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松永和紀のアグリ話

添加物報道がもたらす五つの不幸

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2006年12月20日

 食品添加物に関する最近の報道には、科学的な誤りがあまりにも多過ぎることを先週書いた。なぜ、これほど多いのか。もちろん、間違った情報を流す人がいるからなのだが、どうも取材する側も「たかをくくっている」という感じがする。宇宙物理について書こうと思ったら、だれでもそれなりに勉強するだろう。ところが、添加物に関してはちっとも学ぼうとしない。いや、添加物だけでなく、食に関する問題全般が甘くみられているところがある。だから、感覚で語られてしまう。

 例えば…。「昔は食品添加物なんてなかった。だから今の食べ物はダメだ」式の言説が、マスメディアでは平然とまかり通っている。昔、肉などの保存に岩塩をふんだんに使ったのは、岩塩に硝酸塩が含まれていたためだ。硝酸塩が微生物によって亜硝酸塩に変わり、発色剤や保存料の役割を果たしていた。ところが今、添加物として硝酸塩や亜硝酸塩を使うと、発がん性があるなどと非難されてしまう。

 食品の歴史にまで目を配る力がないのだ。添加物に含まれる硝酸塩や亜硝酸塩の量が、野菜に含まれる量よりもうんと少ないのに、理解しない。そして、岩塩を使った“無添加”ハムをもてはやし、表示に食塩、亜硝酸ナトリウムと書く企業の誠実さを見ようとしない。これでは、企業だってやる気を失ってしまう。

 そして、よってたかっての食品添加物バッシング。その陰で今、消費者にとっては不幸な事態が生じつつある。

(1)「保存料不使用」などの横行による品質低下
「合成保存料、合成着色料不使用」をうたうメーカーやコンビニエンスストアなどが目立つ。しかし、保存性は保たなければならない。温度や衛生管理を徹底するが、やはり添加物も必要。そのため、保存料と表示しなくてもすむほかの抗菌性のある食品添加物を使用することになる。

 しかし、微量でよく効く合成保存料に比べて効きが悪く、たくさん使わなければならないという。しかも使用量が多くても効果は合成保存料には到底及ばない。そのため、合成保存料を使った食品に比べて含まれている細菌の量がかなり多め、ということもあるそうだ。食中毒発生のリスクは確実に上がっている。
 着色料も、同様だ。合成着色料の代替として天然色素を使っている。天然色素の中には安全性評価が足りないものもあるし未知の不純物も含まれている。製造ロットごとに不純物の量も異なる。どう考えても、JECFAや諸外国がしっかりと安全性評価を終えたうえで使用している合成着色料の方が、リスクは小さい。

(2)消費期限、賞味期限の短縮による食品廃棄
 合成保存料を避けるため、消費期限、賞味期限は短くなり、勢い廃棄処分が増える。厳密な調査結果が出ているわけではないが、食品開発にかかわる方の多くが、増加傾向を指摘をする。これについては、このFoodScience11月15日付で、多幸之介こと長村洋一先生が書いておられる通りだ。

(3)食品の輸出が難しい
 日本人の天然指向が生み出したものが「既存添加物」だ。天然原料から抽出された添加物で使用実績があるものが既存添加物として位置付けられ、一部は安全性評価が不十分なまま使われている。

 天然だから安全などとは、到底言えないし、諸外国では使用が認められていないものがほとんど。例えば、高級和菓子の栗きんとんをグルメなニューヨーカーに食べてもらいたいと思っても、輸出できないという。クチナシ色素が入っているからだそうだ。日本人が天然指向になればなるほど、日本の食品は海外では受け入れられないものになっていく。

(4)必要のない健康不安にさいなまれる
 想像してみてほしい。もし糖尿病の人が、アスパルテームやサッカリンを使いながら「病気になるかも」とおびえているとしたら? 仕事で忙しい母親が、短い時間で手っ取り早く食事を作るためうまみ調味料を使いながら、「うちの子、中華料理店症候群にならないかしら。私、子どもに悪いことをしているのかも」とやましい気持ちになっているとしたら? こうした科学的に根拠のない“扇動”は、やはりあってはならないのだ。

(5)マスメディアの“信用”が、食品業界では地に墜ちている
 これは、実は深刻な事態だ。メディアでは、「腐った肉に白い粉を入れてミートボールに仕上げてしまう企業」が語られているが、食品企業関係者に尋ねると「腐った肉と添加物や肉エキス類で商品を作るのは無理。そんな面倒なことをしなくても、ある程度の質の原材料できちんと作った方が安上がり」と笑われる。「そんなことも見破れないんですか」と言われてしまう。

 食品企業の人たちは今、「些細な問題でも、発覚したらメディアから袋だたきに遭ってしまう」という恐怖と、「メディアって、なんてものを知らないんだ。無知をうまく利用してPRに使えないか」という打算の間で、複雑に揺れ動いているように見える。

 残念だが、傲慢なメディアを変えるのは容易ではない。私は悲観的になっている。学ばない人たちは変わりようがないからだ。消費者に早く、現実に起こりつつある不幸に気づいてもらいたい。私の見るところ、企業の多くの方々はまだ誠実だ。理にかなった食品づくりを認めてもらいたいと願っている。したがって、私もことあるごとに、「適正な情報を公開して、消費者やメディアを育てて欲しい」とお願いしている。

 でも、いつまで続くだろうか。企業が本当に変わってしまった時、大きな不利益を被るのは消費者自身なのだ。(サイエンスライター 松永和紀)

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