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松永和紀のアグリ話

変幻自在のトウモロコシ–コーンブレッドから生プラまで–

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2005年8月10日

 毎日暑い。しかもお盆休み直前。難しい話は今週はちょっと、という方も多いのではないか。というわけで、今回はいつもと趣向を変えて、 このほど出版された米国のトウモロコシに関する楽しい料理本をご 紹介しよう。レシピだけでなく食文化としてのトウモロコシの姿を垣間見ることができるスグレモノだ。

 米国の農業を取材したり文献を調べたりしていて、日本との違いを最も大きく感じるのはトウモロコシの汎用性だ。デント種と呼ばれる品種は、食品になり飼料にもなり、エタノール燃料が作られ生分解性プラスチックまで産み出す。ヒトも家畜も車も同じ農産物を「食べる」合理性が面白いし、栽培する農家も自分の畑で食品から燃料まで産み出せることに強い誇りを持っている。

 ところが日本では、燃料化や生分解性プラスチックは新しい話のせいかよく紹介されるのに、食文化としてのトウモロコシの多様性についてはさっぱりだ。だから「トウモロコシは、コーンチップなどとしてほんの少し食べられている程度。ほとんどが飼料になるから、米国人は遺伝子組み換えを気にしないのよ」となどというまことしやかな解釈が産まれたりする。

 これに対して、米国人にとってトウモロコシがどんな存在なのかを素朴に楽しく教えてくれるのが、今回紹介する「コーンブレッドの本?レシピに恋したラブストーリー」(ジェレミー・ジャクソン著、坂下洋子訳、旭屋出版)である。

 日本でコーンブレッドと言うと、「ああ、トウモロコシの粒が載っていてマヨネーズ味のあれ」としか思い浮かばないかもしれないが、この本で紹介されているレシピの多くは、でんぷん含量が高いデント種を粉にしたもの(コーンミールやコーンフラワーと呼ばれる)を小麦粉と混ぜて作られるもの。

 著者のジェイミー・ジャクソンは、自分の体の27%が全粒コーンミールで出来ていると自己紹介する、まだ20代の作家。本ではまず、コーンミールへの個人的な思い入れを熱く語って行く。ミズーリ州に住んでいた幼い頃、外に遊びに行けない寒い冬、母親が大きな鍋にコーンミールをどっさり入れてくれて、砂場代わりに遊んだという。黄色の粉の中に入っておもちゃのトラックを走らせ遊んだ後、母親は台所中にこぼれた粉をほうきではき集めて、 「遊ぶ」と書いた壷に戻し、まだ遊ぶ時に使う。家には、ほかに「食べる」と書かれた壷があり、母親がコーンブレッドを焼いてくれた。

 「アメリカ合衆国におけるコーンブレッドの簡潔でいいかげんな歴史」という章もあり、20世紀に入って小麦粉が誰にでも手に入る穀物として普及するまで、コーンブレッドが多くのアメリカ人の主食であったことをさまざまな文献を引いて紹介する。

 ジャクソンは、現在の状況について「現代の超巨大製粉会社はコーンミールを、コーンオイルや、家畜の餌であるグルテンミール、燃料エタノール、甘味料を製造する上での副産物のように思っているんだ」と書き、それでも南部や中西部の多くの米国人にとって、その素朴さと健全さゆえに愛着ある食べ物であることを綴る。そのうえで紹介されているレシピは50種類。コーンミールと小麦粉を使いベーキングパウダーで膨らませるシンプルなコーンブレッド やケーキ風、イーストで膨らませるパンなど様々だ。

 私自身も、米国、特に南部のスーパーで、コーンミールや、こねて焼けばコーンブレッドやコーンマフィンになるプレミックス粉が山積みになっているのを目撃して、驚いたことがある。小麦粉のパンの陰に隠れてはいるが、米国人にとっては懐かしくいつまでも伝えたい味なのだ。

 この本は2003年に米国で出版された。アメリカ穀物協会(東京・港)が、コーンブレッドについて調べていて見つけた。翻訳して出版社に企画として持ち込み、「コーンブレッドの解説本は、 まだ日本では出版されていない。出しましょう」ということになったそうで、同協会副代表の坂下さんが調理した11点の写真も掲載されている。私も穀物協会を取材で訪ねた時に、リンゴが入ったお手製ケーキをご馳走になり大変おいしかったことを覚えている。坂下さんは「日本の人たちにも、トウモロコシの多様な魅力を知ってもらいたい」と話す。

 日本は、トウモロコシを年間約1600万tも輸入消費しており、その9割以上が米国から。昨年の日本の水稲生産量は872万tだから、トウモロコシの多さは際立つ。飼料用がメインだが、コーンスターチや水飴、異性化糖などとしても使われ、コーンフレークやコーンスナック、ビールや発泡酒などの原料にもなっている。これからは、コーンブレッドが雑誌などでとりあげられる機会も増えるだろう。

 コーンブレッドから燃料まで、自在に姿を変えるトウモロコシの柔軟性は、そのまま米国農業の強靭さにつながっているように思える。そして、日本の多くの消費者は全く意識しないまま、トウモロコシの恵みを思う存分享受し、一方で遺伝子組み換えやBSE(牛海綿状脳症)対策を理由に「米国の食品は危ない」と言い募る。「コーンブレッドの本」のレシピで作ってみた素朴なコーンブレッドの香ばしい味を楽しみながら、日本の行く末を心配する暑い夏だ。 (サイエンスライター 松永和紀)

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