ホーム >  FoodScience過去記事 > 松永和紀のアグリ話 > 記事
こちらのページは以前、日経BP社 FoodScienceに掲載されていた記事になります。
当サイトから新規に投稿された記事については、こちらよりご覧ください。

松永和紀のアグリ話

レタス捏造告発報道がやった“捏造”とは?

  • シェア
  • Check
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Share
2007年2月7日

 多幸之介こと長村洋一先生が、大変な目に遭っている。皆様よくご承知の通り、長村さんは98年10月に放送された「あるある大事典」のレタスの睡眠作用に関する特集について、このFoodScienceや健康食品管理士認定協会で告発した。これをきっかけにマスメディアが報じ、続いて長村さんに対するバッシングが起きた。だが、彼らが描いた長村さんの姿は、私の見たものとはかけ離れている。マスメディアが長村さんの活動や発言ついて重要な情報を伝えず、自分たちの作ったストーリーに合わせて一部を抜き出して報じたために、世間の誤解を生みバッシングを呼んだと思える。テレビに描かれた「長村像」。それは、捏造と何が違うのか?

 実は、個人的にも長村さんには大変申し訳ないことをしたと思っている。レタスに関する問題を“特ダネ”として報じたのは毎日新聞。だが、同紙の記者が、本欄や協会のサイトを見て気がついたわけではない。細かい事情は省くが、結論としては私が記者に知らせるという形になった。長村さんの了解を得て連絡先を記者に教えたのも私だ。記者に知らせてから半日後には、一面に特ダネを載せた新聞ができあがっていた。

 その後、新聞各紙やテレビニュースなどが追随し、長村さんは取材対応に追われることとなった。そして、2ちゃんねるで批判され、ワイドショーのコメンテーターが「この先生が98年に問題にしていれば、今回の捏造は起きなかった」などと発言し、新聞の科学部記者が『想像するに、こうした「なんちゃって科学」番組は、科学者はあまり見てないし、見てもまゆつばだと思っている。だから、世間の人もそんな風に見ているのだろうという思い込みが、科学者にあるんじゃないだろうか』などとブログに書くようなバッシングが起きた。

 長村さんは、たしかにテレビ局に抗議はしなかった。しかし、これまでにこのレタスの捏造の話を百数十回、講演で話しているそうだ。問題が表面化しなかったのは、マスメディアが気づかず報じなかったからだ。

 また、長村さんは実験結果の捏造よりも深刻な問題があると考えた。ラクッコピコリン(正しくはラクチュコピクリン、あるいはラクツコピクリン)という間違った名称を広めてしまった研究者の倫理を疑い、多くのテレビ局や全国紙、通信社などが、学術論文などに当たらず間違った名称を使い続けるという現象に、危機感を抱いた。だから、世間に溢れる情報の中から適正なものを取捨選択し、消費者に直接届け詳しく説明できる人材育成を力を注いだ。

 その結果、2004年にスタートしたのが「健康食品管理士認定協会」である。長村さんが、多くの医療教育関係者に呼びかけ設立し、現在は理事長を務めている。

 受験資格があるのは、医師や薬剤師、臨床検査技師など、生化学に関する知識を既に一定程度持っている人。その人たちが、講習などで健康食品や一般の食品の機能性などについて学び、受験して資格を得る。

 資格を得るのは楽ではないそうだ。「私にも受験資格はあるな」と不遜なことを考え演習問題にチャレンジしてみたことがあるが、とても歯が立たなかった。これまでに約4800人の健康食品管理士が誕生し、医療現場などで実際に患者や消費者の相談に乗っている。昨年の白インゲン豆ダイエット騒動の時は、放送したTBSや厚労省よりも先に、ダイエットの中止をウェブサイトで呼びかけた。着実に実績を積み上げているのだ。

 バッシングに加わった人たちは、テレビニュースなどで、本当に人の良さそうな飄々とした長村さんのお顔を見て思いこんだのだろうか。世間に疎い研究者が、テレビスタッフに騙されて呆然とした、と。だが、内実は大違い。長村さんは、人材育成に向けて地道で骨太の取り組みをしている。

 しかし、「あるある」の捏造を盛んに非難するマスメディアは、ラクッコピコリンという誤った名称を自社も広めたという事実は封じてしまった。長村さんが、協会の理事長を務める理由も報じない。とにかく「あるある」はこんなに悪い、というニュースを“作る”ことに血道を上げてしまった。

 長村さんに、今回の各社の取材攻勢についてお聞きしたところ、「とにかく、捏造という言葉を、どの記者も言わせようとした」と仰る。

 さらに面白かったのは、某ワイドショーのやり口。ワイドショーのスタッフに問われ、長村さんは「あるある」の取材陣がどんな様子だったか、説明した。レタスに関する実験の映像を撮って帰った時の状況については、長村さんは「台風が近づいていたので、取材陣はバタバタと帰られましたよ」と詳しく説明したそうだ。

 ところが、ワイドショーで「レタスの捏造問題」として取り上げられた時には、長村さんのインタビューは編集され、台風のくだりは全部カットされ、「あるある」の取材陣は実験が思った通りに行かなかったので困ってあわててバタバタと帰った、という趣旨の発言になっていた。

 「自分の欲しいストーリーを作るために、言葉を抜き出して使う。それは、私が話した内容とは意味が違う。私には、「あるある」がしたことと、今回の多くの取材者たちがしたことが、さして違うと思えないのです」。長村さんは、そう仰った。

 これは、私も直面しなければならない問題だ。さすがに、ラクッコピコリンの間違いは犯さないだろうと思う。しかし、2時間インタビューしてコメントとして原稿にするときは数行、というのが現実である。同じ言葉が、前後の文章によってまるで逆の意味合いを持つこともある。私は、恣意的に人の言葉を使いながら事実をゆがめていないだろうか。自分の描くストーリーに、現実を無理矢理、パズルのようにあてはめてごまかしていないだろうか。

 今回の取材者の中にも、長村さんの意図を正確に反映した記事を書いた新聞記者もいたそうだ。「あなたはどうなの?」長村さんの心の問いが、私の心に深く突き刺さる。(サイエンスライター 松永和紀)

⇒ 松永和紀のアグリ話記事一覧へ

専門家コラム一覧

FoodScience 過去記事

以前、他のサイトで掲載されていた記事をこちらより選択してご覧いただけます。

お知らせ

FOOCOM会員、執筆者がかかわる催し、講演(10/17)
<FOOCOM事務局よりのお願い> 「FOOCOM.NET」にアクセスいただきありがとうございます。私たちは201…【全文を読む】
FOOCOM.NET 会員募集 科学的根拠に基づく食情報を消費者に提供するために、ご協力ください。