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松永和紀のアグリ話

ヘビ、サソリより、国内農産物脅かす侵入種の規制を

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2005年10月12日

 公園にニシキヘビがいた、今度はサソリだ、と外来生物が話題になっている。外来生物法施行に伴い既に37種類の規制が始まっており、11月には第二弾として、ペットが野生化したハリネズミ属やキタリスなど42種類の輸入や飼育も、原則禁止となる見込みだ。だが同じ数、42種の害虫が、今春の植物防疫法改正により検疫を廃止され、農産物と一緒に国内に輸入されているケースもあることを御存知だろうか。

 参照:農水省植物防疫に関する情報
 農家と話しているとしばしば、「外来ペットを規制するだけでなくて、病害虫の侵入もなんとかしてほしいよ」というぼやきが出る。「病害虫はどんどん増えているのに、消費者はそんなことを全く知らずに農薬を使うなと言うのだから」と、消費者不信を露にする人もいる。それほど、農家にとって外来病害虫問題は深刻だ。

 独立行政法人農業環境技術研究所の研究陣が執筆した「農業と環境ー研究の軌跡と進展」(養賢堂発行)によれば、1995年の論文でリストアップされた外来昆虫は239種で、その内の172種が害虫だった。最近の再集計では、明治以降の外来昆虫種は415種に上るという。輸入農産物に付着して入ってくるケースも多いと考えられているが、ほとんどの外来害虫は侵入経路が全くつかめていない。

 例えば、ミカンキイロアザミウマは90年に初めて確認された害虫だが、侵入経路は不明のまま今や北海道から九州まで広がり、野菜や果樹などに大きな被害をもたらしている。シルバーリーフコナジラミは89年の初確認で、全国に拡大。トマト黄化葉巻病というウイルス病を媒介するため、特に熊本県のトマト栽培農家は減収が著しい。また、害虫だけでなく雑草も輸入飼料などに混ざって侵入し、繁茂してさまざまな被害を及ぼしている。

 もちろん、国も手をこまぬいているわけではない。有害な動植物の侵入を防ぐために、植物検疫法に基づいて検疫を行っている。輸入品をサンプリング検査して、有害動植物が発見した場合には消毒や廃棄などする。しかし、限界があるのが実情だ。また、96年の同法改正により、消毒等を行う有害動植物の範囲を限定した。コクゾウムシなど53種の動物(昆虫)と10種の植物は「非検疫有害動植物」となった。

 結局のところ、輸入相手国から見れば検疫は「非関税障壁」にほかならない。そのため、海外からの「なるべく非検疫に」という圧力は強い。そしてこの春、非検疫有害動植物をさらに拡大し、新たに42種の動物が非検疫となった。

 その中には、ネギアザミウマ、アカマルカイガラマシなど外来種もいくつかある。つまり「既に入ってしまった外来種は我慢して受け入れる」のだ。例えば、ネギアザミウマは03年の輸入植物検疫統計で中国産ネギの25%、タマネギの2%から見つかった。従来は消毒処理されたが、今年度からはそのまま輸入されている。

 全国農業協同組合中央会の中村祐三氏は、今年2月に開かれた公聴会で「消毒の必要なしとなると、流通過程を通じてネギやタマネギの産地に飛来することが懸念される」と述べた。農水省は「その可能性は極めて低い」との見解を示しているが、農業現場に農水省のこの説明で納得する人はいないのではないか。

 この42種の害虫の非検疫化はほとんど報道されなかったが、今年8月に改正された米国産リンゴの火傷病検疫措置は、いくつかの一般紙でも取り上げられた。火傷病は米国東部の風土病で、リンゴやナシ、サンザシなどが感染する。今ではヨーロッパ、西アジアまで分布を広げているが、日本ではまだ確認されていない。

 米国産リンゴが94年に輸入解禁された際には、火傷病に冒されていない果樹園のリンゴに限り、園の周りには500m幅の緩衝地帯を設けること、開花期など年3回の園地検査の実施、果実の表面殺菌が輸入の条件となった。しかし、米国は「成熟した病徴のないリンゴ」であれば日本に火傷病が伝わるリスクは極めて低いとして02年、WTOに提訴。WTOも米国の主張を認めた。

 そこで日本側は04年6月、一部譲って境界帯を10mにすることや検査を年1回とすることにした。しかし、米国側は納得せずWTOに再度協議を要請し、WTOも是正を勧告。結局のところ検疫は事実上、成熟果で病徴がないことを確認するのみになってしまった。

 日本は、外見では感染が分からない成熟リンゴに火傷病がいる場合もあることを実験で明らかにし、そのデータを提出したが、「極端な人工条件下で行われたものであり、自然条件下でのリスクの存在を証明していない」として退けられたのだ。米国から大量にリンゴが輸入されるようになれば火傷病が侵入してしまうのではないか。ほかの病害虫と同じように侵入経路が全く分からないまま広がってしまうのではないか。そうした強い不安が今、青森など産地を覆っている。

 輸入農産物は年々増えており、検疫の重要性は高まっている。一方で、行政コストの削減も必要であり、国際協調も考えなければならない。この問題は一筋縄ではいかない。ブラックバスを憂えるのも結構だが、身近で国内生産を脅かしかねない侵入種にも関心を持っていただきたい。(サイエンスライター 松永和紀)

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