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松永和紀のアグリ話

ポジティブリスト制への疑問6 輸入食品違反は急増する? 

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2006年5月17日

 大事な論文なので紹介しなければ、と思いながら、国内農業への情報提供が先決、とつい後回しにしてしまっていた。月刊誌「食品衛生研究」(日本食品衛生協会刊)3月号に掲載されている厚労省監視安全課・宇野真麻さんの論文である。2005度上半期の輸入食品の検査結果を、ポジティブリスト制の新たな基準に当てはめて調べ、制度施行後の基準値超過事例を推計している。

 論文では、対象期間を昨年4月1日から9月30日とし、この期間に検疫所に輸入届け出があり残留農薬検査を実施したデータを分析している。現行基準では「違反」は21件だが、ポジティブリスト制度が施行されていると仮定すると、135件に跳ね上がる。実に、6倍超である。

 論文はさらに、新たに違反となる114件を、国別や農薬別などに細かく見て行く。まず、国別でもっとも多いのは中国40件。続いて台湾22件、タイ16件、米国7件、韓国6件—-と続く。

 食品別では、マンゴー22件、スナップエンドウおよび未成熟さやえんどう5件、セルリアック5件、ねぎ5件—-。 農薬別では、シペルメトリン18件、メタミドホス14件、ジ フェノコナゾール9件、フルシトリネート7件、フルミオキサジン5件—-である。

 こうした数字が出てくると、とかく中国が危ないとか台湾は、とか言われやすい。しかし論文は、「これらの国からは野菜などの輸入量も多いことから、単純に輸出国により基準値超過件数を比較することは困難である」とする。

 そして、特に台湾産マンゴーを考察している。台湾産マンゴーは違反が23件(現行基準違反1件も含む)と、際立って多かった。検出された農薬の種類も5種類あった。しかし、超過件数が多かったシペルメトリンとフルシトリネートについて論文は、「台湾でもマンゴーに対し残留基準値を設定しているため、基準値を超えないための管理方法の必要性は理解しているはずであり、日本への輸出に際し注意する点を明確にすることは比較的難しくないと考える」と記述し ている。

 分かりにくいので、台湾衛生省のウェブサイトでもう少し詳しく調べてみた。すると、マンゴーにおける殺虫剤シペルメトリンの残留基準は0.5ppm、対する日本の基準は0.03ppm。フルシトリネートは台湾が1.0ppm、日本は0.05ppm。これだけ残留基準に差があれば、引っ 掛かってしまうのも無理はない。

 また、台湾産マンゴーの次に違反例が多いオランダ産セルリアックのジフェノコナゾール基準超過も、日本とオランダで基準に大きなずれがあるためのようだ。オランダでは残留基準が0.5ppmなのに対し、日本では現行は基準がなく、ポジティブリスト制施行後は一律基準(0.01ppm)が適用される。

 結局のところ、本欄3月15日付でも紹介した通り、輸入食品の違反は、基準のずれが大きな要因となるようだ。取扱業者は、生産現場の実態を把握して、購入しないか日本仕様の生産をしてもらい、基準をクリアするしかないのだろう。(国立医薬品食品衛生研究所安全情報部が、各国の残留基準を調べられるリンク集を作っていて、参考になる)

 さて、現行の6倍超という「仮定違反数」をどうみるか?宇野さんは論文の中で、「ポジティブリスト制度施行後に基準値超過件数が現行の何倍になるかを正確に推定することは困難である」と書いている。

 なぜならば、検疫によるモニタリング検査で、特定の地域、食品、農薬の組み合わせによる基準値超過が相次ぐと、命令検査に移行し監視が強化されるからだ。そうなると、検査数は増加し、一般に基準値超過が見つかるケースも増える。6倍超の「仮定違反」があるとすると、命令検査により違反数は飛躍的に増加し、何十倍にもなることも考えられる。

 一方で、マンゴーやセルリアックなど基準オーバーしやすい作物で、輸入業者がしっかり対策をとっていれば、輸入食品における違反数はそれほど増えないかもしれない。対策がどの程度まで進んだか、ふたを開けてみないと分からない、というのが実情だ。

 いずれにせよ、これまでも繰り返し書いてきたことだが、輸入業者の対応が不十分で新制度により違反数が急増したところで、「食の安全が脅かされる」などという事態とは関係がない。そのことをしっかりと踏まえて、今後は数字の意味を考える必要がある。

 なにより重要なのは、検査結果が迅速に冷静に、情報公開されて行くことだと思う。厚労省が昨年度前半の検査結果を、こうして論文として公表し、「ポジティブリスト制が施行されたら」という仮定で分析したことには、大きな意味がある。従来なら、このような仮定に基づく分析を公表することはなかったのではないか。この姿勢を評価したい。論文には、基準違反となる輸出国と食品、農薬の組み合わせが明確に書かれており、輸入関連業者の対策には非常に役立つ。

 ポジティブリスト制度開始後も、厚労省が迅速に集計結果を公表してくれれば、輸 入業者はさらに対策を講じることができる。東海コープ事業連合商品安全検査センター長、斎藤勲さんも、斎藤クンの残留農薬分析4月13日付で速報の重要性を書かれていて、私も大きく頷いた。

 ぜひ、役立つ速報を。そして、それを受けたマスメディアは「ポジ制移行で違反例続出。食の安全に赤信号」などと“水増し原稿”を書かずに、数字の本質を見つめた報道をしなければならない。(サイエンスライター 松永和紀)

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