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松永和紀のアグリ話

鳥インフルエンザ、農水と学者は説明責任を果たしているか

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2005年9月7日

 茨城の養鶏場で相次いで感染が確認されている弱毒性鳥インフルエンザ。専門家はワクチン不正使用の可能性を強調し、マスメディアの関心も集まるが、もっと重要なことがある。感染の広がりを見る限り、現在の拡大防止措置に効果がないことが明らかなのに、見直しの動きが見えない。これはヘンだ。

 茨城での一連の鳥インフルエンザ問題で私がもっとも衝撃を受けたのは、「愛鶏園」http://www.ikn.co.jp/ の感染だった。際立って先進的な生産衛生管理で、養鶏業界では有名な企業だ。信じられなかった。

 私は3年前、愛鶏園を訪ね二代目の斎藤富士雄さんにじっくりと話を聞いたことがある。まず、種鶏場を持ち卵を孵して親鶏に育て、商品である卵を産ませていることに驚いた。サルモネラ汚染など感染症を元から絶つためだ。よほどの大手業者でもコストがかかる種鶏場は持ちたがらないが、斎藤さんにとって自前の種鶏場は、リスクを小さくするために絶対に必要な設備だった。

 飼料も自家配合で、鶏の体調や餌の栄養価などによって細かく変える。餌で強い体を作り、社員である獣医4人がきめ細かく観察し対応することで、薬を投与しない養鶏を目指していた。鶏舎も、病気を持ち込みやすい「人」が入らなくても飼育出来るウインドレスタイプだった。会ったのは、山口や京都などで高病原性インフルエンザが発生する1年も前だったが、斎藤さんは既に、鳥インフルエンザへの警戒も口にしていた。

 このような先進的な取り組みで安全安心をPRし卵を高く売るなら当たり前の話だが、斎藤さんはそうではなかった。良い卵をスーパーで1パック百数十円で売れることを誇りにしていた。科学に基づく合理性と自信、息子さんらと家族経営するまじめさ。私がこれまでに出会った食品業者の中で、もっとも尊敬する経営者の一人だ。

 その愛鶏園の茨城にある2農場で、鳥インフルエンザの抗体検査が陽性となったのだ。農水省・家きん疾病小委員会の喜田宏委員長は、2日の会合後の記者会見で「未承認ワクチンが使われ、鶏の移動などに伴い他の農場に感染した可能性がある」と発言した。しかし、愛鶏園が未承認ワクチンを使うことはあり得ない。また、外部の鶏を農場に入れることもない。人や車、物の出入りにも細心の注意を払っているはずだ。

 私は感染が分かった後、斎藤さんと何回かメールのやりとりをした。もちろん、愛鶏園を四六時中見張るわけではないので、「あの人なら大丈夫」などというと科学ライターにあるまじき非科学的発言と非難されそうだ。しかし、愛鶏園には不正も落ち度もない、というのが長年取材活動を続けてきた私の勘であり、確信である。

 そうなると、今回の感染問題の本質が、新聞報道などとは全く異なる形で見えてくる。愛鶏園ですら感染したのだ。どの養鶏場もどんなに努力しても、運が悪ければ感染する。そう思える。問題は、(1)弱毒性ウイルスは最初、どこから持ち込まれたか(2)感染を媒介しているのは何で、どのように広げているのか—-を分けて考える必要があるということ。

 (1)の理由がなんであれ、(2)に適切に対処すれば、感染拡大を阻止できているはず。しかし現実には、茨城県で6月に最初の感染農場が明らかになって以降、次々に感染が見つかり、その経路は未だはっきりしない。最初の検査では陰性だったのに数週間後の検査で陽性となった農場もある。防疫指針に基づく感染拡大防止措置に根本的な問題がある、と思えてくる。

 例えば、指針では空気感染を想定していないが、業者たちは強く疑っている。細かなウイルス粒子が空気中を漂い、ウインドレス鶏舎でも、空気を取り込む時に入って感染する場合があるのではないか、という推理だ。これまでの学説、常識では、鳥同士の感染にも一定数以上のウイルスが必要で、感染鳥に接触したりえさや水などによってウイルスを濃厚に吸入・摂取すればうつるが、空気感染は主要経路ではない、とされている。しかし、現場の人たちは、実際の鶏の様子を見ながら「条件によっては感染力を持つのではないか」と考え始めている。

 実は業者たちは、別の恐怖にもおびえている。弱毒性鳥インフルエンザとは型が異なる強毒性ウイルスが最近、海外で目立っている。8月にロシア、カザフスタン、モンゴルで発生が相次いで確認された。モンゴルでは、これまでウイルスと共存してきたはずの野鳥がバタバタと死んでいる。

 日本では、拡散力が低いはずの弱毒性ウイルスでさえ感染拡大を阻止できない。ならば、冬場に野鳥が強毒性ウイルスを運んできて、養鶏銀座と呼ばれるほど業者が多い茨城県で空気感染に「火」をつけたら、いったいどうなるのか? そんな恐怖が業者を苛む。
参考:国立感染症研究所・鳥インフルエンザのページ 

 私自身は、例として挙げた空気感染説にはまだ疑問を持っている。しかし、鳥インフルエンザは分からないことが多く、最善の策が研究の進み具合によって変わるのも確かなこと。思い込みを排して、さまざまな可能性を検討するのは重要だろう。その結果、防疫指針を変更しても、農水省が説明責任を果たし科学的な根拠があれば、多くの市民も納得できるはずだ。

 しかし、農水省にこれまでの施策を振り返り検証する言葉はなく、非公開の小委員会でどんなデータに基づいて何が議論されたのかさえ、さっぱり分からない。2日の会合後に記者に概要を説明した委員長は、未承認ワクチンが原因である可能性を強調したが、感染拡大を防ぐための具体的な方策には触れなかったという。それに、この概要説明は記者クラブが対象で、クラブに所属しない私のようなライターはそもそも、委員長会見を聞けない。ヘンではないか。防疫指針に致命的な問題はないのか。経路解明はどこまで進んでいるのか。冬に向けてどんな手を打って行くつもりなのか。私は、検討の科学的な中身を知りたい。それは養鶏業者も市民も同じだろう。農水省と専門家は、説明責任を果たすべきだ。(サイエンスライター 松永和紀)

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