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松永和紀のアグリ話

昨年の寒天ブーム、流行の速さに指摘批判が追いつかず

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2006年1月11日

 「企業は、我田引水もほどほどに」。群馬大教育学部教授の高橋久仁子さんの話は相変わらず切れ味よく、世間の健康志向をビジネスに利用する企業と振り回される消費者の問題点をズバリ、指摘するものだった。1月7、8日に和歌山市内であった日本病態栄養学会学術集会の教育講演。その興味深い内容をご紹介したい。

 高橋さんは、「フードファディズム」(Food Faddism、食べ物や栄養が健康や病気に与える影響を過大に評価したり信じること)という概念を日本に紹介した研究者で、食情報の問題点を指摘し続けている。最近は、「おもいッきりテレビ」「発掘!あるある大事典II」「ためしてガッテン」などの健康情報番組を毎回ビデオに録り、元になっている学術論文を探し出して学生と一緒に分析している。企業の広告についても、問題があればお客様相談室に電話してその回答も情報として収集するという。

 こうした日頃の丹念な調査に裏付けられた豊富な実例と解析の鋭さは、さすがの一語に尽きる。例えば、「おもいッきりテレビ」は2004年3月8日、「糖尿病を防ぐためには、料理に少量のシナモンをふりかけ、毎日適量のビールを飲み、ナッツをつまみにするといい」と放送した。高橋さんは、元になった学術論文3報を紹介。「食後に1、3、6gのシナモンをカプセルで40日間のませたところ、2型糖尿病患者の血糖値が18〜29%、中性脂肪値が23〜30%低下した」という内容の論文が「料理に少量のシナモンを振りかけ」に改変されたことなど、鮮やかに指摘した。シナモン一振りはせいぜい20mg程度しかない。

 さらに興味深かったのは、「健康食品」利用の問題点7項目だ。
(1)有毒物質を含有する場合(例:2002年の中国製ダイエット食品による死亡被害)(2)医薬品成分を含有する場合(例:食欲抑制剤のフェンフルラミン、バイアグラの成分であるクエン酸シルデナフィル)
(3)一般的食品成分でも病態によっては有害(例:流行のアミノ酸系食品は、タンパク質摂取を制限している腎臓疾患患者には有害)
(4)抽出・濃縮等による特定成分の大量摂取(例:βーカロテン錠剤の投与により、喫煙者の肺がんが増加)
(5)食生活の改善を錯覚させる(例:野菜を濃縮した錠剤を1日の目安量飲んでも、生の野菜に換算するとわずか22g)
(6)「治療効果」の過信で医療を軽視(例:がん患者が、医師に黙って健康食品を利用することで病状を悪化させる)
(7)非食品の食品化(例:プロポリスでアレルギー症状、イチョウ葉で脳出血など)

 高橋さんは「誰が何のために出す情報かを検討し、フードファディズムが紛れ込んでいないか考えてほしい」と講演を締めくくった。その後、高橋さんと話をした。会ったのは2年ぶりくらいだろうか。緻密な情報収集、必ず情報の元になった学術論文に当たること、問題のある企業名を明確にして発言する勇気……。いつも学ぶことばかりだ。その話の中で特に印象に残ったのは、最近の「健康に良い食べ物」情報の流行は早い、という指摘だ。批判や取り締まりが、流行の早さに追いつけない。

 例えば「痩せられる。血糖値や血圧も下がる」と昨夏大流行した寒天。きっかけは一昨年12月、イギリスの医学誌に学術論文が載ったこと。その後、1、2月に「ためしてガッテン」などが特集したが、そのときはそれほど話題にならず、6月に「発掘!あるある大事典II」が取り上げて、人気に一気に火がついたという。一時は店頭から寒天が消えたが、昨年秋頃にはもう山積み。夏は寒天を食べやすいという季節的な事情もあったのだろう。ブームは一瞬だった。

 そして、高橋さんによれば臨床現場で「寒天が原因ではないか」と疑われる事例が表面化していたらしい。「粉寒天をお湯やお茶などに入れて飲んでから食事をする」のが手軽な方法として流行った。そして、実行した人の中に、便秘などに苦しむ人が現れたという。粉寒天の膨潤が足りず、体内に入ってから寒天が水を吸って膨らんだのか。「所詮は寒天。問題は起きない」と思いがちだが、健康リスクが生じうるのか。

 そもそも、この寒天ブーム。最初から怪しかった。きっかけになった論文も、高橋さんに教えていただいた。日本人の糖尿病の大半を占める2型糖尿病の患者を、通常の食事療法群とそれに寒天もプラスする群とに分け、12週間後に検査したところ、体重やBMI、総コレステロール量などが、寒天摂取群でより改善されたという内容。横浜市立大医学部の研究者などによるもので、PubMedで要約(PMID:15642074)が読める。

 確かに、改善の程度には有為な差があるけれども、寒天を摂取していない人も数値は改善している。さらに、この研究はあくまでも糖尿病患者に食事療法を施した場合のもの。ここから「健康な人も寒天を食べれば痩せられる」と言うには、かなりの飛躍がある。

 国、自治体、研究者などは、被害事例をつかんだ場合、ほかの症例を集め原因と結果の因果関係を明確にしたうえで発表しようとする。責任ある立場だけに、科学的な根拠がはっきりしないまま公表しては、製造販売する企業に訴えられかねない。しかし、万全の「証拠」を得るには時間がかかる。これだけ流行が早いと、その努力が実った時には、現実にはブームが去りその情報は役立たない。高橋さんも、研究者としてこの事態にどのように対応したらよいか、考えている様子だった。

 消費者がまず、流行にそのような問題点があることを十分に理解すべきなのだろう。そして、私のような者の役割は?「まだ科学的根拠はそれほど明確ではないけれど、問題が起きている」とリアルタイムで確度の高い情報を発信していくには、優れた情報収集力、解析力、そして勇気が要る。

 高橋さんに新年早々また、「宿題」を渡された気がする。読者の皆さんのご協力もいただいて、現実に役立つ質の高い情報発信を心がけたい。今年もどうぞよろしくお願いいたします。(サイエンスライター 松永和紀)

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