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松永和紀のアグリ話

女性のサイズ合計も食品添加物の摂取総量も同じく意味がない

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2006年11月22日

 日本人は食品添加物を1日平均10g、年間4kgも食べている—-。今年あふれた食品添加物に関する記事やテレビ番組には、必ずと言っていいほどこの数字が出てきた。しかし、これは数字のトリックだ。実際には、こんな量には到底至らない。なのに、ごまかしの数字が一人歩きして止まらない。

 この数字はご存じ、安部司氏の著書「食品の裏側 みんな大好きな食 品添加物」(東洋経済新報社)に出てくる。安部氏は「日本人の食塩の 摂取量が1日11gから12gとされますから、ほとんど同じ量の添加物を摂取していることになります」と書く。読者を引きつけ 書きぶりは、お見事と言うしかない。「私たちは、そんなに大量の添加物を食べているのか」と恐ろしくなる。マスメディアもそのまま報道している。

 確かに、厚労省研究班は80年代から90年代、約10gという1日の総摂取量を公表していた。「マーケットバスケット方式」での調査結果。スーパーなどで売られている数百種類の食品を買って、含まれている食品添加物量を分析し、国民栄養調査に基づく1日の食品の喫食量に応じて添加物の摂取量を概算するやり方だ。ただし、中身をよく知ると「なーんだ」ということになる。

 「食品添加物事典」(産調出版)に、調査結果が比較的詳しく説明されているので、これを基に説明しよう。まず、食品添加物はA群とB群の2つに分類されている。A群は、天然には存在しない食品添加物。食用タール色素や保存料のソルビン酸、品質保持剤のプロピレングリコールなどが含まれる。一方、B群は天然にも存在する添加物。甘味料のソルビトールや酸化防止剤のトコフェロール(ビタミン E)、アスコルビン酸(ビタミンC)、栄養強化剤の鉄やカルシウム、発色剤の硝酸塩などだ。

 そして、加工食品におけるA群(60品目)の1人1日の総摂取量は、108.821mg(94年度調査)。ほかの年も調べられており、ほぼこの数字と同程度の結果が出ている。一方、B群(145品目)の総摂取量は、9266.89mg(95年度)。年代や季節変動なども調べられているが、あまり変わりはない。

 1人1日10g摂取という話はおそらく、A群とB群を足した数字だろう。しかし、B群の数字は、天然由来のものと添加物として加えられたものを足して出てきた数字。これをもって添加物摂取量とするのは、明らかにウソである。

 厚労省研究班はさらに、このB群の摂取量のうちのどれくらいの割合が天然由来のものであるかも推測している。食品添加物を一切使 わない生鮮食品によるマーケットバスケット方式で調べたのだ。それによるとB群の1日摂取量は、7.1gから8.5g。つまり、B群の添加物としての摂取量は、0.7gから2.1g程度しかない。

 これは、食品添加物が巷でいかに非科学的に語られているか、ということを物語る証左であろう。なにせ、多くの消費者が気にする合成添加物は、わずか0.1gしか摂取していないのだから。

 というようなことを先週、ある研修会で話した。すると、後で国立医薬品食品衛生研究所の元食品添加物部長の山田隆さんに叱られた。実はこれが、今週この話を本欄で書いた所以である。私も数字のトリックに とらわれて、安部氏と同じようなことをしていた、と言えそうなのだ。

 食品添加物は1つひとつ、まったく性質が異なり、ADI(1日許容摂取量)が大きいものも小さいものも、設定されていないものもある。そのような化学物質を、一緒くたに足して多いの少ないのと言うのは非科学的だ、と山田さんは指摘した。「添加物の総量を問題にするのは、女性のスタイルについて、身長、バスト、ウェストの数値を足し合わせて検討するようなものではありませんか?」

 たとえばAさんは315といっても、165、90、60でスタイル抜群かもしれないし、140、95、80の 肥満体かもしれない。「足し算はいけない。食品添加物を年間4kgも食べるというのが意味のないのと同様に、天然にないものの摂取はたったの1日0.1gというのも、科学的には意味がないのです」。 山田さんは、こう話してくれた。

 私が言った「合成の添加物は、わずか0.1gしか摂取していない」というのはウソではなく、添加物として摂取していない分まで添加物に入れてしまう安部氏のやり方に比べればマシ。でも、都合の良い非科学的な数字を引っ張り出して説明する手法に変わりはないのだ。まったく、恥ずかしい。そしてこの過ち、私に限らず誰もが簡単に犯してしまうのではないか。

 この摂取総量については90年代、厚労省研究班の間でもかなり の議論があったという。「消費者は総量を知りたがっているから、出すべきだ」という意見があり、山田さんのような「非科学的だ」という意見も出た。

 結局、消費者の理解を得るために消費者の願いを汲んで出した総量の数字が、悪用されてしまうという皮肉な結果となった。厚労省は最近 は、各々の添加物についてADIの何%を摂取しているか、という数字を毎年公表している。おおむねADIの数%以下である。

 ADIよりは総量を提示する方が、消費者に分かりやすいのは事実だ。メディアも、多用してしまう。しかし、分かりやすい説明はえてして、ウソも含む。またしても反省させられ、科学的に適正な情報を伝えていくことの難しさを痛感させられた。ごまかしの数字を一人歩きさせてはならない。自戒を込めて、訴え続けたい。(サイエンスライター 松永和紀)

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