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松永和紀のアグリ話

GMこぼれ落ち、データ構築のためにも監視調査続けて

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2006年2月15日

  GM(遺伝子組み換え)ナタネの自生状況を調べている国立環境研究所が、2005年春の調査結果をまとめ、先週ウェブサイトで公表した。千葉県内の国道沿いの調査で、1156地点を調査しそのうちの35地点でGMナタネを確認。04年と同じ地点にGMナタネがあり、ほぼ確実に世代更新し定着している、と考えられるケースもあった。

 調べたのは同研究所生物多様性研究プロジェクトの総合研究官、中嶋信美さん。04年に関東地方の幹線道路沿いや河川敷を予備的に調べ、千葉県・鹿嶋港や国道51号沿いでGMナタネの自生を確認している。05年は国道51号の佐原市–成田市約20kmの調査に絞り、東側道路沿いの1156地点で1個体ずつナタネの葉を採取し、遺伝子組み換えによって導入された除草剤耐性たんぱく質とDNAの有無を調べた。

 日本で認可されているGMナタネは、グリホサート(商品名ラウンドアップ)耐性とグルホシネート(商品名バスタ)耐性の2種。調査の結果、グリホサート耐性をたんぱく質レベルで確認できたのが28個体、そのうちDNAレベルでも確認できたのが26個体あった。グルホシネート耐性がたんぱく質レベルで認められたのは10個体、DNAレベルでも確認できたのは9個体だった。まとめると、調査対象1156地点のうち35地点で、GMナタネが確認されたことになる。

 04年の調査はあくまでも予備的調査で検体数が少なく、実験手法も確立できていない面があった。そのため、05年調査と比較してGMナタネの自生が広がっているかどうかを議論することはできない。ただし、04年調査でGMナタネがあった場所8地点のうち4地点で、05年もGMナタネが確認されており、うち1カ所はその地理的条件や生育の状況などからほぼ確実に、世代交代しているとみられるという。つまり、GMナタネが生育し種子をつけ、その種子が散らばってまた発芽し生育するというサイクルが、一部の地点では成立している。

 中嶋さんは、調査結果やナタネの分布、生育状況などから総合的に判断して、トラックで輸送中のナタネが今もこぼれ続けており、一部は繁殖定着しているとみている。ただし、現時点では国道51号沿いにはアブラナ科の近縁種はほとんどなく、種を超えた交雑は起きないと考えているという。

 読者の皆さんの誤解がないように念のため付け加えると、GMナタネが定着していても、法的には何の問題もない。「GMナタネは自生定着し挿入遺伝子が拡散することもあり得るが、周囲の生物多様性に影響を生ずる可能性は極めて低い」という評価書がまとめられ、カルタヘナ法に基づき認可されている。

 市民団体は、遺伝子組み換えによる挿入遺伝子が菜の花に拡散していくのも許せないようだが、そもそもあの菜の花の多くは明治以降に日本に入ってきた外来種。外来種に新たに遺伝子が挿入されたところで問題はないでしょ、というのが農水省、環境省のスタンスだ。

 ただし、評価書は「周囲の生物多様性に影響を生ずる可能性は極めて低い」としているだけで、本当のところはだれにも分からない。GMナタネが日本の地に定着後、拡大したり近縁種と交雑して生態系に影響を及ぼすことが本当にないのか、一定のモニタリングが必要だ。中嶋さんにも、同じ場所での調査を、複数年度にわたって続けてほしい。

 GM反対派市民団体のアジテーションを支持するつもりはないけれど、生き物と生態系に対して「何が起きるか分からない」という素朴な畏れは必要だ。リスクを封じ込めるには、日頃からモニタリング調査をしっかりして、異変の萌芽をすばやく摘み取るしかない。

 逆に言うと、行政や研究機関がGMナタネの動向を把握し情報をなるべく早く公開し、「確かに自生しています。でも、拡大傾向はこの程度です」としっかり示していくことが、市民の信頼感の醸成につながる。GMOに対する冷静な理解にも結びつくはずだ。

 どうも日本という国は、当面は役に立たないかもしれないモニタリング調査や基礎的な栽培実験などを軽視する傾向にある。英国DEFRAの研究の充実ぶりなどうらやましいが、日本では研究者が研究費獲得にもあくせくするのが実情だ。資金面だけが支障ではない。農水省は、市民の「交雑防止を」との声に応えて、栽培実験の指針を出し、交雑防止距離を定めている。北海道は、反対派の強い声を受け、それにさらに輪をかけた長い交雑防止距離をとるように条例で規制した。研究所が集まる茨城県つくば市も独自の指針を検討中。研究者からは「もう遺伝子組み換えに関する栽培実験をするのは事実上無理」という声が聞こえてくる。

 大量のGMOを輸入しその恩恵を存分に受けながら、その影響を推し量る調査や実験さえままならない矛盾。このままでは、日本では生態系影響に関わる基礎データが皆無のまま、輸入量だけが際限なく増え続けるだろう。

 あまりにも現実と乖離した反対運動が、自身の腕を縛ることに、反対派の人たちはなぜ気がつかないのだろう。なぜ、研究者を吊るし上げるようなことをするのだろう。実験を許さない姿勢は、研究レベルを低下させる。そうなれば、本当に深刻な事態がもし起きても、対処できなくなる。それが、もっとも怖いことのはずなのだが。基礎実験とモニタリングの重要性に、もう一度目を向けたい。(サイエンスライター 松永和紀)

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