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松永和紀のアグリ話

有機農産物も地産地消も、環境によくない場合が…

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2007年3月14日

 有機農産物や地産地消でできた食品をおおかたの人は、「絶対的な善」と思い込んで疑わない。しかし「食の持続可能性」という観点から見れば、それほど単純に評価できるものでもないようだ。最近、有機農産物や地産地消の環境影響を問題にする研究が出てきており、有機農業の盛んな英国では結構な話題になっている。内外の研究成果を、ご紹介しよう。

 英国のDepartment for Environment, Food and Rural Affairs (DEFRA) が2月に公表したのは、「食品生産と消費における環境影響」というタイトルのリポート。Manchester Business School(MBS)の研究者がまとめたもので、MBSがプレスリリースしており、Independent紙も記事にしている。

 従来、有機農産物は農薬や化学肥料を使わないことで「環境によい」とされてきた。また、地産地消も輸送距離が短いことで評価されてきた。しかし、食品の生産と消費が与えるトータルの環境負荷の中では、それらはほんの一断面に過ぎない。

 栽培においては土壌を消耗し水を消費し、肥料の養分が水系に出て行って汚染もする。機械の使用やハウス栽培は石油消費につながる。輸送や加工、冷凍、包装なども環境負荷となる。

 今回のリポートでは、計150の農産物や加工食品をとりあげ、farm to fork、すなわち畑から食卓までのさまざまな環境影響を洗い出して検討している。個々の数値については既存の学術論文にあるものを用いる。「ライフサイクルアセスメント」(LCA)手法と呼ばれるやり方だ。

 そして、衝撃の結果となった。例えばトマト。有機栽培の場合、1tのトマトを生産するのに122m2の畑が必要だが、慣行栽培であれば19m2ですむ。また、英国ではトマトは加温してハウス栽培せざるを得ず、スペインで加温せずにハウス栽培するのと比較すると100倍のCO2を発生してしまう(トマト1kg当たり)。どうも、地産地消にこだわるよりも、スペインから慣行栽培のトマトを運んできた方が環境負荷は少なくてすむようなのだ。

 また、有機牛乳を生産するには、1L当たり1.23kgのCO2を発生するが、慣行的な方法による牛乳は1.06kgの発生ですむ。必要な土地の広さも、有機牛乳の方が80%多い。ほかにも、さまざまな食品で具体的な数字が挙げられて、思い込みが覆されていく。

 最終的にMBSは、次のようにまとめている。
・有機食品の環境に対するベネフィット(便益)は、はっきりしない
・地元産の食品を買うことと、グローバルに流通する食品のどちらがよいか、ということについてもはっきりした証拠がないが、いくつかの食品についてはむしろグローバルな生産流通の方がよい
・個々の消費者が車を使って買い物をするインパクトの方が、食品の生産流通システムにおける輸送よりも大きい

 なにせ、200ページの大部のリポートなので、ほかにも重要な事柄が盛りだくさんである。ただし、このリポートでは、有機農業が生物多様性に与える好影響や景観を改善する効果などについては取り上げていない。また、既存の数値を使って、とにかく「エイヤッ」とおおまかな環境影響を見てみました、という手法なので、批判も多い。英国の有機農業関係者の間では異論がさまざま出ている。

 しかし、「全体像を科学的に把握して、持続可能な生産消費を模索する」というDEFRAの姿勢は、科学者の間では高く評価されているようだ。

 残念ながら、国内では農水省も有機農業関係者も、まだこんなレベルの話は考えていないようだ。関連する研究を探してみたのだが、学術的に確かなものは見あたらなかった。相変わらず「農薬と化学肥料を使わないから良い」という話にとどまっている。

 ただし、食品のLCA研究は、大きく進み始めている。日本LCA学会の第2回研究発表会が3月7日から9日に開かれ、食品研究会特別セッションも行われている。このセッションには、興味深い研究が目白押し。「日本LCA学会食品研究会の紹介」「イチゴジャムのLCA試算」などぜひご一読いただきたい。
 中でも、「日本国内で消費される生鮮トマトのLCI」の講演要旨には、次のように書かれている。「暖房を必要としない地域でトマトを生産し、輸送することによって、大きなCO2削減効果が見られた。これらのことから、CO2排出の削減のためには温度管理における省エネルギーが非常に重要な課題であるとともに、いわゆる地産地消をやみくもに推進することは得策ではないことが明らかになった」。 期せずして、DEFRAのリポートと同じ結論になっている(これらの講演要旨は、ウェブ上で読める。日本LCA学会第2回研究発表会からリンクされている「抄録」の3ページ目)。

 今後は国内の農業・食品・流通関係者にも、環境影響についてもっと真剣に考えてもらいたい。なにせ、食料生産が環境影響の少ない持続可能な姿にならない限り、「必要な食料をしっかりと確保する」というもっとも重要な「食の安全」は守れないのだ。(サイエンスライター 松永和紀)

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