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松永和紀のアグリ話

思考停止状態に陥るな!食の安全は自ら追究しよう

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2007年1月10日

 年明け早々、ショックを受けた。食品添加物の“神様”の講演。「食品の表示を見て『知らない』ということを基準にして判断しましょう」と呼びかけ、1000人以上の聴衆が拍手しているのだ。私は常々、「知らなければ、何も判断できない。思考停止状態になってはならない。メディアや扇動家に惑わされずに、自分で調べることを始めてほしい」と書き話してきた。しかし、そんな呼びかけは無駄なのか。これは、社会の大きな問題かもしれない。今週は、FDAの体細胞クローン牛問題に触れるべきなのだが、来週に回して、神様の講演内容と朝日新聞1月5日付記事について書きたい。

 それにしても、「自分のことを神様という神様はいるのか?」という根本的な疑問を感じるのだが、ちょっとそれは脇へ置いておこう。

 神様が登場したのは、某市で開かれた食の安全に関するつどい。某政治家の後援会主催だ。この市では来月市長選があり、この政治家は出馬予定なので、「食の安全」と神様を人寄せに使ったのだ。したがって、聴衆1000人の中には、いわゆる動員組もいたようだ。

 とはいえ、神様はぐいぐい聴衆を引きつける。良いことを言うのだ。「添加物の働きは、安くて簡単で便利で美しくおいしい、いや味が濃い食べ物を作ることですよ」「それを望んだのは消費者ですよ。被害者意識を持ってもダメ」「食べ物を作ることの大変さを分かっていない子どもが多い」。ごもっとも、ごもっとも。

 でも、科学的には根拠がない話が多い。「食品添加物を摂っている子どもと摂っていない子どもは明らかに違う」「ネズミでしか毒性を調べていない」「子どもがキレることが直接、食べ物のせいとは言わないが、やっぱり変だなあと思います」「人体実験中かもしれません」—-。

 そして、呼び掛ける。「添加物は1500種類もあるんです。勉強しようったって無理。ならば、知っているか知らないかということを判断基準にすればいい」「私は、伝統食品しかないと思う」。要するに、添加物が入っているものは排除し、手作りを心がけ伝統食品を食べましょう、ということだ。

 講演後のパネルディスカッションでは、コーディネーターが「情報を選別する力をつけたい」などと言い出すので、神様も「企業に情報公開を求め、答えなければ買わないようにすればいい」などと言っていた。 先の内容とぶれがあるが、まあ、これはご愛敬でしょう。

 それにしても、「知らないものは排除しろ」とは、大胆である。神様は言わなかったが、食品添加物の最大の働きは保存性と安全性の向上である。消費者と製造販売側の双方が、長く保存できる食品を望み、以前は合成保存料が使われていた。やがて、消費者側に保存料に対する忌避感が生まれた。その一方で、長く日持ちするものを、という消費者の欲求は変わらない。その矛盾を解決するために、製造販売側は何種類ものPH調整剤や調味料などを使って保存性を高めようとした。その結果、食品表示に添加物名がずらりと並んでいる。

 知ろうとしなければ、食品表示に添加物が並ぶ本当の理由、消費者が顧みなければならない本質は分からない。

 諸外国は、合成保存料を合理的に使っている。手作りもいいが、母親世代のように台所に閉じこもりたくはない女性が多いだろう。神様が言う通り伝統食品もいいが、日持ちがよいものは、保存料の代わりに食塩という“天然保存料”を大量に使っている。日本人は添加物を嫌い伝統食品に回帰して、また高血圧、胃ガンへの道をひた走るのだろうか。

 講演を聴いていた1000人以上の人々は、こうした事実を知らないから、「知らないものは排除しろ」に拍手できるのだろう。私は怖くなった。これでは、真の「食の安全」は遠ざかってしまう。

 もっと恐ろしかったのは、パネルディスカッションに出席していた政治家が「話を聞いて驚きました。今、私の机の上には2つ「緑のたぬき」が置いてあるが、食べられない」と口を滑らせたことだ。選挙戦前の準備で忙しい事務所では、東洋水産のカップめんも重宝されているだろう。この政治家も「知らないものは排除しろ」組なのだろうか。それとも、その場の雰囲気に迎合したのか。真意を聞いてみたいものだ。

 そして、さらに恐ろしいこと。朝日新聞1月5日付経済面に、神様のインタビューが載っている。「食品を選ぶ際には、添加物が使われていることを知ったうえで、『気持ち悪い』と素朴で素直な判断をすればいい」という言葉が掲載されている。

 執筆した記者は、神様の言うとおり、本当に添加物のことを何も調べず、記事を素朴に書いてしまったようだ。科学的に問題のある見解がさまざま載っている。

 記事の最後に、神様の言葉がある。「クエン酸は疲れをとる働きがあるとされる。では、合成のクエン酸をなめればいいのか。梅干しなどクエン酸が多く含まれる伝統的な食品を食べればいいのに」

 しかし、香川県消費生活センターが調べたところによれば、伝統的な製法の梅干し(5商品と手作り2品)のクエン酸含量は2.81g/100からg6.05g/100g、塩分は9.7g/100gから27.2g/100g。一方、市販の健康飲料は一般的に、クエン酸を1回に1gから2g飲むような形に なっているようだ。

 健康飲料を飲む代わりに梅干しを100g食べるのか。それこそ、大量の塩分摂取で高血圧、胃がんまっしぐらである。普通の食品からの摂取ではこうした弊害が起きるからこそ、健康飲料が売られているのだ。

 私は、健康飲料をよいと言っているわけではない。「クエン酸には疲れをとる働きがあるので、大めに摂取しよう」というフードファディズムは、摂取するものが健康飲料であれ、梅干しであれ、レモンなどほかの 食品であれ支持しない。ただ、新聞記者には、情報をとことん調べて読者に届けてよいと確信の持てる記事を書いて欲しいのだ。

 もっと知ろう。もっと調べよう。そのうえで判断し、誤ったと思えばすぐに引き返す柔軟さを持とう。思考停止が蔓延する社会にはしたくない。(サイエンスライター 松永和紀)

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