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松永和紀のアグリ話

ポジティブリスト問題再燃!制度揺るがす基準値違反

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2006年9月13日

 北海道函館市内で栽培されたカボチャから、有機塩素系殺虫剤ヘプタクロル(実際に検出されたのは代謝物のヘプタクロルエポキシド)が残留基準を超えて検出され、道内で問題化している。ヘプタクロルは1972年に農薬登録失効しているが、難分解性であることか ら土壌中に残留していたのではないか、とみられている。北海道新聞によれば、複数の農家が生産したカボチャが基準超えとなり、農協は所属する農家約40戸の出荷を自粛し廃棄したらしい。これはなかなか厄介な問題だ。

 ヘプタクロルは、環境省の「化学物質の環境リスク評価」第1巻によれば57年に農薬登録され、72年に製造 中止となり、75年に登録失効した。この時期、有機塩素系農薬の多くが、難分解性などを理由に批判され製造中止となっており、ヘプタクロルも同様に登録失効したようだ。

 農薬として使われた約16年間に、計1500tの原体(農薬の効果をもたらす有効成分)が輸入され、商品化された。その後しばら くはシロアリ駆除剤として使われたが、86年に化審法により規制された。残留性有機汚染物質 (Persistent Organic Pollutants, POPs)の1つであり、諸国が協調してPOPsを廃棄したり削減を行うために01年、POPs条約を採択した後は、製造や使用が完全に禁止されている。しかし、既に環境中にあるペンタクロルの適正処分は進まない。99%以上が土壌中に存在するため、有効な処分法が見つからないのだ。

 発がん性の疑いがあるとされるが、マウスで確認されているだけでラットでは認められていない。また、この物質の製造や散布に携わる労働者を対象とした疫学調査では、こうした労働を行っていない対照群と優位な差が認められていない。ヒトで発がん性がないと明確に認められているわけではないが、発がん性についてはそれほど深刻に心配すべきものでもないだろう。

 もともと土壌中にあるのだから、作物が吸収し可食部に残留していても何の不思議もない。民間検査機関の方に尋ねると、どうもこれまでも時々、農産物から検出されることがあったようだ。私たちは知らないうちにほんの微量ずつ食べていたのかもしれない。

 それがなぜ、今になって問題化したのか? ポジティブリスト制開始に伴い、残留基準が設定されたからだ。これまでは基準がなかったため、多少残留していても問題とはならず、公表されることもなかった。 基準がないため、検査項目に最初から入れていない検査機関もあった。

 ところが、ポジティブリスト制開始に伴い残留基準が設定された。もっとも、毒性実験や栽培実験などをしっかりと行って、科学的な根拠に基づいた基準が設定されているわけではない。Codex基準もないため、オーストラリア(0.05ppm)とEU (0.01ppm)の平均をとり、0.03ppmという基準になっている。

 今回、問題となった北海道産カボチャは、道の発表によれば残留濃度が0.07ppm。新潟県が分析して検出したという。

 では、0.07ppmという数字は、健康影響という点からはどのよ うに考えたらよいのだろうか? 0.07ppmということは、カボチャ1g当たり 0.07μgのヘプタクロルが含まれるということ。一方、ヘプタクロルのADI(一日摂取許容量)は0.0001mg/kg/日。体重50kgの人であれば、0.005mg=5μgまでなら毎日摂取しても 健康影響が出ない、ということになる。

 ほかの野菜や畜産物などにまったく残留していないと仮定すれば、このカボチャを70gくらいは 毎日食べても大丈夫だ。ただし、これはあくまでも机上の計算。確かに、厚労省が公表している農産物の残留農薬検査(02年度)では、カボチャを含めてどの野菜や穀物からも検出されていない。しかし、カボチャから検出された以上、「ほかの農産物には残留していない」と言い切る根拠もないはずだ。ことさらに北海道産カボチャを危険視するのではなく、この際、さまざまな農産物や土壌について全国的に調べる必要があるだろう。

 今回のヘプタクロル残留を聞いてまず思い出したのが、同じ有機塩素系農薬の一種であるディルドリンだ。やはり分解性が低く土壌に残留している。キュウリが選択的に吸収するため、これまでもたびたび、残留基準を超えるキュウリが見つかっている(ディルドリンには、以前から残留基準がある)。

 なぜキュウリがディルドリンを吸収しやすいのか、長年研究されているがまだ突き止められていない。しかし、ほかの作物が吸収しにくいことも分かっている。そのため、東京都や山形県は、土壌に残っているディルドリンの量を測定し、高い地域ではキュウリを作らずにほかの農産物を栽培するように指導している。さらに、キュウリを頻繁に検査して、高濃度のディルドリンが残留しているキュウリが市場に出回りにくい仕組みを作っている。

 もしかすると、カボチャとヘプタクロルにも同様の関係があるのだろうか。カボチャはキュウリと同じウリ科、ヘプタクロルもディルドリンと同じ有機塩素系農薬。ウリ科は有機塩素系農薬を吸収しやすいとする説もあるようだ。

 いずれにせよ、データ集積が先決だ。キュウリ:ディルドリンの例は、土壌における残留状況や農産物それぞれの吸収しやすさなどが突き止められていれば、リスク管理が比較的うまく行き、風評被害も生まないことを示している。ヘプタクロル問題も、落ち着いてリスク管理を目指したい。 (サイエンスライター 松永和紀)

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