ホーム >  FoodScience過去記事 > 松永和紀のアグリ話 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

松永和紀のアグリ話

コーヒーの農薬効果の議論より、木酢液の早期決着を

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2005年9月21日

 コーヒー、緑茶、牛乳、焼酎には病害虫を防除する効果はなく、農薬代わりには使えない—-。「当たり前じゃないか」と笑われそうだが、実はこれ、8月末に開かれた農水省と環境省の審議会合同会合で大真面目に報告された内容。使っている農家がいるため、農水省が委託試験をしたのだ。同様に、木酢液が農家に健康被害をもたらす可能性も指摘された。

 報告があったのは、農業資材審議会と中央環境審議会合同の特定農薬を検討する会合。特定農薬については、本欄の2004年12月8日付記事と同12月15日付記事を参照してほしい。農家が、病虫害を防除するために工夫して使っている「資材」について、原材料が安全で一定の防除効果と安全性が科学的に確認できれば法的に認める制度だ。コーヒ?、緑茶、牛乳、焼酎の試験は、農水省の依頼を受けた日本植物防疫協会が昨年度行った。結論は「どれも実用的な効果がない」だった。

 特定農薬は、防除価(病害虫に対する効果を数値化したもの)が50以上であることを求められている。しかし、うどんこ病(カビが原因で起きる病気)に対して、緑茶(煎茶の茶葉1gを熱湯1lで15分間抽出)は防除価31.0、焼酎(アルコール度数40%のものを100倍希釈)は25.8しかなかった。もう1回、別の試験場で試験をしても、緑茶の防除価は9.2、焼酎は48.6。焼酎はこの数値なら一見高そうだが、同時に調べられた化学合成農薬の防除価は99.0と99.4だから、比較にならない。

 なぜ、農家はこんなものを使うのか? 農薬をなるべくなら使いたくないからだ。農薬は高価で散布に気を使い手間ひまかかる上に、消費者に嫌がられる。だから農薬の代わりを探し、期待感が「効果」を産んでしまう。例えば誰かが、緑茶を使ってみる。たまたま病虫害被害のピークを過ぎた頃に散布して、「被害が減ったのは緑茶のおかげ」と思い込み、「そうだ、緑茶にはカテキンやカフェインが入っているから効果があるのだ」という理由が後付けされる。次々に口コミで広がり農業雑誌などでも取り上げられ、「緑茶は効く」という思い込みが増幅されていく。私は、そんな現象がさまざまな資材について起きているのではないかと考えている。

 もっとも、これらの食品はとりたてて害もないから、まあいい。だが、これまで継続審議されてきた木酢液の場合は、そうはいかない。木酢液は炭焼きで出てくる酸性の液体で、昨年は全国で計4500kLが生産された(林野庁調べ)。病害虫の防除や土壌改良の効果を期待されて、100倍〜1000倍程度に希釈され散布されている。

 木酢液の業者は製造方法により有害物質を除去できると主張し、規格を設けた業界団体もある。そのため、農水省が2002年度と03年度、規格を満たす40あまりの製品を委託試験した。報告された結果によれば、発がん物質であるベンツピレンが微量検出された製品があった。また、どの製品にもホルムアルデヒドが含まれており、3000ppmも含む製品すらあった。農水省は、この木酢液を散布した場合の農作物と使用者の安全性に関する試算もしている。

 まず、ホルムアルデヒドの農作物への残留量は少なく、消費者の健康リスクは低い。一方で、使用する農家は結構危ないかもしれない。ホルムアルデヒドを3000ppm含む木酢液を、通常の使用法に準じて200倍に希釈し、高さ2mのビニールハウス内で10a当たり100L散布すると、ハウス内のホルムアルデヒド気中濃度は理論上、0.56ppm。ホルムアルデヒドの作業環境中の許容濃度は、日本産業衛生学会の規定では0.5ppmなので、これを上回ってしまう。

 ホルムアルデヒドは、シックハウス症候群の原因として指摘されており、国際がん研究機関からは「吸入により発がん性がある」とされている。報告を受けた委員からは、「相当慎重に検討すべきだ」という声が上がった。

 結局、コーヒー、焼酎、緑茶、牛乳は特定農薬には指定されなかった。木酢液はまたも継続審議になったものの、反対意見が委員たちの大勢だ。次回の合同会合辺りで「指定せず」と決まると、農薬用途での使用は禁じられる。農薬に木酢液を混ぜて散布する方法をとる農家もあるが、それも禁じられる。

 今回の会合では、別の資材についても「製造法によっては、発がん物質の濃度がいくらでも変わってくるので、安全性を十分に検討すべきだ」などと指摘があった。特定農薬の審議は、これからも難航しそうだ。

 いずれにせよ、こうした資材を使って金をむだにしたり健康被害を受けたりするのは農家である。消費者は発がん性と聞くとドキリとするだろうが、水溶性物質が多く洗えば落ちることや使用量が少ないことを考えると、食品としてのリスクは大きくはなさそうだ。

 今回の合同会合は延々3時間半に及び、配られた資料はおそらく600ページを下らない。会合の後、ある委員は皮肉まじりにこう言った。「農家が自分の意志で使って報いを受けるのだから、勝手に使わせればいい。わざわざ税金を使って審議する内容じゃない」。傍聴していた私も共感せざるを得なかった。

 残念ながら、農家の中にはこうした食品や天然物の「神秘の力」を信じる人が根強く居る。木酢液を飲んだり入浴剤として使っている人までいるらしい。農業振興に努める農水省としては、こうした農家を「自己責任」と突き放すことはまだできないらしい。ガーデニングを楽しむ素人の中にも同種のタイプがいるようだ。でも、損をするのは、使っているあ・な・た。それだけはお忘れなく。(サイエンスライター 松永和紀)

⇒ 松永和紀のアグリ話記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOMが「第1回食生活ジャーナリスト大賞」を頂くことに決まりました(3/28)
FOOCOMはこのほど、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の「第1回食生活ジャーナリスト大賞(ジャーナリズム部門)」…【全文を読む】
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。