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松永和紀のアグリ話

ポジティブリスト制への疑問7 マスコミの皆さん、お願いします!

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2006年5月24日

 最近、どの人にも言われる。「もうすぐポジティブリスト制開始ですね。問題はメディアの対応ですよ。基準値をちょっとオーバーしたというだけで問題視するような愚かな報道をしなければ、制度が始まっても騒ぎは起きない。メディアの人たちは、制度についてしっかり勉強していますか?」。うーん、ちょっと危うい。

 厚労省、農水省、食品安全委員会が4月から全国10カ所で開いてきたポジティブリスト制に関するリスクコミュニケーション(意見交換会)が23日、福岡市で開催され、全予定を終了した。 私は最後の福岡会場だけ、参加して様々な意見を聞くことができた。

 定員600人あまりの会場は満員。パネルディスカッションでは、会場から「スーパーなどが検査証明書を出せ、安全保証書を出せと言う」「食品事業者はパニックに陥っている」などの意見が続出。それに対して厚労省や農水省などが、「検査結果の提出を義務づける制度ではない。検査だけでは安全は担保できない。これまでと同様に、農薬の適正使用と生産履歴の確認が引き続き重要だ」と何度も説明するという構図だった。
 本欄3月1日付、3月8日付で書いたように、小売りという「川下」から食品メーカー、原料メーカー、生産者という流れで「川上」に向けて安全保証書を要請する動きが、相変わらず続いているのだ。

 象徴的だったのは、会場から「問題をマスコミできちんと取り上げて欲しい。保証書を出せというスーパーに、生産履歴などを回答しても納得しない。メーカーに無理難題を突きつけるなと言ってくれないか」という発言があった時のこと。

 コーディネーターを務める順天堂大学医学部公衆衛生学教室助手の堀口逸子さんが「リスクコミュニケーションには通常、メディアも入る。会場にはメディアの人たちもいるので、コメントしてほしい」と要請したのだが、まったく声が出なかったのだ。結局、堀口さんは「皆さんの意見は、メディアの人たちにも届いたと思う」と言って、その場を納めた。

 会場には、取材のために新聞記者や業界紙記者、テレビ局記者など5、6人はいたようだ。彼らは、傍観者としての意識しかないのか。あるいは、制度をよく理解できておらず発言のしようもなかったのか。

 私は非常に恥ずかしくなった。よほど発言しようかと思った。メディアが発言を求められて、組織としての役割、記者個人としての考え方を明らかにできないのでは、情けない。しかし、私は特定のメディアに所属するわけではないし、あの会場では一ライターの考えなど聞きたい人がいるはずもないので、止めた。まあ、これがメディアの実態だ。

 コーディネーターに発言を求められても声がなかった関係者が、もう一つあった。自治体である。会場から、行政による監視指導について質問があった。厚労省の課長が国の計画について説明した後、コーディネーターの堀口さんが「自治体の食品衛生監視指導計画について、説明してほしい」と会場に呼びかけたのだが、反応はなかった。さらに、「その計画はどこで見られるのか」と会場から質問があったが、答えはない。これが自治体の実態か?

 代わりに答えたのは、なんと消費者だ。パネリストとして坐っていた北九州市消費者団体連絡会の江口瑞枝さんが、「どこの自治体も4月1日に計画を策定している。ホームページを見たら出ていますよ」と情報提供した。

 リスクコミュニケーションにおいて、説明責任を果たさない。簡単な質問にもきちんと答えない。マスメディアと自治体関係者に失望させられた一方で、江口さんら消費者を代表する二人は立派だった。明確に消費者や生協の動きを説明し、終始落ち着いて消費者と生産者の連携の重要性を訴えた。

 特に江口さんは、制度開始により「食の安全」は前進すると位置づけながらも、「消費者に、農薬イコール悪というイメージが拡大するのではないか、と不安もある。ドリフトによる一律基準オーバーは、健康リスクがない。それなのに流通停止や廃棄をしてよいのか。そんなことでは、農家の生産意欲が後退してしまう。消費者も生産者の立場にも立って制度を理解していかなければ」と発言した。

 同様のことを言う消費者は、実は多い。流通業者も「安全証明書など、本質的な意味はない。基準オーバーの作物も捨てたくない」と口を揃える。でも、「メディアに下手に書かれたら、企業としては命取りだし…」と続くのだ。

 安全証明書騒ぎはまだしばらく続くのだろうが、流通業者の意識は実際にはかなり変わってきている。冷静な消費者も増えている。問題は報道だ。本欄でポジティブリスト制を初めて書いたのが2004年7月。私なりに最善を尽くして仕事をしてきたが(まだまだ書き足りないけれど)、残念なことに、もっとも変わっていないのはメディアに生 息する人々だというのが実感。というよりも、まったく知らないのだ。 3月に某局の看板ニュース番組のディレクターに説明したが、理解してもらえなかった。今、勉強中なのか。

 新制度は29日に始まる。恥ずかしくない報道をしてほしい。努力している人々を貶めないでほしい。私としては祈らんばかりだ。(サイエンスライター 松永和紀)

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