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松永和紀のアグリ話

誤報に速攻制裁下すニュージーランド食品行政

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2006年7月19日

 ニュージーランドの食品行政が面白く、The New Zealand Food Safety Authority(NZFSA)のページをよく見ている。お気に入りはなんと言っても、メディアレスポンス。おかしな報道に、NZFSAが「間違ってますよ」と指摘するのだが、独特のユーモアがあり、見事な読み物になっている。

 たとえば、2005年10月25日付けの「Independent Herald」の記事「How safe is your food(あなたの食べ物は安全か)」に対するレスポンス。記事の筆者、Alison Whiteを名指しで、「NZFSAのサーベイランスやモニタリングプログラムの結果を悪用しているか誤解している」と指摘。「パンの94%に農薬が残留していると書いているが、間違っている。100%から検出されている。農薬は、コムギを育てたり貯蔵される時に使われており、害虫やカビによって引き起こされる極めて高いリスクを防ぐのに必要。私たちの検査では、問題になるようなレベルの残留農薬は、パンでは検出されていない」としている。

 また、食品着色料や食品添加物について、「これらの多くは『generally regarded as safe』(GRAS)に分類されており、GRASには水や砂糖も含まれている」「筆者が懸念を示しているものは、多くの国で長年にわたって研究され、安全が保証されている」「ほとんどの消費者が一週間に食品を通じて摂取する添加物や着色料よりも、一杯のコーヒーの方が発がん性が高く危険である」などと容赦がない。

 最後に、記事のタイトル「私たちの食べ物は安全か」を逆手にとって、「私たちのサーベイランスやモニタリングの結果によれば、答えは『とても安全』です」と締めくくっており、小気味いい。Independent Heraldの記事自体はもう読めないが、日本でもよく見られる農薬や食品添加物の恐怖をあおる記事と同類だろう。読まなくても、このレスポンスを読めばその内容は想像がつくではないか。

 もう一つ。新聞「The Nelson Mail」の2005年12月13日付記事「Elements of eating」に対するレスポンスも痛烈だ。「お宅のリポーターは、先日NZFSAの専門家と1日を過ごしたのに、事実を正しく伝えようとしておらず、失望させられた」と、まず先制パンチ。

 「記事は、データを正確に提示しているのに、その提示の仕方が感情的で不正確。情報をよく理解していない」と記す。データの質を吟味せず、数字だけを一人歩きさせ不安を煽る記事。そういえば日本でもつい最近、ありましたね。

 重要なのは、次の一節だ。「私たちは、Seager Masonが意見を持つ権利、その意見を新聞が掲載する権利には同意する。しかし、新聞には事実を正確に提示する義務もある」。Seger Masonは、ニュージーランドの代表的な有機農業組織の関係者らしい。だが、NZFSAは「DDTとある種のがんとの間の証明されない関係については、国立中毒センターの専門家の意見やがん学会のチェックを受けた方がいいんじゃないの?」などと、皮肉も強烈だ。

 NZFSAのメディアレスポンスには現在、計13本の記事が掲載されている。どの記事にも共通するのは、「間違った情報を提供された読者は大きな不利益を被る」という視点だ。報道批判というよりは、いかに一般市民に興味を持ってもらい正しい情報、多様な情報にアクセスしてもらうか、という点に大きな配慮がなされているように思える。だから、攻撃的な感じがせず、品がいい。

 私にこのページを教えてくれたのは、例によって国立医薬品食品衛生研究所の主任研究官、畝山智香子さんの食品安全情報である。私は、畝山さんのおかげで、諸外国にさまざまなリスクコミュニケーションのスタイルがあることを知った。畝山さん自身が、間違った言説が世間にあふれる中で、海外の多様で適正な情報を一般市民に提供しようと努力している。その落ち着いた姿勢には、見習うところが多い。

 翻って、日本の行政は? この手の報道や市民団体の主張の誤りを、その都度きちんと指摘し、正しい情報を提供するのは、行政の大切な仕事だと私は思う。なぜならば、一般市民の食品行政に対する関心が高まり情報が必要とされるのは、往々にして間違った報道が行われ市民の食への不安が高まった時だからだ。

 農水省のサイトを見ると、各種報道に対する農林水産省の考え方というページがある。でも、残念ながら真面目一方。事実誤認を指摘し、記事の訂正を求めるだけだ。
 なんだか、余裕が感じられない。現実には、訂正はほとんど載らないし、載ったとしても、新聞や雑誌の片隅に数行記されるだけ。効果は薄い。日本の行政も、そんな訂正記事を求めるよりは、市民を引き付け面白がらせる情報提供記事を書く技術を身につけ、プレスリリースとして流したらどうだろうか?

 この1カ月間、ロシア人研究者の遺伝子組み換え毒性試験の取材に追われ、ロシア人研究者や日本の市民団体などが非科学的に開き直る姿に唖然とすること、たびたびだった。あのジャンクサイエンスを見破れない報道機関があったことにも、驚いた。批判記事を書きながら、こちらまで惨めになってきたものだ。

 そして、ニュージーランドのメディアレスポンスを思い出した。批判を書くのは本当に難しい。ユーモアを大事にしながら、品位のある批判記事を書いて行きたいものだ。(サイエンスライター 松永和紀)

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