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松永和紀のアグリ話

食品の安全性は検査のみによって確保できるものではない

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2006年3月22日

 厚労省の「平成18年度輸入食品監視指導計画(案)」について行われたパブリックコメントの回答が先週、公表された。100%の自主検査を求める意見に対して「食品の安全性は検査のみによって確保できるものではない」などと答えるなど、含蓄のある内容。ポジティブリスト制への対応にも直結する中身なので、国内農産物関係者もぜひ目を通していただきたい。

関連記事1:「平成18年度輸入食品監視指導計画(案)」についての御意見募集の結果について
関連記事2:食品に関するリスクコミュニケーション

 輸入食品監視は、3段階で対応することになっている。
1)輸出国における対策2国間協議により、日本の食品衛生規制を守るように要請し、対策を講じてもらう。日本は、必要に応じて現地調査を行う
2)水際(輸入時)での対策各検疫所で届け出審査。食品衛生法不適格の場合に可能性が高く、食品などについては、「検査命令」が出されており、輸入者が費用負担して検査し、基準以内におさまっていることが確認されれば、輸入可能となる。そのほかの食品については、「モニタリング検査」が行われるが、こちらは試験結果が出る前に輸入可能。2005年度は7万7000件が検査される予定で、残留農薬の場合は200種類の農薬の残留状況がチェックされている。そのほか、業者自身による初回輸入時の検査や、定期的な自主検査も求められている
3)国内流通時での対策各都道府県が収去検査

 カビ毒のアフラトキシンや腸管出血性大腸菌0157など、健康リスクの高いものについては、モニタリング検査でひとたび検出されれば、その食品に対して直ちに検査命令が出される。検査して基準以内におさまっていることを確認しない限り、輸入できない仕組みだ。一方、残留農薬や動物用医薬品は、モニタリング検査で1回目の違反が出た後は、50%モニタリング検査に移行し、2回目の違反が出れば、「違反の蓋然性が高い」として検査命令に移行する。しばらくして、輸出国で再発防止策が十分に講じられていることなどが確認できれば、命令解除となる。

 パブリックコメントでは、「1回でも法違反があれば検査命令の対象にすべき」という意見が出された。つまり、残留農薬や動物用医薬品の違反への対応が甘い、というのだ。それに対する回答が、次の通りである。

 「農薬や動物用医薬品の残留基準違反の場合は、基準値に十分な安全係数が見込まれていること、1回の違反では偶発的な事例も考えられることから、2回以上の違反が発見された場合に実施しているところです」。

 また、輸入業者による自主検査について「100%実施することを法制化すべき」という意見が出されている。これに対しては、次のような回答が出されている。

 「輸入者が行う自主検査については、少なくとも初回輸入時や定期的に行うよう指導しているところです。また、食品の安全性は検査のみによって確保できるものではなく、食品供給行程の各段階で必要な措置を行うことが必要であり、これらの措置が図られている場合には100%の自主検査は必要ではないと考えられています」。

 妥当なリスク管理だと思う。この考え方は、国産食品にもある程度は適用できるはずだ。特に、農薬のドリフトなどにより偶発的に残留基準を超えたと考えられる場合、2回目の違反が発見されるかどうかをしっかりと見極めることが、重要になってくるのではないか。残留農薬のポジティブリスト制についても、早くこのような具体的なQ&Aが公表され、リスクコミュニケーションも適切に実施されて消費者や小売業者などの理解も進めばよいのだが。

 先日、書店で表紙に『日本の「食」が危ない 中国野菜と世界の食材』と大きく入った雑誌を見つけた。講談社の「クーリエ・ジャポン」4月6日号。慌てて中身を見ると、なんと言うことはない。中国の土壌の重金属汚染や、インドネシアでホルマリンが保存料として使われる場合があること、米国のBSE(牛海綿状脳症)牛肉問題(ちなみに、記事の見出しは「狂牛病」になっている)や韓国のキムチ騒動などについて、それぞれの国のメディアの記事を紹介している。

 これらの問題と日本のつながりは、BSE以外は明確ではない。『日本の検査体制「抜き取り」調査に限界』という短い説明が添えられているだけ。その内容も、検査命令とモニタリング検査の区別を明確に伝えず、「あくまで抜き取り検査なので安全性の確保に限界はある」と書く。「抜き取り検査がいやなら、全品検査して飢え死にしたらどうですか」と言いたくなる。

 リスク管理という考え方のかけらもないのだ。このような煽るだけの記事は、ひと頃に比べてずいぶんと減ったように思っていたが、また「ブーム」が再燃してしまうのか。ポジティブリスト制の取材をしていると「結局、問題はマスメディアの出方なんですよ。健康リスクのない基準オーバーを、危険と書くのはウソでしょう。マスメディアがちゃんとすれば、新制度に移行してもそう大きな混乱は起きない」と言われてしまうことが多い。役所の職員ではなくむしろ民間人に、そう指摘される。全くその通りで耳が痛い。(サイエンスライター 松永和紀)

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