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松永和紀のアグリ話

食のリスクは俯瞰の視点で

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2006年11月1日

 ヒ素、カドミウム、メチル水銀、ダイオキシン類、アフラトキシン、デオキシニバレノール、ニバレノール、オクラトキシンA、パツリン、 アクリルアミド、多環芳香族炭化水素、クロロプ ロパノール類、鉛、ポリブロモジフェニルエーテル、フモニシン、 T-2トキシン、HT-2トキシン、ゼアラレノン、硝酸性窒素、麻痺性貝毒、下痢性貝毒、残留農薬、フラン、トランス脂肪酸……。さて、あなたはこの中で知らないものがいくつあっただろうか?

 これらは、農水省が食の安全における「個別危害要因」として挙げているものだ。同省は、専門家や食品事業者、消費者などの意見を基に、 同省として優先的にリスク管理を行うべき有害化学物質を選定。ウェブサイトで「個別危害要因への対応」として情報を集約し提供している。とても分かりやすいよいページだ。

 恥ずかしいことだが、私も名称は聞いたことがあってもどんなものか すぐには思い出せず慌てて調べたものがいくつもあった。例えばクロロプロパノール類。脱脂ダイズやコムギグルテンなどに塩酸を加えて加水分解して植物性タンパク(アミノ酸液)を製造する時に、副産物として少量できる物質。ラットを使った実験で、腎臓尿細管への悪影響や発がん性が認められている。

 クロロプロパノール類を含むのは、アミノ酸液などから作ったしょう油だ。ただし、日本人のクロロプロパノール類平均摂取量は現状では低い。脱脂ダイズやコムギグルテンなどを活用したしょう油製造は、資源の有効利用という点で非常に優れている。そのベネフィットも勘案した対処が必要な物質だろう。

 ポリブロモジフェニルエーテルも聞き慣れない。これは209種類の化合物の総称で、電気製品や繊維を難燃化するために使われ、環境 中に放出されて魚介類や農作物を汚染している。ラットで発がん性や胎児毒性が確認されている化合物があるようだが、食品からの暴露が人の総暴露量のうちのどの程度の割合を占めるのかは、まだ分かっていない。

 多くの人がこのページを見て、意外に知らないことが多いことに気づくのではないか。特にカビ毒は、アフラトキシンのほかデオキシニバレノール、ニバレノール、オクラトキシンA、フモニシン、ゼアラレノンなど数多い。リスクの相対的な高さと裏腹に、消費者の関心が非 常に低い。

 こうして、さまざまなリスクを並べられると、俯瞰の視点が重要であることがよく分かる。消費者は「これを危ない」と思いこむと、その情 報ばかりを仕入れて不安を募らせ対策を求める性向がある。しかし、食のリスクは多種多様だ。リスクの大小に見合った対策の優先順位を決めなければならない。消費者も、自分たちが納めた「税金」がリスク対策に有効に使われてほしければ、一歩引いて考えることもした方がいい。 なのに、リスクが低いものに大騒ぎというのが現実だ。

 私は、このページを一度は本欄読者に紹介しなければと思いながら、 実はすっかり忘れていた。思い出したきっかけは、雑誌「生物の科学遺伝」(エヌ・ティー・エス)の別冊No.19として先月発行された「科学は食のリスクをどこまで減らせるか-食の安全科学-」である。執筆陣のお一人からいただいたのだが、やはり俯瞰の視点の重要性を再確認させられた。

 こちらでは、BSE(牛海綿状脳症)や遺伝子組み換え、クローン、食中毒の原因となる病原細菌も取り上げられており、読み応えがある。農水省の挙げる危害要因は、厚労省との“棲み分け”に苦労しているように見えてそこが残念な点なのだが、こちらの雑誌では、科学者がそんな行政の思惑を取っ払って、科学的に検討している。

 読んでみて分かるのは、同じ人獣共通感染症の中でも、ノロウィルスやE型肝炎ウイルスなどの方がBSEよりもはるかにリスクが高そうだ、ということである。腸炎ビブリオやカンピロバク ターなど世界的に増える傾向にある食中毒も怖い。消費者の多く、そして消費者団体などは、こうしたことにまだあまり気づいていない。

 一方で、ヒ素や水銀、カドミウムなどの重金属の問題が全く取り上げ られていない点も、面白い。編集担当者は十分検討のうえで取り上げるべき項目を選んだのだろうが、やはりどんな人も組織も、知識や興味には偏りがあるのだ。

 だからこそ、さまざまなところから多種多様な情報を収集し俯瞰して判断することが大切だ。信頼できる情報は、探せばたくさんある。本欄の読者の多くは、食のプロフェッショナルである。プロが、消費者の関心やマスメディアの動向に引きずられ、「大衆受け」のビジネスをしていることが、どうも気にかかる。(サイエンスライター 松永和紀)

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