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松永和紀のアグリ話

不二家事件の報告書を読んでマスメディアは猛省を

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2007年4月18日

 菓子メーカー、不二家のさまざまな問題を調査していた「信頼回復対策会議」の報告書が公表されてもうすぐ3週間になる。多くのマスメディアは、TBSの「みのもんたの朝ズバッ」に対して報告書が「報道内容に誤りがあり、捏造の疑いすらある」と指摘したことを重点的に報道した。しかし、報告書を今一度、よく読んでほしい。報告書が批判しているのは「朝ズバッ」だけではなく、マスメディア全般だ。

 不二家は、ウェブサイトで報告書など関連資料を公表している。報告書は、不二家の信頼失墜の原因として次の3点を挙げる。
(1)衛生管理、品質管理が経験と勘に依存しており、その適正さを客観的に担保する社内体制が構築されていなかった
(2)経営上の意思決定を適切に行っていく体制、すなわちコーポレートガバナンスが欠如していた
(3)マスコミ報道に多くの問題があった

 (3)では、「食品業界の実情や食品衛生に関する法令について無理解」と「不二家バッシングに乗じ、それを煽るかのような誤報や捏造的報道があった」とし、後者として「朝ズバッ」の報道内容だけをわざわざ別紙資料で説明している。

 ちなみに、実は私も間違えた。2007年1月17日付記事で、シューロールが一般生菌数640万個/gという検査結果が出ていたにも関わらず出荷していたことに触れ、「洋生菓子は旧厚生省が1983年に定めた衛生規範により、細菌数(生菌数)が製品1gにつき10万個以下と定められている。この基準を満たさない限り、販売してはいけない」と書いた。

 しかし、この数字は規範である。規格基準とは違い、「販売してはいけない」とするのは誤りで、「この基準を満たさない製品は販売を慎むべきだ」が正しい。自分で規範と書いておきながら混乱してしまった。これについては読者の皆様にお詫びしたい。

 報告書によれば、この規範と規格基準を混同する事実誤認を多くのメディアがしたらしい。もう一つの典型的なミスの例として、報告書は大腸菌群と大腸菌を間違えて「大腸菌検出」と報道されたことを挙げている。

 だが、報告書を受けて、自ら「○日付の記述に誤りがありました」と総括したうえで、この件に関する報道を続けているメディアは、私が見る限り一つもない。そもそも、報告書が行数を割いて報道全般を批判していることを報道したメディアは、朝日新聞などごくわずかしかない。そしてやっていることは、「朝ズバッ」と「信頼回復対策会議」の“けんか”を面白おかしくつたえること……。

 各メディアが、読者や視聴者に対して間違った情報を提供したまま正さない訳で、これは相当に不誠実な姿勢ではないだろうか。

 「信頼回復対策会議」の報告書を読んだ人は、さらなるメディア不信に陥ったに違いない。食品業界では、「よくぞ言ってくれた」「不二家は被害者だ」というような見方が広がっている。

 しかし、私はこちらの見方にも問題があると思っている。やっぱり、不二家には食品企業として大きな問題があった。

 「信頼回復対策会議」の報告書には別紙資料二つが付けられており、一つが「朝ズバッ」問題の解説。もう一つが「品質管理関連の実態調査」。そして、後者には実は、食品企業として信じがたい実態が、明確に記されているのだ。

 不二家では、製品の微生物検査がかなり多くの件数行われていたが、検査方法を簡略化して行うなどの不備があり、検査の信頼性は低いものだったという。例えば、発酵乳を用いて作るチーズケーキタイプの商品の一般生菌数を測定する際に、原材料が本来持っている乳酸菌もそのままカウントしているのにそのまま検査結果としてしまうような状況だった。

 また、社内で消費期限を定めてあるにも関わらず、一部の工場が勝手に延長していた行為も、食品に対する科学的なリスク管理が行われていなかったためのようだ。消費期限について、中小企業の中にはまだ、食べてみて大丈夫であることを確認したうえで職人の勘で「エイヤッ」と決めてしまうところがある。だが、もちろんそんな方法ではダメで、微生物検査や理化学検査、官能検査、保存実験などを基に可食期間を求め、それに一定の安全係数をかけ算して決定するべきだ。

 不二家はどうも、「エイヤッ」型に近く、それ故に「消費期限を守らなければ」という意識も薄かったようだ。

 食品企業の関係者の中には、「不二家は誰一人として死なせていない。誰一人としてお腹を壊していない。なのに、存続の危機にまで追い込まれるなんてひどすぎる」と言う人が結構多い。特に、微生物の増殖について知識がない人が、そう考えているようだ。しかし、私はこの資料を読んで改めて、「潜在していたリスクは非常に大きかった。やはりこの企業は以前に書いた通り、『これまで働いてきた人たちには大変気の毒だが、もうこの会社に食品を作ってもらっては困るというレベル』だった」と考えている。

 異論は多いだろうが、私はそう考える。不二家くらいの歴史と規模を誇る企業であれば、業界の規範としての行動を求められると思うからだ。不二家は今、懸命に安全と品質管理の向上を目指している。

 食品企業は、報告書のマスメディア批判を喜ぶのもいいが、こちらの別紙資料も熟読して自分の社に同様の問題がないかどうかチェックするべきではないか。

 不二家問題は今、一方に振り切れていた時計の振り子が、逆側に大きく振り切れてしまって戻ってこない。つまり「危険な食品を提供した危ない企業」から「マスメディアの被害にあったかわいそうな企業」に変貌したままなのだ。

 振り子はやっぱり中心に戻したい。不二家はまず第一に、食の安全における適正なリスク管理を怠った企業であり、メディアに問題を追求された時にも科学的な根拠を挙げて説明することができなかった。それに乗じて、勉強不足のマスメディアが過剰なバッシングを繰り広げた。

 不二家は改善へ必死の努力を続けている。そして、メディアは反省の気配も見せない。ああ……。メディアの片隅に棲息する者としては、嘆息するしかない。(サイエンスライター 松永和紀)

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