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松永和紀のアグリ話

納豆ダイエット理論の真実を“推理”する(1)

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2007年1月24日

 フジテレビ・関西テレビ系列で1月7日に放送された「発掘!あるある大事典II」に捏造部分があったことが20日、発覚した。もちろん捏造はいけないが、私は別のことが気になる。捏造が明らかになった後も、関西テレビは「納豆にダイエット効果があるという学説があるのは事実で、実験で体重が減ったのは間違いない」と言っているようなのだ。学説は本当にあるのか。Pubmedなどで学術論文を調べる限り、番組が主張するような学説はない。私は、番組制作者が複数の無関係の論文を勝手につなぎ合わせて作ったストーリーだとみている。論考してみよう。

 番組のホームページ(既に閉鎖されている)によれば、“納豆ダイエット理論”は次の通り。
(1)Temple大のArthur Schwartz教授(番組ではアサー・ショーツ教授と表記)が「DHEAというホルモンには高いダイエット効果がある」と主張。
(2)さらにSchwartz教授が、「DHEAには2つの働きがある。1つめは、代謝を下げてしまう停滞ホルモンを減少させること」と主張。2つめは、細胞内のエネルギー工場の働きを活発にし脂肪が燃えやすい体にすること。
(3)もう一度Schwartz教授が「DHEAを増やす食材は、イソフラボンを含む食品。なぜなら、イソフラボンはDHEAの原料ですから」と説明。
(4)昭和女子大学の中津川昭一教授が「イソフラボンを最も効率よく摂取できるのは納豆」と発言。
 これで、納豆ダイエット理論の完成だ。

 そして、関西テレビが20日付けで認めた「事実と異なる部分」は、次の通り。
・被験者として紹介した写真は無関係
・ショーツ教授はこうした発言をしていない
・番組内の実験で血中の中性脂肪やDHEA、イソフラボン量などを測定したことになっていたが、測定しておらず数字は架空だった
・グラフを無許可引用した
・米国でのダイエット研究はSchwartz教授が行ったような構成になっていたが、実際にはWashington大学のDennis(デニス)教授の研究だった
 しかし、関西テレビは詫びつつも、「納豆にダイエット効果があるとする学説は存在する」と主張する。朝日新聞や日経新聞などが21日付で伝えている。

 そこで、私はまず、PubmedやHighWire Pressで学術論文を検索してみた。ところが、DHEAを研究しているデニスさんがいない。そこで、えいやっとGoogleScholarで検索してみてやっと分かった。Washington University School of MedicineにDHEAを研究しているデニスさんがいた。デニスはファーストネームで、正式にはDennis T. Villareal助教授だ。

 PubmedではVillareal DTとなっている。分からないはずだ。この人が、「Effect of DHEA on Abdominal Fat and Insulin Action in Elderly Women and Men」(PMID: 15536111)という論文を2004年に出していた。

 65歳から78歳までの男女56人を、DHEAを飲んでもらうグループとプラセボを飲んでもらうグループとに分けて6カ月間摂取してもらい、結果を調べる無作為二重盲検法を行っている。

 確かに、DHEAを飲んだグループで、腹部の内臓脂肪が有意に減っている。また、インスリンの活性が上がっている。ただし、この結果は極めて限定的な条件での結果に過ぎない。DHEAはもともと人体にあるホルモンで25歳をピークに大きく減少する。つまり、この論文は体内のDHEAがかなり低いお年寄りにDHEAを補充したらどうなるか、ということを少し調べただけなのだ。筆者自身が結論で、「予備的な研究だ」と明確に書いている。この論文を基に、「DHEAにはダイエット効果がある」と言い切るのは、到底無理だ。

 そして、Villareal助教授の論文を読むことで、もう1つ重要なことが分かった。彼はDHEAとイソフラボンを結びつける研究を一切していない。

 番組ではSchwartz教授がDHEAとイソフラボンの関係に触れているが、関西テレビは「Schwartz教授の発言ではなかった」と捏造を詫びたきり、未だにどのようにDHEAとイソフラボンが関係するのか、誰の研究なのか、説明していない。

 そこで、私はさらに学術論文を検索して見つけた。California大のSam Mesiano氏らが「Phytoestrogens Alter Adrenocortical Function: Genistein and Daidzein Suppress Glucocorticoid and Stimulate Androgen Production by Cultured Adrenal Cortical Cells」(PMID: 10404819)という論文を1999年に出している。

 この論文は、人が食品として摂取する植物エストロゲン(ゲニステインとダイゼイン、どちらもダイズに多く含まれるイソフラボン類)を培養細胞に投与したところ、DHEAの産生量が増加したという内容だ。

 DHEAの“原料”はコレステロール。コレステロールがP450sccという酵素によってプレグネノロンという物質に変わり、さらにP450c17という酵素が作用すればDHEAの生合成へと進む。別の複数の酵素が作用すると、コルチゾルという物質の生合成系へと進んでいく。植物エストロゲンは、コルチソルの生合成に関わる酵素の活性を抑えるため、結果的にDHEAの産生量が増加する、とMesiano氏らは考えている。

 番組が説明した「イソフラボンはDHEAの原料」にはほど遠いが、番組中で説明した「DHEAが増えれば増えるほど、反比例して停滞ホルモンは減少」という筋書きと、少し似ているような気がする。さらに、この論文は結論で、「ダイズのような植物エストロゲンを含む食品を適切に食べれば、体内のDHEA量を十分に増やすことができ、サプリメントを摂る必要がないかも」という趣旨のことを書いている。

 というわけで、私は、この論文が番組作りのもう一つの根拠ではないか、と考えるのだ。

 しかし、この論文もあくまでも可能性について言及しているだけであり、人が植物エストロゲンを食べたらDHEAが増えるとは書いていない。培養細胞での実験結果と人での結果は一般に、大きく異なる場合が多い。この論文を基に、イソフラボンを食べたらDHEAが増えると言い切ることはできない。

 長々と、ややこしい話を書いてきた。結局、「納豆はイソフラボンが比較的多い」という事実とこの2つの論文の粗筋を結びつけて、番組の構成ができたのではないか。だれか研究者が、青写真を描いてやったのか。たとえ捏造がなかったとしても、まったく別の実験をつなぎ合わせて「納豆にダイエット効果」とするのは、そもそも科学的に無理な話だった。

 「納豆はダイエット効果があるという学説がある」と関西テレビが主張する根拠は、番組内被験者の体重が減ったという事実かもしれない。しかし、毎日納豆を2パックも食べたら、肉や魚などほかの食材の摂取量は自ずと減る。また、メニューもどうしても和食が多くなり、油脂の摂取量が減っただろう。被験者には、テレビに出るという緊張感もあったはずだ。カロリー摂取量は確実に減り、体重も減るに決まっている。

 未だに「一部の捏造はあったが、納豆はダイエットに効く」と言っている関西テレビの幹部の方々は、根拠とした論文に関する科学的な説明などを一切聞いておらず、栄養学の基本的な知識もないのではないか。

 これが、私の推理である。本当は、関西テレビに質問して確認をとるべきなのだが、「ワシントン大のデニス教授」と未だに平然とウェブサイトに載せているくらいなので、科学的な回答はしばらく得られないだろう。読者の方々は、どうお考えだろうか。

 今回の論文収集にあたっては、群馬大学教育学部の高橋久仁子教授にご協力いただいた。高橋先生が、こうした健康情報番組を批判し続けているのは、皆さんご承知のとおり。高橋先生は今、「バカバカしくて声も出ない。テレビ局も悪いけれど、見る側も悪い。視聴者は、何回同じことを繰り返せば済むのか」と仰る。次回、高橋先生の意見も踏まえて、もう少し論考を続けたい。(サイエンスライター 松永和紀)

*今週中にこの納豆ダイエット問題の続きをレポートします。ご期待ください。また、来週1月31日の「松永和紀のアグリ話」は休載させていただきます。(編集部)

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