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松永和紀のアグリ話

GMナタネ市民調査を科学にする13の提言

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2005年7月20日

 遺伝子組み換え食品いらない!キャンペーン主催の「GMナタネ全国自生調査報告集会」が7月9日開かれた。これまでも書いた通り、この調査は残念ながら科学的な信頼性に欠ける。来年度も調べるとのことなので、余計なお世話とは知りつつも「市民調査を科学にする13の提言」をしてみたい。

 調査結果は毎日新聞や読売新聞などに取り上げられ、「23都府県1169カ所の調査地点中、5府県14カ所でGMナタネが生息」などと報道された。しかし、9日の報告を聞いても、以下のようにおかしな部分が多かった。

 (1)遺伝子組み換えによって導入されたたんぱく質の有無を調べる1次検査の陽性は153検体、遺伝子を調べる2次検査の陽性は14検体で、結果に違いがあり過ぎる。採取や保管、試験法や判定基準に何らかの問題があることを意味している。

 (2)遺伝子組み換えによる除草剤ナタネには、ラウンドアップ耐性とバスタ耐性の2種類があるが、ある生協が採取試験したサンプルの中に、1次検査と2次検査で結果が異なるものがあった(1次でバスタ耐性がかすかに出たとされ、2次検査でラウンドアップ耐性と判定された)。正しく採取試験された場合には、このようなことはあり得ない。

 (3)別の生協が、2次検査で陽性だった採取地をカラー写真で載せたパンフレットを作成し配布したが、「ラウンドアップ耐性遺伝子検出」とした地点の写真に写っていた植物は、ナタネではなくギシギシだった。アブラナ科の植物の採取が正しく行われたのか、疑わしさが残る。

 (4)2次検査を請け負った検査機関の担当者が「サンプルの保存状態が悪く、腐敗臭やタカナのような匂いがするもの、カビが生えているものなどがあり、DNAが壊れていた可能性がある」と発言。

 細かい指摘のようだが、調査の信頼性を揺るがすには十分。このほかにも、疑わしい点が山ほどあり、本欄6月29日付「GMこぼれおち、ずさんな調査で説得力もなし」 でも書いた。もしかすると、発表された結果よりももっと多くのGMナタネが全国に生息している可能性がある、とも思う。

 科学的に行われていれば、反対派にとっても推進派にとっても有意義なデータになるはずなのに、参加者の労力と検査費用がなんとももったいない。参加者たちは、来年度も調査を実施するという。そこで提言したい。調査計画を根本から立て直し、市民の自己満足でなく科学的な調査にしていただきたい。私の提言する13項目は次の通りだ。

 1)科学的な責任者を明確にし、全国の調査を一定レベルに保つ必要がある。責任者は、正しい試験手順や方法のビデオ、試験キットの取扱説明書など資料を作成。事前に、各地の実施団体、調査参加者に配布し説明会を開き、参加者は、必ず参加して勉強しておく。責任者は、なるべく各地の採取・試験に立ち会い指導監督し、結果もチェックする。

 2)採取場所の選定は、生息域の正確な把握、原因究明に重要なので、あらかじめ十分に検討する。

 3)試料を採取した日、場所、試験日、方法など、記録を正確にとる。

 4)採取や試験の各段階で写真を撮影し整理して保存し、採取して調べた試料が何か、正しい試験紙の判定ができたかなど、後で検証できるようにする。

 5)実際に作業する人による勝手な手順変更や、試験結果の判断基準の変更は厳しく慎み、予断を持たない。

 以下は、具体的な手順や判定における提案。

 6)採取した試料が、ほかの試料と混ざったり手や器具を介してたんぱく質や遺伝子が移ったりしないように、使い捨て手袋、器具を活用するなど注意すること。

 7)試料は、1つの植物個体から1次試験用、2次試験用、種同定用の3つを採取する。1次試験用の葉は、なるべく早く(できれば採取当日)、試験に供する。2次試験用は、試験を依頼する検査機関の指示通りの部位を採取し保存方法も従う。種同定用は、植物個体全部か、葉や花序(花をつけた茎)が分かる一部分を新聞紙などにはさんで押し葉標本にして、時々新聞紙を替えて自然乾燥させておく。

 8)1次試験には、保管条件(温度や湿度など)、保証期間などが適正な試験キットを使う

 9)1次試験は試験紙の変化で判断するが、擬陽性の色の変化がまぎらわしく今年の調査で1次試験の陽性判定が多かった1つの原因と考えられるので、事前にビデオで学習し取扱説明書に従い、専門家の意見も聞くなどして厳密に判定する。

 10)1次検査で陽性結果が出た試料については、検査機関に従い保存されていた2次試験用試料を、すみやかに指示通りの方法で検査機関に送り2次試験を実施する。

 11)2次試験を行う検査機関は、信頼できるところを選ぶ。分析料金の安さには惑わされない

 12)1次検査と2次検査で結果に明らかな齟齬がある場合(例えば、今年あった1次検査でバスタ耐性、2次検査でラウンドアップ耐性のような事例)は、試料を取り間違えるなどどこかで致命的なミスが生じているため、データから完全に除外する(調査検体数にも、陰性や陽性などの結果にもカウントしない)

 13)陽性となった試料については、種が何であるかが重要なので、採取段階で分けてあった種同定用押し葉標本を植物分類の専門家に見せて判定してもらう。雑草化したセイヨウナタネと在来ナタネは見分けにくいため、素人が勝手に決定してはいけない。

 この13項目の提言も、「わざわざ難しいことを要求することで、市民調査を不可能なものにしようとしている」などと批判を浴びるかもしれない。しかし、採取や試験をやったことがある人なら分かると思うが、この13項目は調査としては最低レベルの要求だ。このレベルはクリアしていないと、結果を環境省や農水省に突きつけても「科学的な調査でない」とされ、役人は検討対象としない。

 これらが市民には困難なら、逆に、2次試験はしないことも一つの選択だと思う。ずさんな方法でお金をかけてあれもこれも行うよりも、調査採取地点を増やし1次試験と種の同定を正しい方法で行って全国の状況を一斉把握する方が、科学的な意味ははるかに高い。

 13項目の提言は、農業環境技術研究所生物環境安全部の松尾和人・組換え体チーム長のアドバイスを受けて作った。松尾さんは「これだけ大規模な調査は例がなく、科学的に行えれば有益なデータになり得る」と話す。個々の参加者が責任を持って、高いレベルの市民調査を行う志を持つべきだ。頑張ってほしい。(サイエンスライター 松永和紀)

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