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松永和紀のアグリ話

相次ぐ組み換え流出問題、対応も理解も個別に

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2006年8月23日

 米国で今月、未承認の遺伝子組み換え品種が流出していることが、相次いで確認された。知らない間に広がっているという事実は、人を不安にさせる。私自身、「遺伝子組み換え品種のコントロールはやっぱり机上の空論か」ととっさに感じた。だが、科学ライターとしては、これだけで「遺伝子組み換えの是非」という大雑把な議論に持ち込むわけにはいかない。作物の種類や生殖のしかた、人的な管理の仕方など、もう少し細かく、科学的に考えてみたい。

 8月10日に明らかになったのは、除草剤耐性シバの拡散。米国Scotts社が試験栽培していた除草剤耐性を持つ「クリーピングベントグラス」が、テストエリアから最大3.8km離れたところで生えているのが見つかったという研究だ。近く科学誌に掲載されるよ うだが、NEWS@NATURE.COMのニュースによれば、研究したEPAチームは、種子が飛んだり花粉が飛んで周辺のシバと交雑し、広がったとみている。

 同ニュースでは、National Institute of Invasive Species Scienceで侵入種の研究を続けている学者が、ほかの種への影響を懸念している。この手の栽培品種のシバは、有性生殖で種子や花粉により広がっていくほか、栄養繁殖により根を介して個体数を増やしていくことができるからだ。

 多年草であり、種子は小さく動物や人、車などに付いて容易に運ばれる。つまり、クリーピングベントクラスは、米国の気候風土ではもともと圧倒的に頑強。しかも、野生の近縁種も多い。

 そんな品種に遺伝子を導入し商業化が認められ全米のゴルフコースで植えられた時、拡散を防ぐような制御ができるのか。以前からEPAの研究者も、おおっぴらに懸念を表面していた。

 そして試験段階で、その不安が具体化してしまったのだ。今後は、拡散がどの程度、生態系へ影響力を持ちうるのかが、検討されなければならないだろう。

 もう一つは、18日にUSDAが公表したもので、未承認の組み換えコメが、商業用の長粒種に混入していたのが見つかったという。(今週のGMOワールド で、USDAのステートメントなどが詳しく紹介されている)

 このコメは1998年から01年にかけてフィールドテストが行われたという。コメの花はほとんどが自家受粉するが、他家受粉の割合もゼロではないから、花粉が風に運ばれてテストエリア外のコメと交雑したのか。あるいは、試験米そのものが人為的なミスにより流出してしまったのか。私は、USDAの発表文の書き方から見て、前者の可能性はほとんどないのだろうと思ってはいるが、原因はまだ公表されていない。

 シバと違うのは、コメが高度に人の管理を要求する作物であり、勝手に野外で繁殖する力がない点。多年草ではなく栄養繁殖もせず、籾米がぽとりと落ちて翌年発芽しまた実らせる、というような可能性も低い。しかも、同じ遺伝子を導入した別系統は、既に安全性評価済み。したがって、米国の規制当局は「食品としての利用においても、環境面においても安全」と断言している。

 環境影響という点から、少々事案の性質は異なるが、トウモロコシについても紹介しておこう。参考になる研究成果が昨年、論文にまとめられている。2001年に「組み換えトウモロコシが、生態系にある貴重な遺伝資源を“汚染”した」として、広く報道された研究結果について、フォローした論文だ。

 01年11月末、メキシコで在来種から組み換えトウモロコシに由来するDNA配列が見つかったとする論文が発表された。トウモロコシは他家受粉する作物で、花粉を遠くへ飛ばし受精する。メキシコは、トウモロコシの起源地で原種に近いものが多数あるとされ、組み換えトウモロコシの栽培が禁止されていた。しかし、農家が米国から食用に輸入された組み換えトウモロコシを栽培してしまったため、遺伝子が拡散したと考えられた。当時は「組み換え品種があっという間に聖地をダメにする」というイメージで、市民団体やメディアなどによって語られた。

 そのあとどうなったかが、「The Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」05年8月30日号 に掲載されているのだ。

 03年から04年にかけて、01年の論文で問題となった地域の125カ所から870の個体をサンプリングし、計15万3764の種子を得てDNA解析を行ったという。しかし、組み換えトウモロコシ由来のDNA配列は、全く見つからなかった。

 なぜこのような結果になったのか。研究者たちはまず、この問題を農家が理解し輸入されたトウモロコシを植えなくなって、“新規供給”が減ったことを挙げる。さらに、栽培種が在来種と交雑して雑種を作っても、不捻などの性質になりやすく自然淘汰されやすいことや、メキシコの農家が在来種を栽培する場合に、良いものが得られるように選抜しており、この段階でふるい落とされた可能性があることなども指摘する。

 しかし、もともと拡散が微量であったために4年後には“痕跡”が消えていたということが言えるだけ。もしメキシコでもっと大掛かりな栽培が始まった場合にどうなるかは、分からない。

 早足でさまざまな事例を見てきた。こうして並べてみると、流出・拡散の結果は、作物の種類や栽培規模、生殖の形式や人のかかわり方などによって大きく異なることが分かる。遺伝子組み換え技術を利用するならば、規制当局や企業も農家も、作物のそれぞれの特徴に合わせて対応していく覚悟と責任が要求される。恩恵を受ける消費者も、話を一緒くたにせずに個別に理解することが必要だ。言うは易し、実行はなかなか難しい(サイエンスライター 松永和紀)

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