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松永和紀のアグリ話

残留基準超えを食べることのまともな議論を始めよう

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2006年12月27日

 日頃付き合いのある生協職員の方2人が、それぞれにエクセルで作ったリストを送ってくださった。1つは、輸入食品等の食品衛生法違反事例。もう1つは国内違反事例。ずらりと並ぶ「廃棄・積み戻し等を指示」の文字に胸を衝かれた。もうそろそろまともな議論を始めるべきではないか。「真の食の安全を実現するために、残留基準超えの食品も食べよう」と。

 輸入食品の違反事例については、厚労省も逐次結果を公表していて、この姿勢はとても評価できる。だが、生協職員が送ってくれたリストは年間を通して違反事例を網羅でき、さらにさまざまな条件で事例をピックアップできる優れもの。大いに助かる。

 このリストを見てみると、ポジティブリスト制開始後の6月以降12月25日までの違反事例は計961件。その中の一律基準(0.01ppm)超過は計144件。内訳は6月10件、7月12件、8月13件、9月13件、10月36件、11月39件、12月21件だ。10月になってから急増しているのはカカオ豆が命令検査に移行しているため。8、9月に2,4-Dなどの残留基準超えが見つかってモニタリング検査が強化され、さらに命令検査対象となっている。

 養殖ウナギに含まれるロイコマラカイトグリーンのように検出されてはならないものも見つかってはいるが、多くの違反品目はADIに基づく科学的評価による基準設定が間に合わず、一律基準が適用されているものだ。そんな事情で、0.02ppmの残留により廃棄・積み戻しなどとなっている事例を見ると、やるせなくなってくる。食べても健康リスクがないのは明らかだからだ。

 国内食品では、農産物の一律基準超えはなかったが、シジミで発生した。田んぼで使われた除草剤が河川に流入して残留したとされた。こちらも健康影響はなく残留量であり、廃棄はなかったが、一部地域では出荷にストップがかけられた。

 捨てられるのは、食品衛生法違反の食品だけではない。今年は、種子消毒の間違いがあとで分かったメロンやスイートコーンなども大量に処分された。種苗メーカーのミスではあるが、栽培した農家やできた農作物は法的にはまったく問題がなく、間違って使われた農薬が残留しているわけでもないが、捨てられた。

 あえて付け加えれば、賞味期限、消費期限を超えた食品が、品質上も安全上もまったく問題ないのに廃棄される現実もある。

 どの廃棄も、「食の安全のため」というお題目になっている。「食が危ない」と喧伝され法規制が強化された結果、企業や行政が法律を守ることと消費者迎合しか眼中になく、健康リスクがあるのかないのか、というもっとも大事なことが検討されなくなっているように思える。

 行政マンと話をすると、この問題点を多くの人が分かっているのだ。しかし、必ずこう言われる。「食品衛生法上、製造禁止や廃棄をすることに決まっているんですよ。行政が、健康リスクはないから法律を破って食べろ、なんて言ったら、消費者団体から袋だたきにあってしまう」。

 生産側ももちろん、「基準超えでも、食べても問題はないのですが…」とは言えない。むしろ、先走って必要もないのに回収する方が、マスメディアや取引先に受けが良かったりする。

 法律違反だから廃棄という判断に、そもそも無理がある。真の「食の安全」においてもっとも重要なことは、食べる量の確保。この日本に、地球に、食べものを捨てる余裕はないはずだ。

 現実に、ドイツ・バイエルン州政府機関やベルギー政府機関などでは、残留基準を超えたからと言って直ちに回収という措置はとられていないという。「日本冷凍食品検査協会」の森田邦雄さんが月刊誌「食品衛生研究」2006年3月号に書いたリポートによれば、両国では残留量が人の健康に影響があるか、ということを科学的に判断したうえで、ある場合だけ回収している。

 リストを送ってくれた生協職員は、メールにこう書き添えてくれた。「世界の食糧の分配がうまく行っていない中で廃棄、積み戻しされる食品について考えると気が重くなります。安全性などと言っていられない国に今日を生きる人がいる中で、僕らの国では「過剰な基準値」によって食品を回収・廃棄しています。(中略)6条違反(有害もしくは有毒な物質の含有)と11条違反のうち微生物に関する違反は人の生き死にに関することなので厳しくいくべきです。しかし、違反は違反とするがそれを科学的に評価し、さらに生産の現場やそれぞれの国の事情、世界の食糧事情に思いを馳せることが大切だと思ってます」。

 生協職員からこういう声が出るのはとても嬉しいし、私も多々教えられた。あとはこの言葉を、食品を責任を持って売る組織としていつ言えるようになるか、だ。消費者迎合の企業とは異なる動き方を、生協にはしてほしい。

 だが、生協だけに押しつけてはいけない。まず語り出すべきは消費者団体とメディアであろう。回収廃棄による表面的な食の安全を求めるのではなく、科学的な評価を踏まえて個別判断を下せるように厚労省をつき動かし、来年こそは本当の食の安全に一歩近づきたいものだ。(サイエンスライター 松永和紀)

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