ホーム >  FoodScience過去記事 > 松永和紀のアグリ話 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

松永和紀のアグリ話

発がん物質ベンゼンよりも知りたい高含有アロエの安全性

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2006年8月2日

 健康食品として売られていたジュースが、もっとも含有量が高かった、という「皮肉」に、思わず笑いがこみ上げてきた。発がん物質、ベンゼンの話である。厚生労働省が28日、「清涼飲料水中のベンゼンについて」というタイトルでプレスリリース した。笑うなんて不謹慎な、と怒られるかもしれないが、発がんリスクは非常に低いのでご安心を。それにしてもこの話題、食に対する「思いこみ」を打ち砕く要素満載で、とても興味深い。

 海外では2月ごろからかなり話題になっていた。清涼飲料水に保存料として加えられている安息香酸と、酸味料や酸化防止剤として添加されているアスコルビン酸(ビタミンC)が反応し、ベンゼンが生成するという。

 ドイツや米国、英国、オーストラリアなど各国の食の安全にかかわる機関が、それぞれの国で市販されている清涼飲料水のベンゼン含有量を調べ、公表してきた。やっと日本でも、国立医薬品食品衛生研究所の調査結果がまとまったのだ。

 結論から言えば、どの国でも即座に健康影響に結びつくような清涼飲料水は見つかっていない。日本では31製品が分析され、30製品は10ppb未満。1ppbというのは、1g中に1ng含まれるという濃度で、ごく微量だ。ただし、DHCの「アロエベラ」という飲料水だけ、3検体の平均が73.6ppbに上った。

 食品中のベンゼンの含有量に基準はないが、水道法上の水道水のベンゼンに関する基準値は10ppb。そのため、厚労省がDHCに回収を要請し、同社が自主回収に踏み切った。

 この話、「清涼飲料水に発がん物質!」とメディアが面白おかしく書くには格好のネタ。実際に米国の市民団体「Environmental Working Group」も、「子どもたち向けのドリンクで、あってはならないこと」と米食品医薬品局(FDA)に抗議している。合成添加物の害、しかも複数使用による複合影響としても、添加物に反対する市民団体から猛烈な批判が出そうだ。だが、ことはそう単純ではない。

(1)どちらの添加物も、合成されて使用されているが、天然物としても存在する 実際に米FDAの分析で、アスコルビン酸は添加しているが安息香酸は加えていないクランベリージュースからベンゼンが5ppb以上検出されている。クランベリーにはもともと、天然の安息香酸が含まれているのだという。

 アスコルビン酸ももちろん、果物や野菜などに豊富に含まれている。となれば、2種の添加物を使用している清涼飲料水だけでなくほかの食品でも、ベンゼンが自然に生成している場合があるだろう。

(2)ベンゼンが合成される条件は、かなり微妙なものらしい ドイツ連邦リスク評価研究所(BfR)が公表した意見書によれば、2つの添加物の濃度や清涼飲料水のPH、温度や紫外線量、触媒として働くミネラル(鉄や銅などの含有量)などのファクターに、ベンゼンの生成量は左右される。米FDAによれば、糖やEDTA塩(鉄イオンや銅イオンなどと結合するキレート剤)が存在すると、ベンゼン合成が阻害されるという。

 FDAの公表データでは、同じ製品でも製造ロットによってベンゼンの含有量がかなり異なっている。原料やメーカーの製造工程がかかわるだけでなく、店頭に並んで売られるまでの保存状態も関係してくるのだろう。そうなると、品質管理は結構難しい、ということになる。

 実は、この清涼飲料水中のベンゼンは1990年ごろに大問題となった。米FDAは含有量を調べハザードにはつながらないことを確認したうえで、ソフトドリンク製造企業に自主的な解決を求めたことがある。しかし、米国でも今回、70ppbを超える製品が見つかっている。

(3)どの国でも、含有量ゼロは求めていない 発がん物質、しかも子どもが飲むもの、だからゼロに、という論法を展開しているのは、市民団体EWGだけ。なぜならば、呼吸や食事などで私たちはベンゼンをかなり多量に摂っているからだ。

 豪州・NZ食品基準機関(FSANZ)が、興味深い情報を提供している。1日のベンゼン摂取量として、呼吸220μg/車の1時間運転で40μg/喫煙で7900μg(ただし、これはEUの情報で、ほかに1800μg程度という説もあるようだ)/受動喫煙50μg/食品と飲料0.2-3.1μg—-などと紹介されている。

 もし、ベンゼンが70ppb含まれている清涼飲料水を1日に約200ml飲むとすると、計1.4μg摂取ということになる。呼吸や喫煙摂取に比べて非常に少ない。(1)で説明したように天然に生成することもあり、各国ともにゼロは要求せず、それなりの対策を講じながら摂取を抑えていこうという姿勢だ。

 結局のところ、ベンゼン含有自体はさして大きな問題ではない。私は、今回の問題について別の興味を持っている。アロエの安全性である。DHCの「アロエベラ」のベンゼン含有量は73.6ppbで、ほかの飲料水に比べて極端に多かった。

 繰り返すが、高いといってもすぐに健康リスクをもたらすというような量ではない。だが、原因を知りたい。アロエという原料自体が問題なのか、製造工程が重要なのか。安息香酸かアスコルビン酸を添加しないことで、問題は解決するのか。

 同社は、「アロエには高分子物質と呼ばれる多糖体、アロエウルシンやアロエシン、ミネラルや必須アミノ酸などが豊富に含まれている」「商品は、沖縄で無農薬栽培されたアロエベラを原料にし、栽培から生産販売までDHCが一貫したシステムで届ける高品質でおいしいドリンク」などとこれまで宣伝してきた。アロエは今は健康に良い食品と思われているが、昔は飲んだり食べたりされていなかった、と思う。本当に健康によいのか、ほかのアロエ商品は大丈夫だろうか。疑問は尽きない。

 問題化した以上は、自主回収に踏み切るだけではなく原因を科学的に明らかにしてほしい。それが、食の「機能」を売り物にする企業の責任の取り方だと思う。DHCの今後の対応に注目したい。(サイエンスライター 松永和紀)

⇒ 松永和紀のアグリ話記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。