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松永和紀のアグリ話

滋賀県はエセ有機を始めようとしているのか

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2007年2月21日

 「滋賀県がトンデモ計画案を今、パブリックコメントにかけてますよ」。ある研究者から連絡をいただいた。環境こだわり農業推進基本計画案である。農水省かいわいで「滋賀県は、エセ有機を始めようとしているのか」と話題になっているという。なるほど、ヘンな文言がある。

 滋賀県は、「より安全で安心な農産物を消費者に供給するとともに、環境と調和のとれた農業生産を進めることによって、本県農業の健全な発展と琵琶湖等の環境保全を目指す」として2003年、「滋賀県環境こだわり農業推進条例」を制定した。基本計画も定め、07年度までの5年間の期限としていたが、国の環境保全型農業に関する施策などが変わったため、この3月に新たな基本計画を制定しようとしている。

 パブリックコメント(28日まで)にかけられている基本計画案では、期間を2010年度までとして数値計画(2010年度)を設定。エコファーマーの認定数5000人(06年度は114人)、化学合成農薬の使用量は2000年と比較して30%削減(同20%削減)、家畜排泄物の堆肥化率93%(同82%)などとしている。

 このほか、環境こだわり農産物(化学合成農薬および化学肥料の使用量を慣行の5割以下に削減するなど一定の基準を満たし県が認証したもの)の栽培面積を1万2000ha(06年度は5865ha)などの目標も定め、滋賀ブランドの確立も目指している。

 このあたりにも、個人的には異論があるが、まあいい。変なのは、「遺伝子組換え技術を利用して育成された種苗等は有機農産物の日本農林規格に準じて、使用しないものとします」と書いていること。(基本計画案 4ページ)

 ポイントは、「準じて」という言葉。準ずるという言葉を「参考にする」という意味で使う人は多いが、法律・行政用語としてはまったく重みが違うという。準ずるは「同等のものとして取り扱う」という意味だそうだ。つまり、この基本計画案は、遺伝子組み換え部分に関する取り扱いだけ、「俺たち、有機だもんね」と言っているようにも受け取れるのだ。

 有機JAS規格では、基準をすべて満たすものしか「有機農産物」と名乗るのを許していない。民間を指導し規範を示すべき県が、規格の一部しか満たさないものを公文書で「有機農産物の日本農林規格に準じて」などと書くのはいくらなんでもまずいよ、というのが一部の人たちの指摘である。なかなか微妙である。一部の文言を問題にするなんて揚げ足取りだ、という反応もあるかもしれない。

 私自身が興味深く思うのは、ちょっと別の角度から見ているからだ。「有機農業」と「遺伝子組み換え」、そして「環境にこだわる」という概念の混乱を、これほど如実に表している公文書もない、と思う。

 一般消費者にとっては、何の不思議もないかもしれない。「だって、有機農業は環境にいいものなんでしょ」「有機農業は、遺伝子組み換えを禁じていますよね」「だから、環境にこだわるなら、遺伝子組み換えは使っちゃいけないんですよ」の三段論法である。しかし、客観性、公平性を保たなければならない行政には、やっぱり科学的な根拠に基づいて考えてほしい。

 現状認可されている遺伝子組み換え品種は、カルタヘナ法に基づく審査で野生動植物等へは影響を与えない、とされたものだ。一方、「生態系に影響する」と指摘する識者や反対派市民団体もある。

 また、遺伝子組み換え品種の利用によって「農薬の使用量が大きく減る」という研究結果や農業現場での実績が報告されている。反対派は「農薬の使用量が逆に増えている」などと主張することも多かったが、この2、3年の「根切り虫耐性」が導入されたトウモロコシなどでは、やはり減農薬と収量増の効果は顕著のようだ。

 いずれにせよ、作物の種類や導入されている特性によって状況は大きく異なる。環境影響について、「遺伝子組み換えは」とひとくくりにして確定的に言えることは何もない、というのは、滋賀県も認めざるを得ない事実だろう。

 有機農業が遺伝子組み換えを利用しないのは、天然物質を使い化学的に合成された資材は極力使わない、というのが理念だからだろう。有機農産物の規格改正が昨年秋に行われたのだが、ついに、微生物農薬の一部も使用禁止になった。菌体そのものを製剤化したものは使って良いが、菌が持つ農薬活性物質を抽出して作った製剤は、使ってはいけないという。私から見れば、有機農産物の規格は、科学に基づくものではなく、理念を具体化したものだ。

 滋賀県が有機がいいというならば、その道を進めばいい。立派な有機農業県になってください。でも、化学農薬も化学肥料も微生物農薬もほどほどに使いながら、でも種苗だけは有機の理念で、というのは、やっぱり整合性がない。県としてのポリシーがない、と見えてしまう。「いいとこ取り」は尊敬されない。

 どの自治体も、住民に尊敬される姿を見せてほしい。これは、一市民としての切なる願いである。 (サイエンスライター 松永和紀)

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