ホーム >  FoodScience過去記事 > 松永和紀のアグリ話 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

松永和紀のアグリ話

科学的に働きもっと儲けるためのGAP

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2006年2月1日

 昨年春頃から急に聞く機会が増えた言葉、GAP。Good Aguricultural Practics、すなわち適正農業規範である。先週には、農水省もホームページ「食品安全のためのGAPに関する情報」 を立ち上げた。生産者が中心になって昨年から動いている「JGAI協会(※編集部注:現在は日本GAP協会)」 は、2月中に日本版GAP決定版とも言える「JGAP第二版」を公表する。いよいよ、GAPが動き始めた。

 EUには、民間主導のEUREPGAPがあり、第三者認証制度も作られて大手小売店との取引においては必須要件になっているという。ところが日本のGAPは、官民入り乱れてかなり分かりにくい状況だった。

 農水省生産局は昨年3月、「環境と調和のとれた農業生産活動規範」(農業環境規範)を公表。消費安全局は同4月、「食品安全のためのGAP」策定・普及マニュアルを公表。民間も、イオンの「農産物取引先様品質管理基準」があり、日本生活協同組合連合会の「生協の産直における適正農業規範」があり、EUREPGAPを日本で取得した生産者が呼び掛けて作ったJGAI協会によるJapan-GAP(JGAP)がある。県の中にも、GAPを作成したところがある。

 なんといっても、肝心の農水省が、食の安全と環境負荷軽減の2つに分かれてしまっているのが、分かりにくい。典型的な縦割り行政になってしまっている。一方、民間は、どうしても顧客にアピールする食の安全を優先させてしまう。そして、食の安全を追求するあまり、ちっとも環境負荷軽減につながっていない農業もある。農家から見れば、どうにもすっきりしなかった。

 私には、JGAI協会の方針が最も妥当なものに思える。同協会は、GAPを適切な農場管理ととらえ、国際的な整合性を得るために世界各国のGAPを参考にし、日本版のJGAPを作り上げた。

 JGAPは、次の4項目に分けて管理ポイントを整理しリスト化して、チェックしていく。
1)農産物の安全
2)環境への配慮
3)生産者の安全と福祉
4)農場経営と販売管理

 具体的には、農薬の適正な使用や保管はもちろんのこと、ドリフト防止も管理ポイントとして挙げる。世間には、化学肥料を使わず堆肥や有機質肥料を農地に入れれば自然で安全な良い農法と言うような、おおいなる「勘違い」がまかり通っているが、投入量が重要であることや、病原性微生物による有機質肥料の汚染を防止する必要があることなども、押さえている。

 作業者の安全確保のために、圃場と施設の近くに救急箱があるか、緊急時に連絡をとるべき警察や消防署、病院などの最新の電話番号がすぐに見られるようになっているか、などの細かいポイントもある。JGAI協会のJGAPを読んでよく分かることは、すべてが連関しているということだ。

 農薬のドリフト防止にしても、残留農薬ポジティブリスト制をクリアするためであり、無駄な農薬を使わない、拡散させないという意味では、環境負荷軽減策でもある。また、作業者の安全確保や福祉がなければ、食の安全は維持できない。そして、商品が売れなければ、良い農場を存続させていくこともできない。 JGAI協会のJGAPには、トータルで日本の農業をどのように再生させるか、という思想が感じられる。

 とはいえ、農業現場ではまだ、多くの農家がGAPを知らないし、関心のある人も必要性を感じながらも尻込みしている。「大変そう」「いちいちチェックリストを作って面倒臭い」と言うのだ。そして、結構強いのは、「そこまで、がんじがらめにされたくない」という気持ちだ。GAPをするかしないかが、また販売流通業者による農家の選別に使われてしまうのではないか、彼らの顔色をうかがって農業をするはめになるのではないか。そんな恐れを、多くの農家が感じている。

 JGAI協会事務局の武田泰明さんは「誤解を解きたい」と力を込める。「当たり前にやるべきことを、農家が当たり前にやっていく。それを、きちんとチェックする仕組みなのです」。それぞれの特徴ある農法を束縛するものでもなく、このJGAPを生産・農場管理の土台にしてもらうのが狙いだという。

 私も、GAPを巡る一部の動きには、農家と同じような不安を抱いていた。これまでも、消費者に迎合した販売や流通主導のシステムに、農家は苦しめられてきた。またか、という思いがあった。しかし、JGAI協会のJGAP第二版の内容を説明してもらって、印象を大きく変えた。科学的にとても納得できる内容だったからだ。

 農家は、もっと気楽に、自分の農業をもっと良くする手段、マニュアルとして、手に取ってみてはどうだろうか。実行するしない、認証を受ける受けないは別として、見る価値がある。自分が漠然とやってきた作業も、整理して考えることができるだろう。そうやって、もっと科学的に効率よく働いて、よりよい農産物を作り、もっと儲ける足がかりにすればよい。

 JGAI協会には現在、75の生産者・生産者団体が加わっている。また、賛助会員として25の食品メーカーや流通業者がいる。その中の1社、米穀卸の「ミツハシ」商品部、坂野勝則さんが、こんなことを言っていた。「農家も、私たちと同じ食品事業者なのです。田んぼからお茶碗まで、食卓に安全を届けましょう。共に環境を守りましょう。30年後に農業が、地球環境に貢献できる産業として尊敬されるようになるといいなあ」。

 この言葉に共感する農家は多いはず。手段はいろいろだが、GAPもその一つになりうるはずだ。(サイエンスライター 松永和紀)

⇒ 松永和紀のアグリ話記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOMが「第1回食生活ジャーナリスト大賞」を頂くことに決まりました(3/28)
FOOCOMはこのほど、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の「第1回食生活ジャーナリスト大賞(ジャーナリズム部門)」…【全文を読む】
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。