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松永和紀のアグリ話

ポジティブリスト制への疑問2 保証書で解決するか?

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2006年3月8日

「ポジティブリスト制度適合の保証書を出せ」。流通業者などが、商品を納入する業者・企業に対して相次いで、保証書を求め始めた。とんでもない話だ。科学的にも企業倫理上も、こんな保証書を出せるはずがない。

 流通業者は、「うちの店頭に並んでいる商品は、ポジティブリスト制度に適合している」と確認しておきたい。また、流通業者に加工食品を納入する食品メーカーだって、制度をクリアしていることが明確な原材料を使いたい。加工食品は原則として、残留基準に適合した原材料を用いて製造されたり加工されたりしていれば流通を許されることになっているからだ。

 だから保証書を、という気持ちは、よく分かる。流通業者は食品メーカーに保証書を求め、食品メーカーは原料メーカーに保証書を求める。そして、原料メーカーは、国内の生産者や輸入商社に保証書を求める。だから、国内生産者は前回書いたように、検査機関に駆け込まざるを得ない。商社は、海外の生産者にそんなものを求められるはずもなく、困ってしまう、という構図だ。

 保証書を要請している文書をいくつか見せてもらったが、保証書と共に、生産地や生産者に関する情報、使用している農薬などのリスト、残留分析成績書などを求めているものが多い。

 しかし、100%制度に適合していることが分かっている食品など、この世の中にあるはずがない。これまでさんざん書いてきた通り、農薬は散布によるドリフトが起こりうる。生産者は、ドリフト防止に努力するだろうが、100%防ぎ切れるものではない。それに、農薬は土や水などを介した非意図的な汚染の可能性もある。

 また、海外で生産される農産物は、農薬の種類や使用方法、残留の程度まで、日本側が日本の法律に基づいて規定することなど不可能だ。契約栽培でプレミアムを支払うなら別だが、通常は生産者を特定することすら難しい場合も多い。残留分析にしても、サンプリング検査である以上、保証手段にはなり得ない。

 食品は、完全に管理された環境下で製造できる工業製品ではない。納入業者は、制度に適合するように最善の努力をするだろうが、絶対大丈夫という保証はできないのだ。

 ところが、巧妙な企業になると、「食品衛生法第11条に適合していることを保証せよ」と要請してくる。「できない」と回答すると、「では、食品衛生法違反の品物を納入するというのか」と言い出すのだ。「そんなものは出せません」と各企業が頑張っている業界もある。ところが、「出さないと、取引を打ち切るぞ」と言われ、出してしまう企業が出てくる。1社が出すとあとは総崩れになる。

 食品名を明示するのは控えるが、農産物を充分に精製したうえで、原料として食品メーカーに提供している業界の例を紹介しよう。しばらくは、業界で申し合わせをして、どこの原料メーカーも保証書を出さなかった。

 実態としては、精製度が極めて高いので、栽培段階で農薬がどのように使われていようと、農薬が検出される心配はまずない。しかし、「食品に、100%問題なしというような保証書はなじまないし、自分たちが確認できないことを保証することは、企業倫理上も問題がある」という正論で、当初はまとまっていた。

 ところが、1社が保証書を出してしまった。「農薬が検出されるわけがないのだから、紙切れ1枚渡しておけばそれで済む」というわけだ。結局、残りのどの社も納入先の食品メーカーから、「あそこの社は出したのに、お前のところはなぜ出せない。それはお前の納入品が危ないということか」と圧力をかけられるようになってしまったという。

 私が思うに、保証書を求める側には2通りある。まず、ポジティブリスト制がどんなものなのか、まだ全然理解していない企業や担当者。極めて単純に、「新制度が始まるから対応しなければならない。基準に適合しない品物は納入させない、取り扱わない」と思い込んでいる。

 もう1つのタイプは、制度を理解し、自分たちが科学的に意味の無いナンセンスとしか言いようがない保証書を求めていることを、百も承知の企業・担当者たちだ。分かってはいるが、自分たちが責任を逃れるためには、納入業者に「大丈夫だろうな」と責任を転嫁していくしかない。こうして、保証書要請がどんどん「上流」へとさかのぼって行くのだ。

 「保証書を求めることは、不幸の手紙を送るのと同じだ」と看破した知人がいる。自分のところに不幸の手紙がきたら、すかさずだれかに出し、ちょっとホッとする。確かに、よく似ている。今後、保証書要請の動きがピークを迎える、とみる関係者は多い。求められたら、なぜ出せないのか、なぜ意味がないのかを、相手に十分に説明してほしい。不幸の手紙は出さず踏ん張るのが、企業の持つべき倫理感であり、社会的な責任の取り方だと、私は思う。(サイエンスライター 松永和紀)

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