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松永和紀のアグリ話

エタノール化で激変する米トウモロコシ事情

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2007年2月14日

 米国って国の農業は本当にたいしたもんだなあ、と半ばあきれ、半ば尊敬することたびたびだ。私も、国内農業振興を願うジャーナリストの端くれなので、「アメリカ一国支配の問題点」などと威勢のいい言葉を吐く方がもっともらしいのかもしれないが、いやいやどうして、その緻密な戦略には圧倒される。先週開かれた「米国高付加価値穀物シンポジウム」でも、トウモロコシのエタノール化と食品・飼料用途の三本柱が存分に解説され、凄まじい迫力だった。これから、トウモロコシ価格はますます高騰するだろう。日本の畜産・食品関係者は、対応する準備ができているのだろうか。

 シンポはアメリカ穀物協会の主催。Cargill社のマネージャーやエタノール用のトウモロコシ加工技術を開発している企業のディレクター、農家などが次々に今年のトウモロコシ事情を解説した。

 米国では、トウモロコシの生産量や単収が順調に増加している一方で、それをはるかに上回る勢いでエタノール化が進んでいる。Cargill社によれば現在は54億ガロン分のプラントが稼働し、62億ガロンを生産できるプラントが全米各地で建設中。計画中のものも見込むと、将来は140億ガロンのエタノールの生産に至るという。

 新たな用途が生まれ、今年は生産されるトウモロコシの2割がエタノールになると見込まれているのだから、トウモロコシの高騰は避けられない。さらに、今後は中国の需要増も見込まれる。シカゴ商品取引所では2006年前半、1ブッシェル(約25.4kg)当たり2ドル台前半を推移していたが、新穀が出た秋以降も上がり続け今年1月には4ドル台に乗った。

 飼料輸出入協議会専務理事の江藤隆司さんに昨年末に会った折、江藤さんは「来年のシカゴ相場は、1ブッシェルあたり4ドル台に乗って当たり前。7月の天候が悪ければ5ドル台になり瞬間的には6ドル台をつけるかもしれない。4ドル前後の高値がこれから1年半から2年は続く」と見ていた。

 現在の米国のトウモロコシ生産量は100億ブッシェルあまり。National Corn Growers Association(全米トウモロコシ生産者協会)は作付け面積を増やし単収を上げることで、2015年までに生産量150億ブッシェルとする目標を掲げているという。栽培やエタノール生産にかかるコスト、エネルギー消費量も、かなり下げられる見通しのようだ。ガンガン栽培し、エタノールとしても食品や飼料用途でもガッポリ儲けようという算段だ。

 シンポではさらに、エタノール化の新技術や、エタノールをとった後の蒸留かすを飼料化したDDGS(dried distillers grains with solubles)についても、詳しく解説された。トウモロコシから、エタノールと高タンパクの飼料であるDDGSの両方が生み出されるわけで、実にうまい仕組みだ。もし、トウモロコシの価格が上がりエタノールの生産コストが上昇したとしても、それに伴いDDGSが高値で売れれば、コスト上昇分をある程度はカバーできる。

 こうなると、日本の飼料や食品価格も高騰せざるを得ない。さらに日本の畜産農家は、米国から入ってくる安い食肉の攻勢にも悩む、と江藤さんは予測する。「トウモロコシが5ドル台になれば、米国の畜産農家は飼料を購いきれず、家畜を処分して飼育頭数を減らすだろう。その結果、米国で一時的に畜産物がだぶつき、安い肉が日本にも大量に入ってくる」と言うのだ。

 低価格の輸入肉が消費者に歓迎されれば、国産の食肉価格も低迷する。この輸入攻勢は長続きせず、米国での食肉供給量が減れば、高値に転じる。低価格はあくまでも一時的な現象なのだが、日本の畜産農家はその間持ちこたえきれず、廃業の憂き目にも遭うのではないか。ベテラン穀物アナリストである江藤さんは、そう心配し、対応策を講じるようによびかけている。だが、日本の畜産農家や関係者に、ここまでの危機感を持っている人はまだ少ないように思えてならない。

 もう一点気になるのは、日本で食品用途に使われる非組み換えトウモロコシの生産状況だ。こちらについては、非組み換えトウモロコシを栽培するOhio州の農家が解説した。農家といっても、収穫保険を扱う会社のマネージャーも兼務し、アメリカ穀物協会の高付加価値穀物アドバイザリーチームの役員を務めている。

 彼によれば、組み換え品種は非組み換え品種に比べて4%から15%の収量増を期待でき、農薬削減などのメリットも大きい。特に、根切り虫に抵抗性を持つ品種は根が傷まないため、乾燥時や渇水時には収量が劇的にアップするという。そのため、生産者は今後、組み換え品種の栽培に急激にシフト、07年には栽培されるトウモロコシの80%から85%が組み換え品種になるのではないか、という。

 その結果、非組み換えの分別栽培や管理などのコストはますます上昇する。彼は、日本側がIPハンドリングされた非組み換えトウモロコシを得るためには、プレミアムを大幅に増額する必要があると強調した。

 Cargill社も、1ブッシェル当たり0.3ドル(1t当たり約12ドル)という額が、現状の非組み換え品種生産を維持するために生産者が期待するプレミアムの増額だと明らかにした。現行のプレミアム に、これだけを上乗せしろ、というのだ。この額は当然、農家が契約栽培する時の希望最高額であり、今後の交渉によって下がっていくはずだが、プレミアムの増額は避けがたいだろう。その上に、農家の手を離れてから日本で使用されるまでの流通段階でも、IPハンドリングのプレミアムが上乗せされていくのだ。

 さらに私が衝撃を受けたのは、非組み換え種子の確保が非常に重要で種子会社と十分コミュニケーションをとる必要があると、農家がていねいに説明したことだ。種子会社は、売れる組み換え品種に研究開発力を注ぐ。相対的に非組み換え品種の“質”は低くなり、非組み換え種子の確保も大変難しくなっていく。

 トウモロコシの用途をエタノールと食品、飼料へと広げ、エタノールと飼料を一緒に生産する荒技も披露し、遺伝子組み換え問題も絡めて価格つり上げを目指す米国。「食料をエネルギーにすると、開発途上国に食料が行き渡らなくなる」という倫理的な批判はこれからますます強まるだろうが、自国の繁栄を目指し世界の主導権を維持するための飽くなき努力は認めざるを得ない。江藤さんによれば、後継者難に悩んでいた米国のトウモロコシ農家の元に、都会から子どもたちが戻ってきているという。

 一方の日本は、国産バイオ燃料600万kLなどと目標を掲げても、前途はなかなか多難(本欄昨年12月6日付参照)。トウモロコシもダイズも作れないまま、のほほんと「非遺伝子組み換えでなきゃいや」 という国民性。背筋が寒くなってくるのは、私だけだろうか。(サイエンスライター 松永和紀)

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