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松永和紀のアグリ話

ダイズイソフラボンの上乗せ摂取量をどう考える?

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2006年6月21日

 最近、豆乳に凝っている。商品によってかなり味に違いがあるので、いろいろと買って楽しむ。私は、健康食品には批判的なのだが、食品安全委員会がダイズイソフラボンの上限摂取目安量を設定したのを機にいろいろな資料を読んで逆に、「ダイズイソフラボンは、本当に効くかも」と思ってしまったのだ。とはいえ、買う側になってみるとこのダイズイソフラボン、困り者。なにせ、その「中味」がよく分からない。

 食品安全委員会が先月、特定保健用食品(トクホ)としての一日上乗せ摂取量の上限値を30mgとした後、これまで「健康になりたい」とわざわざ豆乳に手を伸ばしていた人は、はたと困ってしまったのではないだろうか。パッケージには、イソフラボン40mgとか60mgなどと表示してあるのだ。「えっ、これだけで上限値オーバー?」と怖くなった人もいたに違いない。

 食品安全委員会の資料を読むと、「ああ、豆乳に表示されているのは、イソフラボン配糖体としての含有量なのだな」と分かる。そもそも、イソフラボンといっても1種類の化合物ではなく、ゲニステイン、ダイゼイン、グリシテインの3種類あり、これらを総称してイソフラボンアグリコンと呼ぶ。そして、それぞれに糖が結合して、ゲニスチン、ダイジン、グリシチンという配糖体になる。食品中では多くの場合、配糖体として存在している。

 豆乳の表示は、配糖体としての含有量。食品安全委員会が設定したのは、糖がついていないアグリコンとしての量。では、豆乳の中にはイソフラボンアグリコンとしては何mg含まれているのか。これを知りたいところだが、分からない。

 しかし、実はこの解説もかなり簡略化されたものだ。ダイズイソフラボンを研究しているキッコーマンが、5月30日から6月1日に東京で開催された「第11回国際食品素材/添加物展・会議」で配った論文別刷り(FOOD Style21 2004年9月号、2006年2月号、Progress in Medicine2004年6月号、Fragrance Journal2004年8月号)によれば、ダイズには3種のアグリコン、それらに糖の一種であるグルコース1分子が結合した配糖体、さらに配糖体のアセチル化体、マロニル化体の計12種類のイソフラボン化合物が、約0.3%含まれているそうだ。

 丸大豆には主に配糖体のゲニスチンとダイジンが含まれ、イソフラボンが局在する大豆胚芽では、ダイジンとグリシチンが多い。これらの配糖体は、体内で加水分解されアグリコンになるが、3種のアグリコンの活性はかなり異なる。

 アグリコンは、卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)と類似の化学構造を持ち、エストロゲン受容体に結合することで、弱いエストロゲン作用を持つ。これが、イソフラボンの機能の源だ。

 そして、エストロゲン受容体には2種類ある。乳腺や子宮、卵巣などに多く発現しているα型受容体と、皮膚や骨、脳などに多いβ型受容体である。ゲニステインのα型受容体への結合能は、エストロゲン(17βーエストラジオール)を100とすると4、ダイゼインは0.1。β型受容体への結合能は、同様に17βーエストラジオールを100とした時に、ゲニステインが87、ダイゼインが0.5。結合能が違うということは、活性が異なるということだ。

 ずいぶんとややこしい話になってしまった。つまり、一口でイソフラボンが効くとか効かないとか言い、過剰摂取の害などと片付けてしまうけれども、実際には、何がどの割合で含まれているかによって、効き目や有害性は大きく変わる。さらに、キッコーマンの研究者が講演で述べたところによれば、配糖体の分解の程度にもかなりの個人差があるらしい。

 こうしたことからキッコーマンは、ダイズイソフラボンを抽出したサプリメントを開発販売した時に、体内吸収性に優れたアグリコンにしたという。また、どのアグリコンがどんな割合で含まれているかも明らかにしている。

 結局、キッコーマンが売り出しているサプリを飲むならまだしも、今私が飲んでいる豆乳が、どの程度の効果を持つかは、さっぱりわからない。やっぱり、過大な効果を期待せず、味を楽しんで飲むのが妥当なようだ。

 それに、私にとっては豆乳を飲むデメリットもある。豆乳を飲んでいるとどうしても、牛乳を飲む量が減ってしまう。ということは、カルシウム摂取量がかなり減る。豆乳のカルシウム含量が15mg/100gしかない一方で、牛乳には110mg/100gも含まれているからだ。

 牛乳摂取量が減った分、小魚などでカルシウムをたくさん摂ればよいのだろうが、そこまで食生活を変えるのはなかなか面倒だ。一種類の食品に偏向すると、バタバタと将棋倒しのように影響が出てくる。

 実は、豆乳よりももっとわけの分からないものを見つけた。100円ショップで売っていた「大豆イソフラボン」なるサプリメント。「女性の健康と美容をサポート」と説明しており、40日分が袋に入っている。なのに、価格はたったの200円。他社が売り出しているダイズイソフラボンサプリに比べて破格の安さだ。

 で、裏返して表示を読んだ。イソフラボンの量は書かれておらず、原材料名の1番目に来るのは乳糖。4番目に大豆胚芽抽出粉末。表示の欄外に、大豆胚芽抽出粉末80.00mgとある。これは、1袋(16g)に含まれる量なのか。少なくとも、この錠剤をダイズイソフラボンと思い込んで飲むのは、かなりの勘違いということになりそうだ。

 この手のいわゆる健康食品は、しっかりと見極める目を持ちたい。一種類の健康に良いと称する食品に頼るのでなく、さまざまな食品をまんべんなく食べる努力を。多分それが、もっとも合理的なのだ。(サイエンスライター 松永和紀)

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