ホーム >  FoodScience過去記事 > 松永和紀のアグリ話 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

松永和紀のアグリ話

アスパルテームの安全性疑念騒動に、欧州政府が迅速否定

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2006年5月10日

 人工甘味料アスパルテームに発がん性があるとする研究が昨年発表されて、欧米ではかなりの騒ぎになったのだが、欧州食品安全機関(EFSA)が5日、その内容を評価し、プレスリリースした。研究に数々の疑問を呈し、アスパルテームの安全性を再確認したという。人々の関心の高い研究を迅速に精査し、平易に簡潔に解説しており、日本の行政機関にも見習ってほしい見事な情報提供だ。

 研究したのは、イタリアのthe European Ramazzini Foundation ofOncology and Environmental Sciences (ERF) のSoffritti氏のグループ。ラットを7グループに分け、アスパルテームを1日に0、4、20、100、500、2500、5000mg(体重1kg当たり)、飼料に混ぜて食べさせ、死ぬまで飼育してから病変を調べた。各グループで雌雄別に100匹から150匹のラットを使う大規模な実験だ。

 その結果、アスパルテームの多臓器での発がん性を確認したと昨年発表した。一日許容摂取量(ADI)を現行の40mg/(体重1kg当たり)から20mg/kgにするように求めている。これを受け、EFSAはERFから詳しい研究データの提供も受けて検討し評価した。報告書の内容をごく簡単に紹介すると次の通り。

・実験に使用したラットのコロニーが、慢性呼吸疾患に侵されていた可能性があるのではないか
・腎臓や尿管などで腫瘍性の病変が見られるが、これらの反応は、ラットに刺激性の化学物質を高用量投与した時によく見られる反応。ヒトには関連しない
・末梢神経系における腫瘍の数は少なく、幅広く用量を変えて実験しているにもかかわらず、用量が増えれば影響が大きくなるという用量反応関係もはっきりしない。

 結論は、ADIなど現行の規制を変える理由はない、というものだった。(プレスリリース本文のほか、以前に紹介したことがある食品安全情報blogも、分かりやすく翻訳してくれているので、参照を)

 そもそもこの研究、どのラットも自然に死ぬまで飼育して、全部まとめて腫瘍の数を統計解析するという実に乱暴な実験だ。しかも、高用量のグループは、飼料の10%をアスパルテームが占める計算。その結果、腫瘍の数が多かったとしても、「だからヒトでも危ない」と言えるはずもない。ヒトの摂取量は、微々たるものだからだ。

 それでも、肥満が深刻な社会問題でアスパルテームの使用量も多い欧米では、マスメディアがこの研究結果をセンセーショナルに取り上げた。ウェブにも「アスパルテームが危ない」とうたうコンテンツが氾濫した。日本でも、一部の市民団体などが広報誌で取り上げている。

 アスパルテームのリスクについては、これまで何度も論争が起きており、各国の公的機関が安全性を認めているにも関かか、反対が根強い。「人工物は危ない」という感覚にぴったりくる物質らしい。そして、反対派にとってはまた一つ、危ないとする論拠ができたわけだ。

 これに対して、EFSAは迅速に対応した。すぐに再評価に着手することを表明し、ERFにデータの追加提出を求めた。ERFがなかなか応じないと、それも公表して強く要請。昨年12月にデータが提出されると、「やっと届いたので、これから3カ月から5カ月で結果を出します」と約束し、無事5月に評価リポートを発表、となったのだ。

 リポートは、ERFの研究が通常の発がん研究からかなり逸脱したものであり、実験のデザインとして問題が大きいことを、簡潔に示している。実験数値を示しながら「アスパルテームを250倍もたくさん食べさせているのに、結果は少ししか違わないんですよ」「高用量なのに、アスパルテームを食べさせていないグループよりもリンパ腫や白血病の発生割合は低いんですよ」と次々に矛盾を指摘するので、非常に分かりやすい。

 私のような毒性学の素人にとっては、学術論文を読み解く「いろは」を教えてもらうようなもの。英語を読むのはちょっと苦痛だが、最初にテクニカルタームを調べれば、あとは高校生レベルの英語力でもなんとかなる。こんなに丁寧に一つの論文の問題点をレクチャーしてもらえる機会はそうなく、実に面白く勉強になった。

 ERFも反論しているが、説得力に欠ける。EFSAとERFのどちらを信用すべきかは、一般市民にとっても自明のことだろう。毒性試験は、適正に行うのが容易なことではなく、実験のデザインによって結果が大きく変わってしまう。なのに、歪んだデザインによる結果のみを取り上げて「○○は危険」という主張が後を絶たない。せめて、「毒性試験を適正に行うのは非常に難しく、○○は安全とか△△は危ないとか、簡単に言えるものではない」ということを、社会の常識にしたいものだ。

 アスパルテームのリポートは、良い「例題」なのだと思う。日本の行政機関や食品安全委員会も、当たり障りの無いQ&Aばかりでなく、時にはこれくらい踏み込んだ解説、読み応えのあるリポートを出してほしい。(サイエンスライター 松永和紀)

⇒ 松永和紀のアグリ話記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOMが「第1回食生活ジャーナリスト大賞」を頂くことに決まりました(3/28)
FOOCOMはこのほど、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の「第1回食生活ジャーナリスト大賞(ジャーナリズム部門)」…【全文を読む】