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松永和紀のアグリ話

対岸の火事ではない、米国ホウレンソウのO-157汚染

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2006年9月20日

 米国で、生のホウレンソウが原因と見られる腸管出血性大腸菌の食中毒事件が起き、大騒ぎとなっている。原因はまだ分からないが、家畜の糞尿中の病原性大腸菌O-157が水などを介して生食用ホウレンソウを汚染した可能性もあるようだ。これは対岸の火事ではない。日本の農業関係者も、同様のリスクがあり要注意である。

 FDAによると18日現在、計21州で114人がO-157に感染し、うち1人が死亡。18人が溶血性尿毒症症候群になっており、60人が入院している。FDAは、生のホウレンソウが感染源の可能性が高いと見て、袋詰めの生食用ホウレンソウやホウレンソウが入っているサラダ製品などを食べないように14日から呼びかけている。

 これを受けて、California州にあるNatural Selection Foodsという会社が自主的なリコールを始めている。同社は、有機農産物の生産では最も大きな企業。自社ブランドのほか、同社で生産と袋詰めをして他社名で売っているものなどもあり、合衆国内だけでなくカナダやメキシコ、台湾などにも商品が出されているという。しかしほかの国では感染者は見つかっていない。

 米国では、生食用のホウレンソウのかなりの部分がCalifornia州、しかもSalinas Valley近辺で作られているらしい。FDAはO-157がどこから感染したのかまだ公表していないが、新聞などでは次のような可能性が挙げられている。
(1)家畜の堆肥
(2)汚染されていた水を灌漑に使った
(3)農業労働者のトイレの始末などが悪く、そこから感染した

 O-157は通常、牛などの家畜や人の腸内にいることが多く、糞尿として排泄される。糞尿の処理が悪ければ、地下水なども汚染される。これらに、加工段階での洗浄や、その後の冷蔵が不十分だったことが加わり、菌が増殖したのではないか、というのだ。

 その説を後押しするのが、FDAが昨年11月に公表していたレター「Letter to California Firms that Grow, Pack,Process, or Ship Fresh and Fresh-cut Lettuce」である。この時点で、レタスやホウレンソウなど生で食べる葉もの野菜を栽培し、袋詰めなどの加工をして売るCaliforniaの農場、業者などに、O-157感染のリスクが非常に高いことを警告していた。

 このレターによると、1995年以降、生のレタスやホウレンソウなどが原因のO-157感染が全米で計19件起きており、400人あまりの患者が出て2人が死亡している。そのうちの8件が、California州のSalinasに起因するものだったという。

 レターは、付近の灌漑用運河やクリーク、川などでO-157が検出されていることを説明し、すぐに対策を講じるように強い調子で警告している。

 これを読む限り、今回の食中毒事件は起こるべくして起きた、という気がする。日本では、畑で野菜がO-157に汚染され食中毒につながったことが明確に確認されたケースはまだないようだ。しかし、日本土壌肥料学雑誌第73巻6号(2002)に載っている「2002 年名古屋大会シンポジウムの概要」によれば、女子栄養大学の上田成子教授は市販生食用野菜から病原性大腸菌(この記事では、O-157であるかどうかは分からない)を低率ではあるが検出している。

 農水省も、ウェブサイトに野菜の衛生管理について、このようなページを開設している。野菜や果物をいかに洗浄してリスクを減らすか、という観点から、農水省の委託研究なども行われている。

 日本でも地域によっては、家畜糞尿による地下水汚染が大きな問題となっている。また、農業現場では農家の高齢化や労働力不足により、堆肥を完熟させる作業(家畜糞尿を集めて発酵させ温度を上げ、中の病原菌を死滅させる作業)が疎かになり、未熟な堆肥が畑に投入されてしまう場合があるとも聞く。O-157は、健康な人であれば食品が汚染されていても消化してしまい症状が出ないケースが多い。たまたま、食中毒としてはまだ表面化していないが、リスクは上がっているとみてよいのではないか。

 農水省が最近、GAP(Good Agricultural Practice)の導入を懸命に呼びかけているのは、こうした病原性微生物による汚染を防ぐためでもあるだろう。米国のホウレンソウ汚染の今後の経過を十分に注意して見て、日本での対策にも役立てたいものだ。(サイエンスライター 松永和紀)

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