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松永和紀のアグリ話

フリーの台所事情から科学情報の価値を考えると‥‥

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2006年10月25日

 本サイトが今週から有料購読となった。「有料なら、もう読むのはやめとこうか」という人も多いと思う。しかし、ちょっと待った! 情報収集にはやっぱりお金が必要なのだ。食に関する話題にトンデモ情報が山ほどあることは、本サイトの読者の常識だと思うが、現在のメディアの仕組みでは、優秀な科学ジャーナリストを目指すよりトンデモ情報を垂れ流すライターになる方がはるかに“儲かる”、いや、そうでないと“食ってはいけない”のが現実だ。私はなにごとにつけ率直なたちなので、今週はあえて、お金の話に挑みます。

 フリーライターの台所事情、知らないでしょ? 聞きたいでしょ? まあ、あまり下品にならず出版社や同業者に迷惑をかけない範囲で、書きます。

 媒体によっていろいろだが、雑誌は1ページ1万円から3万円、というのが相場。このページあたりの単価、中身がなんであろうとあまり変わらないようだ。つまり、取材を重ねて最新の記事にしようが、1企業の広報に話を聞いてその企業べったりの記事を書こうが、グルメ記事だろうが、大差ない。

 一方で、科学記事をまともに書こうとするとどうなるか。学術論文をウェブサイトからダウンロードする場合、よくある値付けは一報30ドル。いくつか論文を集めて読むと、やはり断片的な情報をつなぐために専門書を読みたくなる。運良く、日本人研究者による解説書がある場合でも3000円は下らず、どうかすると、8000円、1万円となる。さらに、科学者や企業、生産者などを訪ねると、これまた経費がかかる。

 で、この経費をだれが負担するかが問題だ。多くの出版社は、交通費については負担してくれるが、論文や専門書の購入費まではみてくれない。結局、まともに資料収集すると、原稿料はほとんど残らない、という事態になる。

 しかし、もっとひどいところもある。私は数年前、世間に結構名が知られた出版社が出しているマイナーな環境雑誌の編集部から、取材経費、原稿料全部込みで1ページ1万円とギャラを提示され、驚いて断った。この環境雑誌は今でも発行されているようだから、そんな条件でも引き受けるライターがいるのだ。ということは、経費などほとんどかけずに原稿を作っている、ということになる。これで質の高い科学記事を書け、と言われても無理です。

 「○○は危ない」と煽る本を書いたジャーナリストたちと対談し、批判したある研究者は、対談後にこう言われたそうだ。「先生は、大学の教職という仕事があるから、正論を言えるんです」。確かに、「○○は危ない」という記事には大きな需要があり、実際に週刊誌や月刊誌によく載る。そして、「○○は危ない」系ジャーナリストの方々は、○○を△△や□□に次々変えて、商売を続けていく。

 科学的に誠実であるなら、なかなか「危ない」とは言い切れない。「そう指摘する論文がたしかに出たが、一方でこういうデータもあり…」というようなことを、ぐずぐずと説明しなければならない。そんな原稿を注文してくれる出版社は、なかなかない。

 このFoodScienceは私にとって、そのぐずぐずと科学的な誠実さを許してくれる貴重な場だった。だからこそ、私も科学的であることと「面白い読み物」の両立を目指して、いろいろなやり方を試みることができた。そして、多くの研究者や企業や生協の方々などが、協力してくださっている。手持ちの論文や資料、しかも自分ものでないものを、「役立つだろう」とわざわざコピーして郵送してくださるような方が、何人もいる。そういう人たちに甘え支えられ、私は書いてきた。でも、本サイトの原稿料ではやっぱり、“食ってはいけない”。

 ウェブ媒体の原稿料の相場は、活字媒体よりもさらに低い、というのは容易にご想像がつくだろう。活字媒体は有料だが、ウェブサイトはほとんどが購読無料なのだから。ソフトバンクは携帯電話の番号ポータビリティ制開始にあたって料金を大幅値下げし、孫正義社長は「なんでもできて無料が当たり前のインターネットの世界を、携帯でも実現したい」と言っていたけれど、その陰で書き手は泣いている。

 元朝日新聞記者の烏賀陽弘道氏が、「原稿料の価格破壊」を理由に某社で行っていたブログ連載を降りたのは、業界では有名な話だが、この時に明かされた原稿料が「400字あたり1000円を切る」というもの。でも、ウェブサイトを運営する側だって収入は乏しいのだから、書き手に原稿料をきちんと払えるはずがないのだ。

 その結果、ネットの中の情報は質の低下の悪循環に完全に陥っている。間違った情報、引用文献がさっぱり分からないコンテンツが氾濫している。そして、こちらが頑張って書き、きちんと引用文献も明らかにしているのに、コピー&ペーストで個人のブログに無断転載、しかも、引用文献部分は削られあたかもその方のオリジナル記事のような体裁で、というようなことが常態化している。

 だから、「有料化」なのである。科学的に確かでもっと質の高い情報を提供するために、読む方たちにも負担いただきたい、コンテンツを守るために、ただ読み、無断転載はご勘弁願いたい、ということなのだ。

 本サイトの書き手は、ほとんどがその分野のエキスパートだ。「GMOワールド」の宗谷敏さんは匿名の謎の人物だが、実は業界の重鎮であり、私が尊敬してやまないお人である。「斎藤くんの残留農薬分析」をお書きになっている斎藤勲さんは、残留農薬分析の世界では知らぬ人のいない第一人者だ。今月から登場した「栄養疫学的世界をゆく」の坪野吉孝さんも、国際的に第一級の研究者であり、日本の科学報道の問題点を指摘し判断のフローチャートを提示したことで非常に有名な方だ。

 私なんぞが同列にいるのがおかしい超豪華ラインナップ、なのである。それぞれの分野で得た貴重な情報を提供してくれる。その方たちの独自性を守るために、より良い情報を今後も継続して提供していくために、どうぞ有料化にご理解いただきたい。私たちを支えていただきたい。 (サイエンスライター 松永和紀)

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