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松永和紀のアグリ話

食糧確保のためにもエネルギー資源化が必要、だからバイオマス

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2006年12月6日

 今週初め、「バイオマス資源としてのイネの可能性に関するシンポジウム」が東京であった。講演者の何人かが「昔は『コメを資源に、燃料に』などと言おうものなら、『大切な食糧を燃料にするとはなにごとぞ』と叱られたものだが、やっと議論ができるようになった」と述懐していたのが印象的だった。このイネに関する話、今でも往々にして食かエネルギー資源かの対立軸でとらえられてしまうが、それは違う。食糧を確保するためにもエネルギー資源化が必要なのだ。シンポジウムでも 改めて、痛感させられた。本欄の読者の方々にも、ぜひ関心を持ってい ただきたい。

 シンポジウムは農林水産先端技術産業振興センター(STAFF)の主催。午後1時から6時半まで、たった一回の休憩を挟んで講演 と議論が続くという信じられないようなシンポだったが、それだけに関係者の“本気度”が分かるというものだ。

 なぜ、食糧を確保するためにエネルギー資源化が必要か? それは日本の食と環境を守ろうとするなら、なによりも水田の維持が重要だからだ。シンポでは、JA全農営農総合対策部長の小池一平氏が、水田の現状を語った。水田面積は、1960年には338万haあったのが、2005年には256万haに。耕作放棄地も多い。それらはやがて畦畔が崩れ水の流れも変わり、水田ではなくなっていく。

 しかし、稲作は雨の多い日本ではもっとも省資源で食糧を確保できる手段だ。耕作放棄によって、豊かな生産力は失われ、水を保持したり土壌流出を防止したり、という水田の持つ「多面的機能」もなくなる。さらに問題なのは、急に水田に戻すのは容易ではない、ということ。保水力や地力などが大きく変わってしまい、食糧危機が起きたからまた水田に戻してコメの増産を、とはなかなかいかない。だからこそ、毎年田んぼに水を張り、イネを栽培し続けることが大切なのだ。

 日本人は今、イネと水田の重要性を忘れてしまったように見える。現状ではコメの需要低下に伴い価格は下落し、多くの農家がコメを作る意欲を失っている。農家に作ってもらうためには、国による支援策が必要だ。そして、できたものを消費する“出口”も要る。そこで浮上してくるのが家畜の飼料にするイネの栽培であり、エネルギー資源化である。

 エネルギー資源化にもさまざまな方法があるが、今脚光を浴びているのはエタノールにしてガソリンに混ぜて使う方法だ。安倍首相が11月初め、松岡農水相に対して現在の日本のガソリン消費量の1割に当たる600万kLをバイオマスから生産するという目標を掲げて工程表を作るように指示している。このシンポジウムでも、主にエタノール化が議論された。

 ただし議論の内容を語る前にもう一つ、一般の人たちの誤解を解かねばなるまい。多くの人が、コメとイネを混同したまま語ってしまっている。しかし、コメのエタノール化とイネのエタノール化は、大きく違う。イネは養分や水を消費し光合成をして茎や葉を茂らせ、コメを実らせる。コメはデンプンの塊であり、これを糖化しエタノールにするのは比較的容易だ。

 ただし、原料がコメだけではもったいない。次には茎や葉の利用を検討しなければならない。これが、イネのエタノール化だ。茎葉も、デンプンと同じように多数の糖類が結合してできたもの。そして、生産量はコメに比べて圧倒的に多い。しかし、茎葉を構成するセルロースやヘミセルロースなどは、糖類の結合の仕方がデンプンと異なり、非常に分解しにくい。そのため、茎や葉を分解し効率よくエタノールにするためのブレークスルーとなる技術が必要となる。

 決め手となる技術はまだ、見えてこない。ただし、うまく確立できれば「コメは食糧に、茎や葉はエタノールに」というストーリーも描けるはずだ。

 シンポでは、これらのことについて、具体的な数字が出されて議論されたので、非常に分かりやすかった。まず、コメをエタノールにする場合。JA全農の小池氏によれば、今年度新潟県でエタノール製造用に収量が高い「北陸193号」を栽培したところ、収量は約900kg/10aだったという。

 コシヒカリの500kg強に比べれば高収量だが、コシヒカリの現在の価格を考えると、このままではエタノール用コメの価格は1kg当たり数百円になってしまうことが分かる。一方、エタノールの価格を1Lあたり100円程度に抑えるためには、原料のコメの価格は1kg当たり20円程度でなければならないという。数百円と20円。差は小さくない。

 一方、農業・食品産業技術総合研究機構作物研究所の黒田秧所長は、コメだけでなく茎や葉までエタノール化できるようになった場合の原料費の試算を例示して、聴衆に具体的なイメージを持たせてくれた。現状では、イネわらからエタノールを1L作るのに原料費だけで100円かかってしまう。遊休地で生産性の高いイネを栽培しエタノールにする場合、これも原料費だけで1L150円だ。一方、現在改良中の新しいタイプのイネで計算すると、エタノール1Lの原料費は83円になる。

 実際のエタノール価格は、これらの原料費に製造費を上乗せし、輸送費などさまざまなコストも見積もらなければならない。したがって、イネからできるエタノールは、ガソリンよりやっぱり高くなる。

 しかし、エタノール化にエネルギーの国内生産という意義を認めるだけでなく、水田の多面的機能保持、将来の食糧確保のための“保険”だと考えれば、小池氏や黒田所長が出した数字は、決して悲観的になるレベルではないだろう。黒田所長が提示した数値は、さまざまな仮定に基づく個人的な試算値だ。黒田所長は「数字が一人歩きするのは困る」と言いながらも、「こういう目標値がないと研究戦略は成り立たない。目標があれば、そのための投入資金の額も具体的に検討できる。あえて数字を出した」と説明した。尊敬すべき姿勢だと思う。専門家たちの意気込みが見えるような気がした。

 シンポでは、エタノール製造のエネルギー収支についても議論が出た。エタノール製造は、蒸留工程があるため、どうしてもエネルギー多消費型プラントになってしまうという。エタノールの持つエネルギーよりも多い化石エネルギーを使ってエタノールを製造するのでは、なんの意味もない。このあたりも、技術的にクリアすべき大きな検討課題となる。

 いずれにせよ、問題は山積している。しかし、研究資金を投入して技術開発を進める価値は十分にある。国策として生産振興を図ることも大切だと思う。イネのエタノール化研究は、まだ緒に就いたばかりである。(サイエンスライター 松永和紀)

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