ホーム >  FoodScience過去記事 > 松永和紀のアグリ話 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

松永和紀のアグリ話

アピが異例の「授粉バチ売りません」宣言

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2005年7月27日

 トマトのハウス栽培に使われる授粉昆虫、セイヨウオオマルハナバチの国内増殖企業、アピ(岐阜市、野々垣孝社長)が今月、ハチの使用方法を守らない生産者にはハチを販売しないことを宣言した。メーカーが、大事な顧客である製品使用者のモラルにまで口出しするなど、異例のことだ。なぜアピはここまで厳しい方針を打ち出したのか?

 セイヨウオオマルハナバチは外来種として日本の生態系への影響を懸念され、外来生物法の規制対象として検討されている。一方で、トマト農家の省力化や減農薬に大きく貢献しているおり、ハウス栽培の6割から7割で使われている。そのため、外来生物法を検討する専門家会合が今年始めに出した中間的な結論では、使用する場合には予防原則の見地に立ち、ハウスにネットを張り使用済み巣箱も適正処理(殺虫)することが重要だ、とされた。

 今年1年は、さらに詳しい生態系影響研究や逃亡防止策の普及啓発活動が行われ、来春には規制対象の特定外来生物に指定される見込み。その後は、生産者は環境省の許可を得たうえで、逃亡防止策を講じて使うことになる。

参照:本欄1月19日付、環境省・特定外来生物等の選定について

 しかし、まだ指定されているわけではないので、ネットを張らずに使用している生産者も多い。ハチの販売企業や代理店(農業資材店やJAなど)の多くも、法規制がまだであることを理由に黙認しているのが実情だ。アピも「はなまるくん」という商品名で、セイヨウオオマルハナバチを販売している。今月、次のような宣言を出した。
マルハナバチ利用者の皆様へ
 アピ株式会社では、日本全国の生産者の方に「はなまるくん」を末永くご利用いただくために、次の2つを宣言します。
1)ネットなど逃亡防止策がとられていないと判断した場合、「はなまるくん」は販売しません。
2)生産者が使用中、逃亡防止が不完全と判断した場合は、即刻「はなまるくん」を回収し、代金は返却しません。

 この宣言は既に代理店に送られており、8月からは商品に添えて生産者にも直接送られる。既に、逃亡防止策を生産者に指導しない代理店などとの取引を打ち切り始めている。いや、顧客がうるさく言わない他社に逃げ始めている、と書く方が、正確かもしれない。また、対策を施す意欲はあるもののハウスの構造上、ネット展張が容易でない生産者とは、方策を共に考えているところだ。いずれにせよ、この宣言によって、当面の売り上げ減は避けられないという。

 しかし、アピ・マルハナ課係長の米田昌浩さんは「まだ法規制前であっても、生態系へのリスクを考えて自主的にネットを張る生産者が出てきている。彼らに応え、目先の利益を追うのでなく生態系を守る明確な姿勢を示すことが、企業の責任だと考えている」と話す。

 アピは同時に、「マルハナバチ憲章」も定め、代理店などに配布した。現代の人間に貢献する「食の安全」と、未来に生きる子孫のための「生態系保全」の両立を模索することを、企業活動と位置づける内容だ。ハチを利用しなければ、露地トマトだけを食べるか、ハウス栽培で人がホルモン剤(農薬の一種)を散布して作るトマトを食べるか、のどちらかを選ぶことになる。

 露地トマトは聞こえはよいが、旬のごく短い時期しかトマトはできず、単位面積当たりの収量も大きく下がる。ハウス栽培でホルモン剤を散布するには大変な労働力が必要で、化学薬剤の使用増にもつながる。いずれにせよ、トマト市場における韓国産や中国産のシェアが一気に増えることは間違いない。

 一方で、生態系への配慮なしにハチを使い続ければ、ほかの種や植物などにも影響が出て、生き物たちが織りなしている微妙なバランスに基づく循環が壊れる可能性もある。ならば、人の叡智の限りを尽くして、生態系保全と生産振興の妥協点を探って行くしかない。

 実は、マルハナバチ問題は最近、複雑な様相を見せている。外来生物法で規制が検討されて、「外来種でなければ良いでしょう」とばかり、在来種の「クロマルハナバチ」に切り替える生産者が出てきているのだ。商社1社がこの在来種を海外で増殖させ輸入販売しており、もう1社もこの秋から同様に輸入販売する。

 クロマルハナバチが、セイヨウオオマルハナバチに比べて生態系への影響が少ないかどうかは、まだわからない。生態学者の間でも意見が割れているのが実情だ。農水省も、今春出した技術指導で、「在来種を利用する場合であってもセイヨウオオマルハナバチと同様の施設外への拡散を防止するための適切な措置を講ずる必要がある」と明記している。

 メーカーも、ネット展張などを要望している。しかし、この指導を守らなくても法的には罰せられないのも事実。生産者の中には、法的な規制を逃れるために在来種を選ぶ人が出始めているという。

 アピも、在来種販売に向けて準備を進めている。ただし、「在来種であっても、ネット展張や巣箱の殺虫による適正処分などをしない生産者には売りません」と米田さんは話す。在来種とセイヨウオオマルハナバチのどちらが生態系への影響が少ないかをみる調査や試験も行う。

 アピの強硬とも見える「売らない」宣言は、「農家よ、法による規制の有る無しで態度を変えるのでなく、生態系を守りつつトマト生産をするために何をすべきか、自分自身で考えてほしい」というメッセージにほかならない。生産者も応えてほしい。消費者も、生産者の努力を忘れてはいけない。(サイエンスライター 松永和紀)

⇒ 松永和紀のアグリ話記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。