていないものだって、法律に則って農薬や化学肥料を正しく使っていれば、国が安全を保証しているのに」というわけだ。

 農薬使用回数を減らした農産物が、科学的により安全と言えるのか、疑問の声もあった。「一部の株に病害虫が出始めた時に、その株だけに効果的に農薬を使えば、使用量はごく少なくてすむ。そうやって、1つの畑で農薬を10回使うのと、漫然と畑全体に5回農薬を撒くのと、どちらが本当の減農薬なのか」などという。

 「行政がこんな矛盾した認証制度をやっているから、残留農薬への不安、不信がなくならない。ダメですね」という嘆きを行政マン自身から聞いたことも、1度や2度ではない。

 だから、先日鹿児島県の担当者から聞いた言葉が、新鮮に響いた。担当者はこう言ったのだ。「農薬や肥料については、法的に定められた使用法や使用量を守っている限り安全です。この認証制度は、減農薬などを売りに消費者に買ってもらうためのものではなく、GAPを先取りした生産改善運動なのです」。

 ここで、GAPについて簡単に説明しよう。Good Agricultural Practice(適正農業規範)の頭文字をとったもので、米国やEUでは既に導入されている手法だ。日本では、減農薬・化学肥料栽培だけが注目されるが、農産物の品質管理にはほかにも多種多様なポイントがある。

 例えば、種子に不法な薬剤処理が施されていないか、水源は確かなものか、栽培時に、重金属や病原体による汚染、カビが産生する毒物汚染、硝酸態窒素過剰などがないか、収穫後の洗浄や出荷作業中の衛生管理をどうするか、生産後の廃棄物処理をどうするかなど、さまざまな項目を検討しなければならない。さらに、対策を記録し、後日確認したりさらに改善する仕組みも必要になってくる。

 こうしたポイントを整理して段階ごとに対策を講じるのが、GAPである。農水省もGAPの導入確立を目指し、昨年度から調査研究と普及事業を予算化している。「かごしまの農林水産物認証制度」は、このGAPの考え方を大きく取り入れた基準を県が決め、第三者である「社団法人鹿児島県農業・農村振興協会」が審査認証する仕組み。昨年秋にスタートした。県によれば、GAPを取り入れた自治体の認証制度は、全国初だという。

 基準は現在、野菜、果樹、コメ、タケノコ、鶏卵に設けられている。生産者は毎年度、品目ごとに申請し、認証を受ける。県農業・農村振興協会は、外部の学識経験者や消費者代表などで構成する認証判定委員会を設置。この委員会が、現地調査などを行って認証するかどうか決定する。手数料は、生産者グループなど団体としての申請ならば、1戸あたり1575円。個人の農家としての申請ならば、5250円だ。

 担当の鹿児島県農政部食の安全推進課の福留哲朗・食の安全推進係長は、こう話す。「農家は、変わったことをする必要はありません。法律に則ってきちんと作っているものを認証することで、県の農産物全体の信頼を高めていきたい」。

 「でも、この制度では消費者への訴求力がない。価格上昇には結びつきませんね」と、認証制度への先入観から私はまだ、こんな質問もしたものだ。それに対して、福留係長は毅然として言った。「高く売りたいという狙いでは、長くは続かないですよ。鹿児島県は1次産業の県ですから、生産者がやるべきことはきちんとやる。その1つがGAPです」。

 つまり、鹿児島の農家にとってこの制度は、作業を見直し自信を持つための年1回の資格審査のようなものになるのだろう。そのため、認証手数料は低く抑えられ、多くの農家が参加できるようになっている。県も昨年度約1200万円、今年度約1000万円の事業予算を組み、制度の普及活動や認証業務への補助金交付を行っている。

 こういう地道な道筋づくりこそ、自治体が行うべきことだろう。浮ついた消費者迎合型の安全安心施策は、もういらないのだ。残念ながら、鹿児島の認証制度はPR不足もあって、まだ認証を受けた団体、個人が少ない。ぜひ、県ぐるみの運動につなげてほしい。(サイエンスライター 松永和紀)

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