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松永和紀のアグリ話

納豆ダイエット理論の真実を“推理”する(2)

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2007年1月25日

 「発掘!あるある大事典II」で捏造があったと知って、実は少々戸惑った。確かに、勝手に発言をでっち上げたり無関係の写真を使うのはいけない。しかし、別の形の捏造はほかのテレビ局に、いや、新聞にも週刊誌にも氾濫しているではないか。いくつかの論文や学説を勝手につなぎ合わせて、「○○が糖尿病を予防する」とか「△△を食べれば疲れ知らず」などと放送するのも、私から見れば、立派な捏造なのだ。なぜならば、本当に○○や△△が病気の予防や疲労回復につながるのか、学術的には誰も調べていない。

 「発掘!あるある大事典II」(以下、「あるある」と表記)のホームページ(既に閉鎖)でこれまでのバックナンバーを見ると、「ショウガを食べれば疲れ知らず」「味噌汁で痩せる」「バナナは脳に効く」など、多くが複数の論文の「合わせ技」で構成されているようだ。

 また、私は本欄2006年1月11日付で、日本テレビ系列の「午後は○○おもいッきりテレビ」の例を書いている。2004年3月8日、「糖尿病を防ぐためには、料理に少量のシナモンをふりかけ毎日適量のビールを飲みナッツをつまみにするといい」と放送された。群馬大学教育学部の高橋久仁子教授によれば、これはまったく関連のない3つの論文をつなぎ合わせたものだ。

 「あるある」に限らず健康情報番組においては、捏造、いや論文や学説を組み合わせるストーリー創作の問題は極めて深刻なのだ。そして筋をうまく展開させるために使われるのが、番組内で行われる実験と称するものと科学者である。

 創作ストーリーは、「この食品はこんなに効果があります」ということを、学術誌に載っているグラフなどを見せて説明することができない。したがって、出てくるのが番組内“実験”。数人に食べさせて「こんなに体重が減りました」とか「血液のこの数値が上昇しました」などとやる。被験者に体験談を語らせる。

 だが、この結果に科学的な意味はない。被験者が数人で対照群もないならば、偶然にどの人も揃ってよいデータが出る可能性も結構ある。さらに、被験者に「テレビに顔と体が映りますから、2週間頑張って○○を食べてください」と言えば、体重は○○がなんであるかにかかわらず、間違いなく減るだろう。血圧だっていくぶんかは正常値に近づくだろう。誰だって、テレビカメラの前ではいい姿を見せたい。無意識のうちに食生活は改善され運動量は増えるはずだ。血液検査だって、何回か測定してその中の結果がよいものだけを抜き出せばいいだけだ。

 さらに、科学者が決めゼリフを言う。「あるある」の納豆ダイエット特集に登場した女子大の教授は、捏造発覚後の毎日新聞の取材に対して「番組の構成は事前に知らされておらず、一般的な効能などを自分が知る範囲でコメントした」と説明した。しかし、よく調べてみると、この人はあるあるの過去の番組に頻繁に出ている。ある時は赤味噌について話し、またある時は「納豆はひき割りににするのがいい」と語り、次には「ショウガがよい」と推薦していた。こうした科学者の責任は重い。今週、「多幸之介が斬る食の問題」でも取り上げられているので、ぜひお読みいただきたい。

 一方で、そのような番組を頭から信じ込んでしまう視聴者も、あまりにも無防備過ぎる。高橋教授が指摘するのも、まさにこの点だ。「白インゲン豆騒動は8カ月前のこと。その一年前には寒天の大流行。何回もだまされていることに、いいかげんに気づいてください。マジックフードも悪魔フードもないことを理解してほしい」。

 視聴者は一般的に、「納豆を食べればよい」というような単純な話を歓迎し、視聴率アップに貢献する。テレビは、忙しい日々と予算の制約の中で、視聴率を上げるために無理をする。その結果が捏造だ。捏造は許されないが、番組と視聴者の“共犯関係”が、健康情報番組のますますの劣化を招いたとは言えないだろうか。

 現在は、「あるある」だけが非難の的だが、非難する側も似たようなことをやってきたことも思い出すべきだ。私は、1月23日付け日刊ゲンダイ(ウェブ版)を読んで、吹き出してしまった。「あるある」を、「以前からマユツバの健康情報を流してきたトンデモ番組」と書いているが、日刊ゲンダイ自体が「ストレスにはロースカツ」(2006年4月10日付)、「マヨネーズの活用でコレステロール低下」(同年9月25日付)などと記事化しているのだ。

 日刊ゲンダイは、23日付で「あるある」批判に加えて「納豆 過剰摂取の危険性」という記事も出している。イソフラボンの過剰摂取問題を取り上げているのだが、日常の食事の中で1日に2パックの納豆(70g程度だろう)を食べるぐらいなら、イソフラボンの摂取量は50mg 程度(アグリコン換算値)。食品安全委員会などは、イソフラボンの1日摂取上限値の目安を70mgから75mgとしており、このうえに豆腐や豆乳などを大量に摂らない限りは、大丈夫であることは、本欄読者ならお分かりだろう。

 私は、納豆の食べ過ぎがイソフラボンの過剰摂取につながる、という言い方は、センセーショナリズムだと思う。ここでコメントを出している識者を昔、「おもいッきりテレビ」で見たことがある。「酒粕が糖尿病予防に効く」と力説していた。私には、同じ穴のむじなが転落者をさらに足蹴にしているようにしか見えない。

 もう1つ、皮肉な事実がある。このところの「あるある」批判報道はよく、識者として三好基晴氏を登場させる。三好氏は昨年末、「ウソが9割 健康TV—その健康食信じてはいけません! 」(リヨン社)を出版したばかりで、全国紙もコメントを掲載していた。しかし、三好氏がこれまでどんな本を書いてきたかご存知か? 三好氏は、あの「買ってはいけない」の著者の一人で、「アトピー性皮膚炎にステロイド剤は必要ない」などと主張し、医学界から強い批判を受けている人物なのだ。

 ため息が出る。マスメディアにはもはや、自浄能力、改善力はないのかもしれない。普通の人たちがメディアリテラシーを高めるしかないのだろう。

 マスメディアを盲信せずに、食品安全委員会をはじめとする行政機関、研究機関、企業、市民団体などの情報を多角的に集めて判断する。もちろん、収集する情報の中には、「あるある」も日刊ゲンダイも三好氏の著書もあってよいのだ。取捨選択し、自分に適切なものを選び取る。それが、個人の権利であり責任の取り方である、と思えてならない。(サイエンスライター 松永和紀)

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