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松永和紀のアグリ話

安全な食品ではなく環境負荷の低い食品がトレンド

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2007年3月28日

 もう「安全な食品」は時代遅れ、これからは「環境負荷の低い食品」 を食べるのがトレンドだ—-。そう書いたら、語弊があるだろうか。もちろん、一定の安全を守るための仕組みは必要。しかし、「食の安全・ 安心を守る」とさえ言えばなんでも通るような最近の風潮はいただけない。統一地方選の候補者のマニフェストに躍る実体のない「食の安全・ 安心」にも、もううんざりだ。リスクを限りなく小さくするような行き過ぎた安全志向の影で、損なわれて行く環境に目を向けないと、食は本当に危うくなってしまう。

 例えばBSE(牛海綿状脳症)。この数年、米国産牛肉を巡り長 い経過がありいろいろな情報が飛び交ったが、私がもっとも問題だと 思ったのは昨年初め頃の某キャスターのこんな言葉だった。「米国産牛肉ではなく国産牛肉を食べましょう。それなら安全ですし、日本の農家を支援していくことにつながります」。
 でも、国産牛肉を生産するのに必要な飼料の自給率は極めて低い。今年1月、農水省畜産振興課などがまとめた「飼料をめぐる情勢」によれば、肉用牛の繁殖経営では飼料自給率56%だが、肥育経営 で4%、ホルスタインの雄牛肥育では2%しかない。
 飼料として与えられるトウモロコシにしても大豆滓にしても、かなりの割合が米国産。こうなると、米国から肉を輸入するか飼料として輸入するか、という話にしかならず、米国依存の構造は何も変わらない。むしろ国産牛肉として食べる方が、大量の飼料を運ぶために大量の石油資源を使い、飼料の大部分は家畜糞尿として放出することで環境に負荷をより大きくかけることになり、たちが悪い。なにせ、牛肉1kgを 作るのに飼料が11kgも必要なのだ。
 「飼料の国産化による資源循環を目指す」ところまで話を持って行か ないと、何の解決にもならない。キャスターの「国産牛肉安全論」は、 米国に対して厳しい態度をとっているようでいて、実は依存を目に見えないものにする。それだけに、罪深い。
 消費者はこの構造を知ってやっと、「国産飼料を食べさせた肉を買う」という消費行動の価値を理解できるはずだ。単に肉を買ってお腹を満たすだけではなく、飼料を作る国内農家と畜産農家に対価を払うことが将来の再生産に結びつく。国産飼料を食べさせて作った国産肉は、輸入肉に比べてかなり高めになるはずだが、国内農業の持続と農地・環境 の保全、その結果得られる将来の食料自給力の代金を上乗せして支払うのだ、と考えればいい。
 先日も、有機農産物の状況を調べて半ばあきれてしまった。有機農産物は第三者機関による認定格付けが必要。国内で格付けされたものは年間4万8000t、農産物の全生産量の0.16% (2005年度)にしかならない。一方、海外で格付けされたもの(ほとんどは、日本に輸入される)は144万t(同)で、急増している。実際に店頭で目立つのも、海外で栽培された農産物から作った有機うどんや有機ジュースなどだ。
 有機食品を買う人は安全志向のようだが、有機食品が安全だという証拠はどこにもない。それなのに、大量のエネルギーを使って運ばれてくる有機食品を愛好する“おしゃれな人々”は、相当に格好悪い。だからこそ、「環境負荷の低い食品を選ぶ」ことの格好良さを、これからトレンドにして行く必要がある。
 前回、食品のライフサイクルアセスメント(LCA)について紹介した。LCAは、企業が商品を製造し消費される各段階で、環境に及ぼす影響を把握し、削減していくための手法である。環境省のウェ ブサイト内に、LCAを解説したページhttp://www.env.go.jp/ policy/lifecycle/がある。家電製品や容器などにおいては、製造企業にかなり浸透してきたが、食品企業ではこれからである。
 実は日本でも、農業におけるLCAについてはかなり以前から研究が行われてきた。独立行政法人農業環境技術研究所は、「環境影響評 価のためのライフサイクルアセスメント手法の開発」というプロジェク トを1998年度から2002年度まで設置して研究を行い、報告書をまとめている。
 また、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構でも、さまざまな角度から研究が行われている。例えば、東北農研チームによる「地域自給飼料を活用した日本短角種の生産は地球温暖化負荷が低い」が面白い。日本短角種は、飼料イネを食べさせることで肥育が良好になり肉質が改善するという発表もある。
 こういうことを、消費者が知らない。だから、消費行動の変化に結びついていかない。だから、生産現場も変われない。私は、飼料の国産化の牽引策として休耕田での飼料イネ栽培に期待をかけているのだが、残念ながら栽培面積は4594ha(2005年度)。前年に比べてほんの少し増えているだけだ。
 昨年、埼玉県大里農林振興センターを訪ねた時、乳牛に飼料イネなど 地元で栽培された飼料を主に食べさせて生産した牛乳、「農家限定うしのちち」(埼北酪農業協同組合が製造販売)をいただいた。すっきりした味で、驚くほどおいしかった。「飼料イネも、これならいける」と思ったものだ。おそらく、飼料イネの効果だけではなく酪農家など関係 者のさまざまな努力が実を結んでいるのだろう。(同センターの紹介ページ参照)
 こういう商品の大きな価値に、消費者が気付く必要がある。「食の機能と安全」サイトで環境について書く理由を、どうぞご理解ください。(サイエンスライター 松永和紀)

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