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松永和紀のアグリ話

カナダの不心得者に振り回される生真面目ニッポン

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2005年12月28日

 先週21日、未審査の遺伝子組み換えナタネが流通する可能性があるという資料が、厚労省・農水省からひっそりとリリースされた。国内メディアはほとんど取り上げなかったようだが、実はこの話、遺伝子組み換えの多様な問題を映し出していて、めっぽう面白い。

 プレスリリースをかいつまんで説明すると、次の通り。(1)日本では安全性未審査の組み換えナタネが2004年と05年、カナダで栽培され、04年産のものが市場に流通した(カナダのナタネ作付け面積における割合は0.009%程度)(2)この未審査ナタネが日本に輸入される可能性は否定できない(3)未審査ナタネは、カナダでは安全性評価済みで問題なしとの結論が出ており、摂取しても心配はない。厚労省と農水省は、カナダ政府に輸出防止措置や今後の再発防止策を要請した(05年産は流通が限定され、日本に輸出されないよう措置が講じられている)。

 だが、関係者から詳しい話を聞けば聞くほど、複雑な事情が絡み合っていることが見えてくる。まず、この未審査ナタネは、種名がBrassica.rapa。除草剤耐性遺伝子が導入されているRT73系統で、米Monsanto社が開発したもの。同じ遺伝子が導入されている別種のナタネ、Brassica.napusは、審査をとっくの昔に終え、日本国内で流通も栽培も認められている。

 米国やカナダでは、2つの種が商業的には同じ「Canola」(ナタネ)として扱われている。遺伝子組み換えの安全性評価もナタネRT73として実施済みで、種による区別はされていない。ところが、日本は種が異なれば安全性評価も別にすることになっているため、napusは審査済み、rapaは未審査なのだ。

 さらに、カナダでこの組み換えrapaが栽培された経緯も興味深い。rapaは寒い地域でも植えられる早生であるのが大きな特徴だが、収量は低い。組み換えrapaも98年に種子として発売されたが、農家に人気が出ず00年にはほとんど栽培されなくなり、03年にカナダでの種苗登録が抹消された。

 種子業界は常に新品種売り出しにしのぎを削っており、売れない品種を市場から下げるのはごく普通のこと。この時点で、組み換えrapaは種子としては販売禁止。ところが、米Monsanto社とは関係がない種苗業者が種子を入手し、04年と05年、勝手にアルバータ州の農家十数人に売ったという。

 結局のところ不心得者は、種子を違法に販売した種苗業者。そして、種苗登録がなく、組み換えに関する米Monsanto社とのライセンス契約がないことに当然気付いたにも関わらず、種子を購入し栽培した農家だった。未審査といえば、3月に起きたトウモロコシBt10のケースが記憶に新しい。しかし、Bt10はどの国でも安全性未審査で、開発したシンジェンタがうっかり流通させてしまったもの。同じ未審査とは言っても、今回の組み換えrapaは、質的にまるで異なる話なのだ。

 この一連のストーリーでくっきりと浮かび上がるのは、日本側の「生真面目さ」だ。いくら、同じナタネという商品ではあっても、種が異なれば染色体の数からして異なるのだから(ちなみに、napusは19、rapaは10)、生物学的には安全性評価を別に行い別に結果を出すのが筋である。日本のやり方は、実に正しい。

 さらに、ゼロトレランスの方針堅持も、際立っている。ゼロトレランスとは、未審査組み換え体は輸入いっさい不可、という姿勢だ。GMOワールド8月8日付などにもある通り、ナタネでゼロトレランスはなかなか容易なことではない。しかし、厚労省・農水省のプレスリリースによれば、「いっさい不可」を貫きとおす両省は今後、この組み換えrapaについても、検出方法ができ次第、水際チェックをするという。この姿勢も、実に正しい。

 だが果たして、そんなチェックが可能なのか。意味はあるのか?考えてもみてほしい。プレスリリースによれば、日本は04年、カナダから約173万8000tのナタネを輸入し、そのうちの171万5000tが組み換え不分別だった。今年も同程度、入ってきているだろう。この中に、理論的には組み換えnapus、非組み換えnapus、組み換えrapa、非組み換えrapaが入っている(現実には、作付け面積の99%以上がnapus)。サンプリングしても、粒がごく小さく、外観からnapusとrapaを区別するのは不可能だという。

 また、DNAレベルで検査しようとしても、rapa特有のDNA配列を検出したからといって非組み換えrapaかもしれず、RT73系統特有のDNA配列を検出してもそれは大半が組み換えnapus由来のもの。「rapaでなおかつ組み換え体」をDNAレベルで確認するのは、困難を極めるはずだ。

 栽培試験で確認する方法もないわけではない。サンプリングして1粒ずつ播種して育てて、除草剤を散布し生き残ったものがnapusとrapaのどちらかであるかを調べる。だが、統計的に意味のあるデータにするには何十万という栽培試験を行わなくてはならず、事実上無理である。

 私なら「組み換えrapaは、米国とカナダで安全性評価済みだし、05年産は日本には入ってこない。財政厳しき折、お金を費やして検出法を研究したり栽培試験をするのはダメ。カナダ政府も再発防止すると約束しているのだから、この問題はこれで終了!」と言いたい。

 けれど、そんなことを厚労省・農水省がプレスリリースに書いたら、「安全軽視」などと反対派から猛批判を受けるのはまあ、間違いない。両省としてはゼロトレランスを標榜し、「検査します」と言うよりほかないのだ。つくづく同情してしまう。カナダの一種苗業者と十数人の農家に振り回される生真面目ニッポン……。

 「安全な食べ物を」と検査にうつつを抜かして、食べる分を残すのを忘れていた、食べ物を買うお金がなくなった、食べ物を輸出してくれる「友人」がいなくなった、などという事態にならないように。来年こそは、現実的に「食の安全」を追究できる良い年にいたしましょう。(サイエンスライター 松永和紀)

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