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松永和紀のアグリ話

農取法はダメで食衛法はOKでもメロンの大量廃棄

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2006年4月12日

 このところ、種子消毒の問題がとても気になっている。きっかけは、種苗メーカー、サカタのタネが先月、メロンの種子の消毒を誤ったとして種子の回収を発表したこと。健康リスクに影響しないことは明らかなのだが、熊本県の生産者は、既に実っていたメロンの出荷を断念して廃棄してしまった。

 問題となったのは、サカタのタネが昨年11月から売ったアンデスメロンの種子の一部。農薬取締法により、メロンにはチウラムという殺菌剤を1回しか使用できないが、種子に消毒などの処理を施す際に2回使ってしまったという。この場合、サカタのタネが農薬の使用者であり、責任がある。購入して播種栽培した農家は、農薬取締法上の責任は問われないし、できたメロンも、チウラムの残留基準値をオーバーしていない限り、食品としては法律には違反していない。

 しかし、熊本日日新聞3月25日付記事は、JA熊本経済連が残留農薬分析を行い残留していないことを確認したものの、35ha分のメロンの出荷を断念したと伝えた。被害額は約3億4000万円。同紙は「風評被害の懸念などから、食の安全を第一に考え廃棄に踏み切った」と書いている。

 記事によれば、生産者側とサカタのタネは損害賠償協議に入っているという。サカタのタネが、生産者の減収分をある程度、負担する形になるのだろう。だが、メロンが安全上、問題がないのも明らか。廃棄とは、なんとももったいない。

 このほか、雪印種苗も3月23日付で、「スィートコーン種子」回収に関するお詫びとお知らせを出している。これは、適用のない農薬をうっかり使ってしまったミスだ。

 種子消毒については、2002年の農薬取締法改正当時から業界ではかなり話題になっていた。それまでは、種苗会社がどんな農薬を使おうと何回使おうと、事実上構わなかった。ところが、改正法により使用者責任が問われることになり、種子消毒にも適用のある農薬を使い、使用回数にカウントされることになった。

 したがって、以前はメロンの種子消毒にチウラムを2回使ってもまったく問題なかったが、改正後はチウラムを使えるのは1回だけ。種子消毒で1回使ってしまうと、栽培時にはもう使えないことになった。このカウントに対して、農薬業界や種苗業界では「科学的でない」という批判が強い。

 まず、種子消毒に使う農薬は極めて微量だ。04年12月に開かれた日本農薬学会レギュラトリーサイエンス研究会で種苗メーカーの研究者が配った資料によれば、種子消毒の使用量は栽培時の数千分の一しかない。また、作物が幼い頃に病原菌などに侵されることなくすくすく育てば、その後の農薬の使用量も比較的少なくてすむ。種子消毒は、優れた減農薬技術なのだ。

 資料はさらに、種子消毒での使用を農薬の使用回数に含めてしまうと、農薬メーカーが種子消毒に非協力的にならざるをえない、という構造的な問題も指摘している。農薬を各々、使用してよい作物や使用時期、回数などが、メーカーの提出した栽培試験結果などを基に決められる。農薬を種子消毒に使えるようにするためには、農薬メーカーなどが栽培試験をする必要がある。

 しかし現状では、農薬メーカーがわざわざお金を出して栽培試験を実施して種子消毒で登録をとり、種苗メーカーが種子消毒に使った時、農家はその農薬の使用回数を減らさなければならない。その結果、農薬の使用量は激減する。これでは、農薬メーカーにとってはなんのメリットもない。したがって、農薬メーカーは消極的にならざるをえず、種子消毒がいかにすぐれた減農薬技術であっても利用は進まない。現実には、農薬メーカーもある程度は協力しており、種子消毒は行われている。だが、今回のような過ちも起きてしまった。

 面白いことに、有機農産物の規格では、化学合成農薬によって種子消毒された種子を使ってもよく、農産物に「農薬使用1回」と表示する必要もない。有機の種苗の入手が困難な場合には一般の種子および苗などの使用が可能、ということになっているからだ。現実に、多くの有機農家が化学合成農薬で消毒された種子を使っている。

 一方、減農薬栽培をしている農家が「特別栽培農産物ガイドライン」に基づき表示をする場合、種子消毒1回の種子を播き無農薬で栽培すると、農産物に「農薬使用1回」としっかりと表示しなければならない。有機農家は、この面では破格に優遇されている。

 この種子消毒の問題はなかなか難しい。種子消毒で使われた農薬がいかに微量であっという間に分解されるとしても、どんな場合にもまったく残留せず環境影響もないと保証するのは、科学的には無理。ならば、栽培時の使用と区別する根拠がない。だから、同じように適用外の使用は認めず、同じように使用をカウントするという、法的な理屈は分かる。

 でも、メロンが捨てられる現実は、哀しすぎる。ポジティブリスト制が始まった暁には、ドリフトによる農薬残留が見つかった農産物と同一ロットのものも、短絡的に廃棄されてしまうのではないか、と心配になる。

 今回の熊本の場合、「事情は分かった。我が社が引き受ける」と英断するスーパーマーケットはなかったのか。店頭で、種苗会社の勘違いによる違反であり食べても普通のメロンとなんら変わりないことを説明したうえで少し安くすれば、客は喜んで買ったのではないか。

 消費者も、廃棄が続々と続いた無登録農薬問題の頃に比べれば、成長している。今流行の「もったいない」というキーワードを上手に使えば、出荷販売に踏み切る生産者と企業の姿勢を評価する人も少なくない、と私には思える。「食の安全のための廃棄」というウソではなく、「私たちは、無駄な廃棄はしない」という姿勢をイメージアップにつなげる戦略を。ポジティブリスト制を前に、多くの方に考えていただきたい。(サイエンスライター 松永和紀)

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