ホーム >  FoodScience過去記事 > 松永和紀のアグリ話 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

松永和紀のアグリ話

環境ホルモン騒動よりタチが悪い食品添加物問題

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2006年12月13日

 食品添加物問題は、環境ホルモン騒動とそっくりだ。11日にこの「FoodScience」主催のセミナーがあり、食品添加物をテーマに多幸之介こと長村洋一先生が講演され、私もマスメディアの問題点について少し話した。講演を聴きながら、ディスカッションに加わりながら、「似ている」と思わざるを得なかった。間違った情報の広がり方が、そっくりなのだ。

 環境ホルモン(内分泌攪乱化学物質)騒動について、おそらく本欄読者は忘れかけていると思うので、少し振り返ってみよう。

 化学物質の一部が生き物の体に入り込んでホルモンの代わりに受容体にくっついて、ホルモン系の動きを攪乱してしまうのではないか、という仮説は以前からあり、米国などで一部の研究者がまじめに研究していた。

 ところが米国の科学者シーア・コルボーン氏らが内分泌攪乱物質の問題を警告した書物を96年に出版し、日本でも97年に出たの。米国でのタイトルは「Our Stolen Future」。副題として、「Are We Threatening Our Own Fertility, Intelligence, and Survival?-A Scientific Detective Story」がつけられていた。

 しかし、日本で出版された時には、「奪われし未来」というタイトルになり、副題は消えていたのだ。この年、NHKも特集番組を組んだ。ディレクターと大学教授が、内分泌攪乱化学物質という難しい学術用語の代わりに環境ホルモン命名。これらのことを契機に、環境ホルモンは一気に社会問題化した。

 そして、「奪われし未来」に書かれた仮説があたかも事実であるかのように報じられた。一部の科学者のあまり質の高くない学会発表や記者発表などが報じられ、「人体汚染」「人類の未来を脅かす」「オスがメス化する」「子どもがキレる原因となる」等々、おどろおどろしい言葉が並んだ。

 新聞などマスメディアは○○教授の実験結果や評論家の△△氏の言葉が、科学的に妥当なのかどうか、自らはまったく検証せずに、「○○教授の研究によれば…」「△△氏は『子どもがキレル原因』という」などと報じた。

 そうした研究や主張は、当時から別の研究者などに不備を指摘され、しばらくすると学術的に否定する論文も出た。行政機関なども、さまざまな文献情報をまとめた報告書を出した。しかし、マスメディアは知らん顔で、そのことを伝えない。「だって、私たちは当時、○○教授や△△氏の言葉をそのまま伝えただけだもん。○○教授や△△がそう主張したのは事実でしょ。なんの問題があるの?」である。

 実は、食品添加物問題も、構図は同じだ。こちらは、さらにたちが悪い。環境ホルモン問題は、論文や学会発表など新しい研究成果に基づいて報道が行われた。しかし、最近メディアで添加物が悪い根拠として取り上げられていることのほとんどは、学術的に完全に否定されていることや古い研究結果の誤った解釈、さらに思いこみに基づく根拠のない主張だ。

 ところが「添加物の神様が、こう主張している」「有名教授が、原因は添加物の可能性があると言っている」というたぐいの報道が最近、頻発している。

 記者やフリーランスのライターが、そのことの科学的な真偽を調べた気配がない。なぜなら、日本食品添加物協会や厚労省に尋ねれば、教えてくれるはずの単純な間違いが、そのまま記事化されている。例えば「発がん性が報告されているサッカリン」「アレルギー反応を指摘されるグルタミン酸ナトリウム」「添加物のせいで奇形の子どもが生まれた」「発がん性を指摘される亜硝酸ナトリウム」などの記述である。

 記者の中には、業界団体や厚労省など信じられない、という人もいるかもしれない。しかし、Pubmedで検索して、どんな学術論文が出ているか自分自身できちんと調べているのであれば、こんなセンセーショナルな記述など恥ずかしくて書けないはずだ。

 私は先日、「○○教授は、こう言っている」式の添加物批判記事を出した新聞の読者相談室に、一読者として電話してみた。折り返し、担当者らしき人から電話がかかってきた。「この記事を出した科学的根拠は何ですか?」と尋ねると、「○○教授が言ったからです」と回答する。「では、○○教授がそう主張する根拠はなんですか?」と尋ねると、「それは聞いていない。取材したライターの取材メモには、教授がこう言ったと書いてある」と答える。

 「○○教授に、根拠となる論文を尋ねてくれ」と頼んだら、「自分で訊け」という返事。では「連絡先を教えて」と言ったら、回答は「自分で調べろ」だった。これが、日本の新聞である。環境ホルモン騒動の後、マスメディアの姿勢は多くの研究者や識者に批判された。ところが、なんの教訓にもなっていない。

 セミナーで、長村洋一先生や本サイトウェブマスターの中野栄子さん、会場に来られた方などとディスカッションして、この事態をどう解決すべきか考えた。次週も引き続き、この1年の添加物騒動を考えたい。(サイエンスライター 松永和紀)

⇒ 松永和紀のアグリ話記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOMが「第1回食生活ジャーナリスト大賞」を頂くことに決まりました(3/28)
FOOCOMはこのほど、食生活ジャーナリストの会(JFJ)の「第1回食生活ジャーナリスト大賞(ジャーナリズム部門)」…【全文を読む】
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。