ホーム >  FoodScience過去記事 > 松永和紀のアグリ話 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

松永和紀のアグリ話

学会報道記事はどこまで信用できる?

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2006年10月4日

 秋の学会シーズンが始まり、新聞などで学会関連の記事が目に付くようになった。「○○が△△に効果があることが分かった。××学会で□日に発表する」などというのがお決まりのパターンだ。だがこの種の記事、信用して良いのだろうか? 参考になる学術論文があるので紹介しよう。米国の研究者が今年発表したもので、「Media reporting on research presented at scientific meetings:more caution needed」 (学会発表に関する報道にはもっと注意が必要)というタイトル。米国も日本と同様、センセーショナルで社会をミスリードしてしまう記事が氾濫しているらしい。

 研究したのは、Dartmouthメディカルスクール助教授の S.WoloshinとL.S.Schwartzで、「The Medical Journal of Australia」2006年6月5日号に論文が掲載された。2人は2002年から03年にかけて開かれた米国心臓学会や国際エイズ学会など、メディアの興味を特に引く5つの学会を選び、その報道事例を収集。新聞の1面記事が32、それ以外の面に掲載された記事が142、テレビやラジオニュース13が集まった。2人が判断基準を設定し、臨床疫学に詳しい医師3人がその基準を基に、個々の記事を分類。2人はそこから、全体傾向などを解析している。

 記事の判断基準は、(1)基本的な事実(研究のサイズやデザイン、量的な結果など)が伝えられているか(2)研究が含む弱点も、原稿中できちんと押さえられているか(3)まだ、研究の予備的段階であることが明らかにされているか—-という3つの視点によるものだ。

 その結果、計187の報道事例の34%は、研究のサイズを明らかにしておらず、18%は研究デザインに触れていなかった。 つまり、被験者が何人かとか、動物実験か培養細胞を使った実験か、などが分からないということだ。また、40%はメインとなる実験結果を数値として出していなかった。

 さらに重要なことは、研究の持つ限界は滅多に触れられないというこ と。動物実験の成果についての報道17件のうち、結果がヒトへは必ずしも当てはまらないことを明確にしていたのはわずか1件しかなかった。また、被験者が30人以下の研究に関する報道24例のうち、小研究の不確実性(対象が少ないために、偏った結果になっている可能性があるということ)を読者に伝えていたのは5例しかなかった。

 対照群が設定されていなかったり、無作為割付試験ではないなどの事実も、記事で触れられることが少なかった。 学会発表された内容はまだ予備的なものであることも、記事では伝えられない。187の報道のうち12例は、出版準備中であるとされたが、残り175例のうち、まだ論文としては発表されていないことを明確にしていたのはわずか二つだった。

 論文を執筆した2人の研究者は学会を、「研究者が現在進行中の研究や新しいアイデアについて自由に意見交換する重要な場」と位置付け、「多くの研究は、結果を公にする準備ができていない」とみている。にもかかわらず、研究の新しい動向をつかみたいマスメディアが押し寄せる。そして、学会で発表された内容は不確実で、後で間違った仮説であることが分かることもよくあるのに、「○○であることが分かった」と 報道してしまう。

 この2人は既に、「The Journal of the American Medical Association」2002年10月2日号でも、学術論文 「Media Coverage of Scientific Meetings」を発表している。今回と同じ5学会で98年に発表され報道された研究事例の何割がその後、論文化されたか調べているのだ。結果は、 インパクトの高い学術誌への掲載が約50%、インパクトの低い学術誌掲載が25%。そして、論文化されていないものも25%あった。

 2人はこれらのことを踏まえ、学会組織がバランスのとれたプレスリリースを出すことや、研究者がインタビューされた時に自らの研究について予備的なものであることを明確に繰り返し説明すべきだ、としている。ジャーナリスト側に正確な報道を求めていることは言うまでもない。

 06年に発表された論文は、「The American Council on Science and Health」で先月21日に紹介されていた。学会シーズンに向けて、ACSHも注意喚起したとみえる。

 さて、日本の学会報道はどうだろうか。全く同じ傾向にあるのではないか。さらに悪いことに、日本の学会はこの論文で取り上げられた5学会ほどレベルが高くない。インパクトの高い学術誌への掲載パーセンテージはよくて一桁台。そして、論文化されない研究の割合がかなりの高さになるはずだ。ということは、かなり怪しい報道が多くなるということ。そんな目で、ここしばらくは新聞を見てほしい。

 日本でも今後は、報道をきちんと数値化して解析し、客観的に評価する必要が出てくるだろう。ACSHは読者に対して「批判の『目』を 持て」と訴えた。日本の読者も、批判することで科学ジャーナリズムをきちんと育ててほしい。ジャーナリストの端くれの私からも、お願いしたい。(サイエンスライター 松永和紀)

⇒ 松永和紀のアグリ話記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOMが「第1回食生活ジャーナリスト大賞」を頂くことに決まりました(3/28)
FOOCOMはこのほど、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の「第1回食生活ジャーナリスト大賞(ジャーナリズム部門)」…【全文を読む】