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松永和紀のアグリ話

ポジティブリスト制実施で複合汚染の不安が高まる?

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2005年12月7日

 残留農薬ポジティブリスト制が11月末、告示された。この影響は、単なる規制の強化にとどまらない。新制度に備え、検査技術の進歩が著しく、より微量の農薬をより早く定量できるようになってきている。つまり、検査数が増え、農薬の検出数も増えて行くということ。その結果、消費者にとって別の不安が大きく浮上するのではないか。それは、多種類の農薬が残留して起きる複合影響への不安だ。

 FOOS・SCIENCEの読者ならば、農薬の残留の程度に大きな変化がないことは先刻ご承知。しかし、一般消費者からはそうは見えないだろう。検査技術のすさまじい進歩の結果、「見える」ようになったものを、汚染が深刻化して複数の農薬が残留するようになったと誤解しかねないのではないか。

 もともと、複合汚染への心配は消費者には常にある。識者はよく「複数の農薬が同時に残留して作用する確率は非常に低いので、心配いらない」と言うが、心情的にはその通りと思っても、科学的な根拠を示されるわけではないので、消費者はなんだかごまかされたような気分になって不信が残ってしまう。

 同様な視点は、諸外国にもある。ドイツのThe Federal Institutefor Risk Assessment(BfR) は11月に2日間にわたってフォーラムを開いた。やはり、検査技術の進展による関心の高まりに配慮してのことだ。科学者と消費者保護論者が集まり、多種の農薬残留のリスク評価において、何が適切なモデルとなるのか話し合っている。

 まず、食品への複数残留を、望ましくはないが技術的に避けられるものでもない、と位置付ける。なぜならば、農業現場ではさまざまな害虫に対応して複数の農薬が使われるし、農産物は販売される前に混ぜられたりするからだ。

 そのうえで、残留する複数の農薬について
1)異なったメカニズムで作用する農薬の影響は、それぞれに評価すればよい
2)同じメカニズムで作用する複数の農薬は、グループ化して合わせて評価されるべきで、その毒性により重み付けを検討し、等価係数(equivalence factor)を設定して検討する
などと提案している。

 BfRのPresident Professorが、フォーラムで興味深いことを言っている「私たちは評価方法を改善しようと話し合っているわけだが、予防的なエリアに入っているのだ」。そして彼は、こう結論づけている。「包括的な評価モデルは科学に基づかなければならないという点で、意見は一致した」。予防的な視点を持ちつつ科学的にアプローチすることで、リスクを見極め対策を講じ、無用な不安も鎮めて行こうという決意の表れだろう。

 面白いのは、このフォーラム開催に合わせてジャーナリスト向けの基礎情報も提供していること。農薬行政の仕組みや個々の農薬の安全性評価のやり方などを、簡潔に説明。そのうえで、農薬の複合影響の考え方を整理している。

 複合影響を調べると言っても、農薬は何百種類もあり組み合わせもさまざまで一つずつ詳しく検証していくのが困難であること、膨大な数の動物実験が必要になることなども解説している。(BfRのジャーナリスト向けページ参照)

 農薬は、環境中で一気に分解が進むのだ。残った微量の農薬が複数同時に存在し、生き物の体の中で一緒に作用したり、相互作用し毒性を増強する可能性は、否定はできないけれどそう大きくはないことも確実である。

 どれくらいのコストをかけて研究するのか、研究の優先順位は上なのか下なのか、シビアに考えなければならない。日本の農薬関係者も、そういったことも含めて早急に理論武装し、科学的なアプローチに関する情報を消費者に提供してほしい。研究せず情報を明らかにせず「そんなもの、リスクが低いに決まっている」と言うのと、科学的な思考の筋道を明確にして「研究にお金をかけますか」と国民に問うのは、まるで違うことなのだ。

 ポジティブリスト制開始で、農薬に対する誤解が広がらないようにしなければ。悪者にするのでなく善き物にするのでもなく、真実の姿が多くの人に認められるようにしたいと思う。(サイエンスライター 松永和紀)

<ご報告>
 私は、9月7日付本欄で鳥インフルエンザ問題を取り上げ、愛鶏園(本社・横浜市)について「不正も落ち度もないと確信する」と書きました。しかし、同社は12月2日、検査妨害の疑いで茨城県警が捜索する事態となっており、読者の方から「何か一言あってもよいのでは」というメールもいただいています。まだ捜索段階ですので、事態ははっきりしません。私の判断が間違っていたのか、同社も追い込まれて不正を働いたのか。同社に取材も申し入れていますが、まだ話を聞けそうにもありません。業界の評価も極めて高かった企業がなぜこのような事態に陥ったのか、時間はかかっても調べて書くのも、私のようなライターの役割であり、本サイトのような週刊誌や新聞とは異なるメディアの特性でもある、と考えています。後日改めて、取材の結果をご報告します。

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