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松永和紀のアグリ話

森林や農地はそう簡単に温暖化防止にはつながらない

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2005年9月28日

 台風やハリケーンの頻発や巨大化は、地球温暖化のせいではないか、と言われているが、温暖化は農林業にも大きな影響をもたらしそうだ。9月22日付「Nature」に、「森林は二酸化炭素を吸収し温暖化防止に役立つ」とするこれまでの常識を大きく覆す論文が掲載された。持続可能な農林業は、食品の安全の重要な要件。読者の皆さんには温暖化にもぜひ目配せしておいていただきたいので、ご紹介しよう。

 地球温暖化につながる温室効果ガス(二酸化炭素)の削減策として、植物が重要視されている。植物は、二酸化炭素を吸収し炭素を固定する光合成を行うからだ。そのため、森林は炭素の大きな吸収源とみなされている。しかし、9月22日付「Nature」に掲載されたLeLaboratoire des Sciences du Climat et l’Environnementの Philippe Ciais氏らの論文によれば、事態はそう簡単ではないらしい。2003年にヨーロッパを襲った熱波の影響を調べたところ、植物の成長は30%も阻害され、炭素を蓄えるどころか放出源になっていたという。

 03年の欧州熱波は大変なもので、東部は雨が降らず西部は高温となり、平均気温が例年を6℃も上回った地域もあった。犠牲者は3万5000人に上ったとみられ、フランスでは作物収穫量が例年の2割も下がった。欧州環境庁は、この熱波を温暖化の影響とみている。

 Ciais博士ら欧州各地の研究者はこの年、二酸化炭素の吸収や放出を調べる装置を14の森林と1つの草原に置いて調べ、そのデータをコンピューター解析して欧州全体の状況を推測した。その結果、欧州の植物は5億t/年の割合で炭素を放出していた。それまでの4年間では、1億2500万t/年の割合で吸収固定化し、成長していたとみられ、4年間の蓄えを1年間で使い果たしてしまった格好だ。

 「Nature」の論文を紹介したnews@nature.comの21日付け記事によれば、英国の工業的な炭素排出量は、03年には1億5000万tであったと見積もられており、5億t/年という放出量は決して小さな数字ではない。記事は、年取った植物の分解が促された可能性を打ち出している。

 「Nature」は、9月8日付でも地球温暖化により土壌から二酸化炭素が放出されている可能性を示す論文を掲載している。英国は、90年を基準にして設定された化石燃料からの二酸化炭素放出削減目標を02年に達成したが、その削減量を相殺する勢いで放出しているかもしれないという。しかも、有機物由来の炭素の多い肥沃な土ほど放出源になる。

 これまで、森林や農地は温暖化防止に無条件で効果があるとされてきたが、それらを覆す研究成果が相次いで出てきているということだ。農林業を含めた生態系は単純ではなく、温度や雨量、炭素含量、生物種などにより複雑な挙動を示すらしい。農林業を温暖化防止に生かすには、さらに緻密な議論、どんな作物や樹種が良いのか、樹齢はどの程度がよいのか、土地の管理をどのようにしたらよいのかなど、詳しい検討が必要なのだろう。

 22日付論文の共同執筆者の一人、Andrew Friend氏はNews@Natureのインタビューに対して「人為的な二酸化炭素の放出を徹底的にカットしなければならない。また、農家は温暖化に応じてすぐに異なる作物を植えるなどの対策を講じることができるかもしれないが、森林経営者はそうはいかないので、何を植えるか十分に検討すべきだ」とコメントしている。

 日本でも、これほどマクロではないにせよ、農林業にからむ影響研究が盛んに行われている。例えば、独立行政法人「農業環境技術研究所」は、高温化でイネの収量が下がるとの予測や、高二酸化炭素濃度で収量が増加するという実験結果などを出している。

 もっとも、一条件の変動実験だけでは、実際に起きる現象の予測にはつながらない。そのことは、「Nature」に載った研究を見ても分かる通り。温暖化が生産に及ぼす影響は、高温化や二酸化炭素の増加、それに伴う降雨や降雪、土壌、病害虫や雑草などさまざまな条件の変化が相互作用したトータルの現象だ。

 そのため、同研究所は総合研究の第一歩として01年度、「生育阻害要因を考慮した日本の水稲生産の温暖化に対するぜい弱性の評価」をまとめた。また農耕地の炭素収支の検討も行っており、その後も複雑な要素が絡み合う生態系の挙動解析へ、チャレンジを続けている。

 農林業を含めた生態系は、時に温暖化防止に貢献するし、温暖化により負の影響も受ける(例えば、独立行政法人 農業・生物系特定産業技術研究機構果樹研究所の果樹研究成果情報参照)。負の影響が強くなりすぎると、ヨーロッパのように温暖化を促してしまうこともあるのだろう。生態系の力を過信することなく、省エネやプラスチックの使用削減など人がやるべきことにシンプルに努めなければならない、と改めて思う。(サイエンスライター 松永和紀)

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