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松永和紀のアグリ話

科学的根拠がない食品添加物批判者のむなしい食事

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2006年10月11日

 コンビニの雑誌売り場。「添加物批判者の食卓」と書かれた表紙が見え、手にとって開けた。目に映ったのは青く染まったご飯、薄紫色のレモン、黄緑色の卵…。毒々しく着色された食べものの写真が並んでいた。血の気が引くとはこういう感覚だろうか。「AERA」(朝日新聞社)10月16日号。これは、食べものへの冒涜だ。添加物批判が嵩じたのだろうが、食品とそれを作っている人たちへの感謝を忘れ、感覚が麻痺しているとしか思えない。私はこの雑誌とは関係ないが、マスメディアの片隅で働くものとして、まじめに食べものを作っている人たちに謝りたくなった。

 記事は、食品添加物を批判する4人の1週間の食事を紹介している。写真は気分が悪くなるが、記事には笑わせてもらった。なにせ、そのメニューが食品添加物を否定していない私と大差ない。
 記事では、だしは自然食品店で買った顆粒だしやだしパック、味噌汁やなべ物の場合は昆布だしで、などと仰々しく書いてあるが、この私でさえ、だしは昆布や鰹節、煮干しでとる。忙しくて料理に手間暇かけられない者が、おいしい食事を作るには、だしをしっかり取るのがもっとも早道だからだ。

 朝食には、国産みかん100%ジュースと書いてある。我が家は、ジュースは飲まない。果物を食べる。それがおいしい。野菜だって無農薬栽培だぞっ。でも、それは近所に住んでいる母親が家庭菜園に凝っていて、野菜を持ってくるから。私は母親のおかげで、無農薬無化学肥料栽培の野菜の中にも、まずいものがあることに開眼した。野菜の味や栄養は、農薬や化学肥料の使用の有無だけで決まるほど単純なものではない。

 驚いたのは、「買ってはいけない」も書いた科学ジャーナリストのくだり。食材のほとんどは2生協から購入、と書いてあるが、1カ月に払う金額は2生協合わせて3万2000円前後だそうだ。しかも、洗剤やティッシュペーパーなどの生活用品の代金まで含んでいるとか。でも、夫婦で1カ月約3万円の食費ということは、夫婦で1日1000円、1人500円。この金額は、テレビや雑誌に時々出てくる節約主婦、折り込みチラシに目を光らせ特売品を買う人たち並みに低い。メニューを見ると、どう考えても1日500円で購うのは無理。よほど貰い物の多い家庭なのですね。うらやましいです。

 もう1つ、中に1人だけ、このメニューではどうみてもカロリー取り過ぎ、いくら添加物に気をつけておられようが生活習慣病まっしぐら、という人がいた。写真を見るとスリムな方のようだ。健康を維持するためにさぞかし、お食事をお残しなのでしょうか。

 まあ、細かい話はこれくらいにしよう。主婦の目で見れば、皆さん、あんまり特別な暮らしはしていないということ。それをおおげさに「より安全な食生活の参考に」と記事化したところが、マスメディアのセンスというものなのだろう。しかし、主婦は騙されませんぞ。

 もっとも、私もちょっと異端の主婦だ。出張中でガリガリ仕事をしている時は、取材を終えコンビニでお弁当を買ってホテルの部屋に帰り、1人でさっさと食べ終えて原稿を書いている。実は、今日もそうだった。ある時はコンビニや外食、ある時はきちんとした手製の食事で上手に栄養調節、というのが現代人の普通の暮らしではないか。要はバランスの問題だ。

 記事は、本当に笑える。でも、決定的にダメだなあ、とも思わされる。というのも、登場している4人が主張していることに科学的根拠があるものがほとんどないからだ。科学ジャーナリストはスーパーでにぎり寿司を買っても、イクラだけを捨てるという。発色剤として使われている亜硝酸ナトリウムが怖いとか。でも、野菜には大量の硝酸塩が含まれ、食べると体内で亜硝酸塩に変わる。その量に比べればイクラに含まれる亜硝酸ナトリウムの量など微々たるもの。なのに捨てるなんて、罰があたる。

 1人は、パンのイーストフードを飛ばすためにサンドイッチでも焼いて食べる、と主張するが、イーストフードは最終製品に残存しないことが使用基準で、焼かなくても残っていない。さらに、化学調味料やタンパク加水分解物を使っている食品はミネラル不足を招くと言っている人もいる。畜水産物も大規模即席生産でミネラルが不足しているとか。そんな証拠がどこにあるのか、お願いだから教えてほしい。

 書きながらだんだん頭が痛くなってきた。どうして、これほど科学的根拠のない話が続くのか。登場する人たちが、自分の本で好き勝手に書くのは自由だが、権威ある会社の堂々たる雑誌が、科学者に確認もとらずに情報を垂れ流してはだめだろう。

 私は、法令を遵守してわずかな量の食品添加物を使い、おいしくて安い食品を作っている大勢の人たちを知っている。残留農薬と比較にならないほどの量の農薬に暴露しながら、消費者の望む野菜を作っている農家の人たちの苦労を聞いている。彼らが、このおかしな記事を、食べものが汚された写真を見て何を思うのか? 本当に申し訳ない。気を落とさずにおいしい食品を、おいしい農産物を誠実に作ってほしい。本当に賢い消費者には、その真摯さは伝わります。(サイエンスライター 松永和紀)

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