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松永和紀のアグリ話

情緒優先の“EU並みに”では、GM表示は変われない

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2007年5月9日

 遺伝子組み換え食品の現行表示の変更を、という話題がよく聞かれるようになった。グリーンピースは、法改正を求めて100万人署名活動を始めている。目標はEU並みの表示だという。同様の主張をするマスメディアも出てきた。だが、私から見れば、この「EU並みに厳しく」という主張にはごまかしがある。

 まず、現行の表示制度を少し振り返ってみよう。対象はダイズやトウモロコシなど7作物とその加工食品(豆腐やコーンスターチなど32食品群)。生産流通において分別管理された遺伝子組み換え農産物(GMO)を原材料とする場合は「遺伝子組み換え」、組み換えと非組み換えを分別していない農産物を原材料とする場合は、「遺伝子組み換え不分別」と表示することが義務化されている。

 分別管理された非組み換え農産物(non-GMO)を原材料とする場合は、表示は不要だが、「遺伝子組み換えでない」と表示してもよい。この時、GMOの混入は5%以下ならば「意図せざる混入」として容認される。

 ただし、7作物から作られる加工食品のうち食用油やしょう油は義務表示の対象外。加工後には遺伝子組み換え技術によって導入されたDNAやたんぱく質を検出しにくくなり、GMOとnon-GMOのどちらを原料として使ったのか科学的に判断できなくなるためだ。(このほか、上位3品目だの重量5%以上だの、細かい規定があるが、詳しいことについては、社団法人農林水産先端技術産業振興センターのQ&A集などで確認していただきたい)

 では、EUの制度はどういうものか。

 EUは、すべてのGM食品が対象で食用油にも表示義務がある。また、日本ではGM飼料作物は表示制度の対象外だが、EUはGM飼料作物も対象としている。ただし、GMOを飼料として生産される肉や卵などには表示義務がない。そして、表示義務を免れる「偶発的な混入」(Adventitious Presence)の許容値は0.9%である。この数値よりもGMの混入が多ければ、表示しなければならない。

 これらのことから、日本で「EU並みに」と言う人たちは「食用油や飼料も義務表示の対象に」「意図せざる混入の許容値を0.9%以下に」の2点を強調し「消費者の誤解を招かぬように厳しくするべき」と主張する。

 しかし、EUに本当に習って消費者の誤解を解こうとするなら、考えるべき項目と順位は違うのではないか。私なら、日本の表示制度の変更を次の順番で考えたい。
1)「遺伝子組み換えでない」という任意表示の欺瞞と非科学性をどうするか
2)EUのように油まで義務表示にすると、科学的に検証できる食品と検証できない食品を同じ土俵に上げることになる。この不公平性をどうするのか
3)そして最後に、どの数値以上にGMOを含有する食品に対して表示義務を求めるのか、数値を検討する

 なによりも重要なのは、1)の「遺伝子組み換えでない」という任意表示を科学的に再検討することだ。EUの規制は、表示が真実であり誤認を表示させないことを求めている。したがってEUでは、「遺伝子組み換えではない」という表示のある食品はGMO含有率がゼロ。これが、「表示にウソがない」ということだ。さすがにEUでも「遺伝子組み換えでない」と表示されている食品は、非常に限られているそうだ。何の表示もない食品は、あくまでもGMO混入率0.9%以下であり、ゼロは保証していない。

 日本は表示制度を作った2000年当時、5%以下であれば「遺伝子組み換えでない」と表示しても良い、と決めてしまった。「ない」と書いてあるなら「ゼロ」と考えるのが常識なのだが、ごまかしを国が認めてしまい、それが優良誤認につながっている。

 現在の日本のマスメディアの論調は「『遺伝子組み換えでない』と表示されている食品を買っても、5%まではGMOが混入している可能性がある。これは誤解を産むので、GMO混入率を0.9%以下に厳しくすべきだ」というもの。しかし、この主張は、単に5%という数字を0.9%にすり替えただけで、意味がない。EU並みにする、というのであればまず、ウソ表示を止めなければならない。

 その次に考えるのが、2)の義務表示の対象品目である。店頭に並んでいる油をいくら分析しても、取り締まったり指導することができない。豆腐は検査で厳しく規制し、油は企業の揃えた書類で確認するだけ、というようなことが行政として許されるのだろうか。これは意外に難しい問題だ。

 そして最後にやっと、許容値をどうするか、である。0.9%か、5%か。これについては、現実にできるかどうかが重要だ。表示制度ができた00年当時、農水省の担当者は「5%程度でないと、現実に分別流通させるのは無理」と言っていた。グリーンピースは5%を「必要以上に高い混入許容値」と表現している。

 たしかに、ダイズは現在も混入率はかなり低いようだ。混入許容値0.9%でコントロールすることも可能かもしれない。しかし、トウモロコシは違う。日本に輸入されるトウモロコシの9割以上は米国から輸入されている。米国は、バイオ燃料ブームでトウモロコシ価格が急騰。一方で、日本向けnon-GMは分別生産管理に手間取るため嫌われ、今年のGM作付け比率は80%から85%程度になる見込みだ。しかも、トウモロコシは他家受粉する。

 つまり、GMの混入可能性はかなり上がってきていると考えられる。そのうえ、スタック品種(複数の形質が導入されたGM品種)の作付け割合が急増しており、検査でGMの混入率が見かけ上、2倍、3倍となって出てくる。

 実際に、食品加工用トウモロコシの業界関係者は「来年あたり、5%超えのケースが相次いで出てくるのではないか」と懸念している。5%で青くなっているというのに、0.9%以下を求めるなど到底無理。どうしても0.9%以下で分別生産流通を、と言うならば、莫大なプレミアムを要求されるはずだ。これは、トウモロコシの加工業者や食品企業で吸収できるような金額ではない。直接消費者に跳ね返り、間違いなく食品の小売価格が上がる。

 EUが簡単にどの作物についても0.9%としたのは、基本的に自給率が高く、域内でnon-GMOを生産できるからだろう。EUはトウモロコシを年間700万tあまりしか輸入していない(04年)。そのうちの約68%がGMと表示されたという。日本が米国から輸入するトウモロコシは年間1600万t(05年度)。米国に依存する日本と、EUは事情が根本的に異なっているのだ。

 表示制度は、こうしたことをきちんと整理しながら改善してゆくべきものだと思う。たしかに、遺伝子組み換えの表示は分かりにくい。誤解を招かないように変えてほしい。その際に必要なのは、EU並みに厳しくという“情緒”ではなく、いかに科学的で公平で現実的で分かりやすい制度にするか、という緻密な議論と検討ではないか。(GMOワールド4月2日付でも、韓国の制度に絡めて日本の表示制度を考察しているので、ご一読を)(サイエンスライター 松永和紀)

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